表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
決着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

303/382

そんなわけで、こっそり説明希望。

「そうか、ユミェスの駒ごとあの男を殺そうとしたか。報告ご苦労、ワシェクト」


 ヌーフサ兄さんは私の報告を聞き、ため息を漏らした。今回仕掛けたのは恐らくチサンテ兄さんの方だろうが、ユミェス姉さんの駒の情報を提供したのはユミェス姉さん側だろう。邪魔者を排除するためにあの二人が互いを利用し合うことはそう珍しいことではない。


「ヌーフサ兄さんはどちらの仕業だと?」

「どちらでも変わらん。愚かな真似をしたことには違いない」

「彼の人となりを考えるに、効果はあったと思いますが」

「お前が理解した上で協力的な姿勢を見せていることは知っている。あの男は誰の目から見ても臆病だが、チサンテもユミェスも臆病の意味合いを勘違いしている。アレは追い詰めるべきではない類だ」


 だろうなとため息が伝染る。臆病な人間は大きく分けて二つのタイプに分かれる。一つは恐怖から逃げようとし、もう一つは恐怖を排除しようとする。彼がどちらかは言うまでもない。ユグラの星の民の個人としての能力を度外視したとして、あの手のタイプは下手に追い詰めてはいけないのだ。


「ヌーフサ兄さんは彼のことをよく分析しておられる」

「無難に生きたいと願いながら、魔王に挑むような男なのだから考えるまでもない」

「違いない」


 チサンテ兄さんやユミェス姉さんは自らの成功の経験に基づいた行動しか取れていない。これは私やヌーフサ兄さんのせいとも言えるのだが、被害を受けた側としてはその責任を負いたいとは思わない。


「火消しの用意はこちらでやる。お前はヒルメラの手綱を徹底して握っていろ」

「あの子はあの二人よりも頭が回ります。彼の敵になることは――」

「ヒルメラの護衛であるムールシュトが、先の件を起こした暗部を殺害している。死体を隠そうともしていない狂人っぷりだ」


 ムールシュトの名前に思わず表情を硬くしてしまった。ヌーフサ兄さんは不確かな情報に踊らされることはない、そう言うのであればそれは事実なのだろう。


「……その情報はどこから?」

「事件が起こる少し前にムールシュトを監視していたチサンテ、ユミェスの駒が殺された。監視を殺した武器と、暗部達を殺した武器の形状は一致している」


 ヒルメラがそう命じた可能性もあるだろうが、どちらかといえばムールシュトの独断による暴走行為と考えるべきか。ムールシュトはヒルメラを守る剣としては文句のない存在だが、それ以外では色々と問題を感じる点も多い。


「ヌーフサ兄さんの部下は殺されなかったのですね」

「アレが不穏な動きをした場合、監視を中断し報告を優先するように命じてあるからな」

「……ヒルメラには部下に無茶をしないよう、釘を差しておきますよ」

「そうしておけ。自分とお前の『秘密』はあの子に背負わせる必要はない」


 秘密、か。この国の王族は誰もが秘密を抱えて生きている。そのどれもが罪深いものであり、背負わなければならない業なのだ。

 私の願いはたかがしれている。だがその願いを叶えるためならば……この手を汚す覚悟くらいはあるつもりだ。例え愛しい妹の頭を撫でてやることができなくなったとしても。


 ◇


「どう?ユグラの星の君に動きはあったかしら?」

「はい、ありました。ユミェス様の息のかかった貴族数名に対し、接触があったようです」

「あれだけの目に遭わせてあげたのに、あの人ったらまだ懲りていないのね」


 名前はなんと言ったか、まあどうでもいいことよね。駒の一つにあの人が妙な執着を見せたのだから、それを利用しない手はないとチサンテに誘導を掛けてみたのだけれど……やっぱり使い捨ての駒程度の命じゃダメだったのかしら?

 人の心は千差万別なれども、そこには必ず芯がある。それは生きてきた経験を元に支えている自身か、自らを支えてきてくれた者達のどちらか。

 全てを自力でこなしてきた者はその自信を奪うことで、他者に依存してきた者はその支えを奪うことで芯を折ることができる。

 ユグラの星の君は間違いなく後者の部類に入る。どれほど頭が切れようとも、自身の脆弱さを理解している以上、他人に依存しなくては生きていけない人種。


「やっぱり仲間の命を奪うしかないわね。どう、なにか案は浮かんだかしら?」

「普通の暗殺ではまず無理でしょう。質の高さだけで言えばどれも一級品ですので。療養していた男ですら、一度の探知魔法で暗部の是非を見破った程です」

「最弱の男を守る者達ですものね、質が悪いわけがないわね」


 もちろん無理だと言わせるつもりもない、それは私の配下なら当然熟知している。手段を選ばなければ、自分達に未来がないことを理解している者達の行動力は本当に便利。狂気に染まった発想を持って、猛毒の策を生み出してくれる。


「ワシェクト王子が彼らの物資を補給していますが、その経路は既に把握してあります。次はそちら側から仕掛けていこうかと」

「あらー、良いわね。口にするもの全てが信用できなくなるのはとっても良いわ」


 あの人の口に入るまでに、きっと別の者が被害に遭うことでしょう。それが良い、その方が良い感じに心を削ることができるのだから。


「それで接触された貴族達の話ですが、オークションの件に触れようとしているような様子が伺えます」

「……そう。やっぱり優秀なのねぇ……残念ね」


 あの人が有能であることは理解していたけれど、ここまで丁寧に隠していた秘密を嗅ぎ取られるなんて……。でも無駄よ無駄、そこまでは他の王子達にだって辿り着けるものだという想定で対策をしているもの。私を追い詰めるだけの証拠を揃える頃には、貴方達の仲間はもう――


「ユミェス様!大変です!」

「……騒がしいわね、どうしたのかしら?」

「モファス卿がユグラの星の民の下へ寝返ろうとしていると、ミーコル卿からの密告が!」

「……は?」


 言っていることの意味が分からない。もしもモファス卿が私を裏切れば、それはモファス卿自身の身の破滅となる結果にしかならない。私の協力者は誰も裏切れないよう、自らの首に刃を当てているような状態なのだから。

 ただモファス卿の動きについては詳しく聞く必要がある。そう思っていると別の部下が姿を現した。


「ユミェス様!急ぎ報告することが!」

「今度はなに?」

「そ、その、ミーコル卿がユグラの星の民の下へ寝返ろうとしていると、ポクマット卿からの密告が!」

「な――」


 飛び込んでくる部下はこれだけに留まらなかった。次々と私の息が掛かっている貴族達の寝返りの密告が伝わってくる。その内容はどれもが、私の管理しているオークションに関する情報をお父様に報告しようとしていること。

 しかしそれはありえないこと。オークションを行う際は私の配下を使い、あらゆる証拠を残さないように徹底させている。一貴族が自身の言葉だけで訴えようとも信憑性の欠片もない、妄想事としかとられない。

 貴族達は決して私を裏切れないよう、互いに監視をし合っている。だからといって一度にこの手の報告が畳み掛けるように来ることはありえない。そもそも全てを真に受けていたら、ほぼ全ての貴族が寝返っていることになる。寝返った貴族が他の貴族の寝返りを報告してくるわけがない。


「い、いかがなさいますか?」

「当然だけど全てが事実ってことはないわ。ユグラの星の君がそうしむけたのなら、きっとこの混乱に乗じてなにかを仕掛けてくるはずよ」


 貴族達の間に疑心暗鬼を生じさせ、動揺を誘おうとしている?でもそれで得られるものなんてあるの?


「ユ、ユミェス様!」

「また!?今度は誰?」

「モ、モファス卿がオークションについての告発を!証拠となる書類をセレンデ王の元へ届けに現れたそうです!」

「なんですって!?そんなものあるはずがないわ!捏造に決まっているでしょう!?」


 私の直属の配下が証拠を残させるミスをするはずがないのだから、そんな物は捏造された偽物に決まっている。だけど話はそう簡単な話じゃない。少なくとも領土の管理を任されている貴族、その告発が行われた以上その内容は慎重に調査されることになる。

 もしも本当に裏切ったのであれば、その前提で調査の手がこちらに及ばないように根回しをしておく必要がある。


「ユミェス様!ミーコル卿が国王に告発を!」

「――ッ!?」

「ユミェス様!ポクマット卿が――」

「待って、ちょっと待ちなさい!なんなの!?なにが起こっているの!?」


 ◇


「恐怖の支配というのは非常に強固な地盤となりうる。逆らえば自分には未来がなくなるのだから、そりゃあ誰もが必死になる。だけど『私』から言わせれば、急所を晒しているのも同じだ」


 俺の魔法で姿を不可視状態にしている同胞は、次々と現れる貴族達の様子を城門前で眺めている。手元にあるリストに一つずつチェックを入れ、計画の達成状況を確認しているのだ。


「これは……なにが起こっているのだ?」

「エクドイク。ハッシャリュクデヒトとフェイビュスハスのことは覚えているかな?あれと似たようなものさ」

「『繋ぐ右腕』と『迷う腹』の特異性を持っていた大悪魔だな。紫の魔王との勝負の最中、命令に背き同胞を拐おうとしていた……」


 フェイビュスハスは同胞の記憶を読み取り、異世界の知識と思考の差異を得ようとしていた。しかしその行いにより無色の魔王が定める禁忌に触れ、殺害されることとなり、ハッシャリュクデヒトもデュヴレオリの手によって見せしめとして処刑された。

 どちらの大悪魔も紫の魔王の下で駒として使い潰される運命に抗おうとし、強攻策に出て散っていった。言われてみればこの状況はどこか似ているようにも感じる。


「恐怖に支配されている人間を動かすには、それ以上の恐怖を原動力にすれば良いだけのこと。簡単な話だよ、彼らはユミェス王女に切られる事を恐れている。だから彼らにはその先の恐怖を理解してもらった」

「その先……?」

「王子達のように完全に自分を偽れるのならまだしも、ただ隠しているだけの人物ならば『私』の観察で十分に暴くことができる。どのような立場で悪事に加担し、どのように私欲を満たしていたのかとかね。後は直接面と向い、言葉巧みに具体的な数字や内容をカマかけしながら引き出してやれば良い。そして最後にこう言うのさ、『君はヘマをした。ユミェス王女は迷いなく君を切るだろう』とね」


 確かに同胞の観察力と話術を駆使すれば、まるで本当に証拠を抑えているかのように語ることができるだろう。しかしそれだけで本当に信じるものなのか?


「ユミェス王女や他の貴族に相談されたらどうするつもりなのだ?」

「相談できないのさ。恐怖で作り上げられた支配構造の中にいる者が、最上位の相手や互いに監視し合っている連中に、『言われたことは事実ですが、私は本当にヘマをしたのでしょうか』なんて尋ねられるわけがない」


 なるほど。証拠を掴んだということは嘘でも、その語られている内容は事実なのだ。

 その嘘が嘘であると確信を持てない以上、ユミェス王女と連絡をとることは自殺行為となり、互いに裏切らないように見張っている者達にもおいそれと相談するわけにもいかない。

 ユミェス王女は部下のことを使い捨てにするような相手だ。下手をすれば嘘であっても切られる可能性の方が高い。


「残されたのは……切られる前にユミェス王女という脅威を取り除く道……というわけか」

「そう。彼らは皆ユミェスを恐れているが故、全力でユミェスの手から離れようとしている。きっと多くの偽装された証拠を提示し、どうにか最悪の結末だけは避けようとするだろう」

「最悪の結末……か……」


 貴族の立場からすれば、自らの罪の証拠を押さえられてしまっている状態だ。何もしなければ国から一方的に裁かれる。ユミェス王女に見限られるだけならまだしも、その責任を全て押し付けられる可能性もある。ユミェス王女ならばきっとそれくらいやってくると貴族達は恐怖してしまうのだろう。

 ここまでくると、なぜ最初に貴族達に寝返りの兆候がある旨を報告させたのかも読めてくる。これはユミェス王女を動揺させるためではなく、貴族同士に動きがあることを悟らせるためなのだろう。

 自分一人だけで告発をしようとなれば、恐怖の方が勝って動かなくなる可能性もある。しかし他の者達が自らの保身のために動く様子を見れば、自分も動くべきなのではと揺れる。

 半端に接触しようものならこちらの動きが筒抜けになるほどに強固な関係を、逆に連携ができないように利用してしまうとは……。


「もっともユミェス自身がボロを出さなければ彼女が裁かれる可能性は低いだろうけどね」

「そうなのか?」

「元々証拠を残すようなヘマはしていないさ。告発した貴族達が用意した証拠なんてものは全て効力に乏しいものばかりだ。でもこれだけ多くの貴族に裏切られた以上、ユミェスの金策ルートは大打撃だ。嫌でも自分が貴族達に依存していた人種だと思い知らされることになるだろうね」


 同胞が行ったことは、一度に多くの支配される者達に嘘を教え込んだことくらいだ。ただそれだけで王族ほどの有力者が長年に渡って築き上げてきた地盤を台無しにしてみせた。


「……ユミェス王女の方はこれで十分というわけだな?」

「そうだね。『私』としては彼女に拐われ、売られる者達の気持ちを味わわせるプランもあったが……それは彼女が反省の色を見せなかった時に考えるとしよう」


 人の一人称に過剰に反応することなど、同胞絡みでなければそうそうないことだろう。だがやはり違いを感じてしまうな。待機させられているイリアス達も、今頃内心複雑な気持ちでいるのだろう。


「次はチサンテ王子だったな。デュヴレオリを呼び戻していたが、どのように仕掛けるつもりなのだ?」

「ユミェスはトッパラの情報を売った程度だからね。ほどほどにしておいたけど、直接暗部をけしかけたチサンテにはもう少し過激な手段を取るつもりだよ」

「戦闘になるのか?」

「いいや、そんなことにはならないさ。むしろ護衛はいらない。『私』とチサンテ、二人きりで話をして終わらせるつもりさ」


 この一人称の時の同胞にはあまり感情に力が入っていない。粛々と対応する時の立ち位置なのだから当然と言えば当然なのだろうが、その申し訳程度に見せる柔らかい笑顔は不気味さしか感じない。

 ただまあ、一つだけはっきりとしていることは……どの立ち位置の同胞でも肝心なところの説明をしっかりしない悪癖は健在だということだ。


全ての立ち位置の主人公に共通する『全部説明しない病』、無難に生きたい症候群より重症な気がする。


年末前の最後の更新です。

こうして振り返ると二年以上連載しているわけで、感慨深いものです。

来年のうちには完結させたい気持ちで頑張っていきまっす。それでは皆様良いお年を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ユミェスの今後だけど、 好きに誘導できそうなので、決まっていませんかね? [一言] 304も含めてですけど、「私」様 はまると 強いですね
[一言] 今更だけど、一人称の強調が気になる。 主人公は場面で自身を使い分けますが、重要な場面以外に日常でも一人称を「」で強調しているので、正直要らない。 そういう些細な変化は、読者側の楽しみでも…
[良い点] これぞ「私」氏って感じですね [気になる点] さて、チサンテ王子とはタイマンで会うそうですが、分かりやすい「暴力」も持っている人とそんな風に話す際にどんな感じに斬り込んでいくか楽しみです。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ