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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
開幕編

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132/382

次に機会はもうないだろう。

 リティアル=ゼントリー、外見は貴族風の初老男性にしか見えないこの人物はあの『拳聖』グラドナが全盛期時に加わっていた冒険者グループのリーダーを務めていた生きる伝説の一人です。

 個の実力の高さもさることながら優秀な人材を見つけ出すことに秀でた彼は『真眼』と呼ばれ今のモルガナの上位層の質を高めている重要な存在となっております。


「ミクス様もおられましたか、お久しぶりですね」

「様付けはよしてください、私はモルガナの一員でしかないと以前も言ったではないですか!」

「いや失敬。ですが先代のターイズ王には非常にお世話になりましたから、冒険者として恩人の娘を特別視しないことはできませんよ」


 リティアル殿はターイズ貴族の生まれ、そのせいで王族と知られている私には時折この様に畏まった対応を取って来るのであまり頻繁には会いたくない方なのです。


「今は現ターイズ王の元で仕事をなさっているようですね。サルベは元気でしたでしょうか?」

「ラグドー卿は依然現役です、最近グラドナ殿と手合わせもしていたようです」

「グラドナもターイズに顔を出しているのでしたね、バンも大変でしょうに」

「ええまあ……」

「そういえばグラドナは新しく弟子を取ったとか、その方もクアマに訪れていると聞きましたが、ミクス様――ミクスさんとはご一緒ではないので?」

「一緒に行動している仲間ではあるのですが、彼女はリオドの方へ登録を行う事になりまして」

「おやそれは残念、弟子が壊滅して以来新たな弟子を取らなかったグラドナがわざわざ弟子を取ったと聞いていたのでとても優秀な人物だと思ったのですが」


 優秀どころかグラドナ殿を超えているとは言い辛い、ウルフェちゃんは亜人ですがモルガナでも十分に通用するとは思うのですが……エクドイク殿一人で情報収集させるのも忍びないですからな。


「彼女は亜人でして。今の時代亜人への差別は無くとも目立つことにはなるでしょうからとの事です」

「嘆かわしい、ですが間違っていると言えないのも悲しい事実ですね。格式を重んじるが故に昔ながらの風習が悪い方向に働く、私の代でそれを払拭しきれたのならば事の流れは違っていたでしょうに」


 リティアル殿は亜人への偏見はない、かつての冒険者仲間にも亜人のメンバーは居たのだからあろう筈もない。

 しかしモルガナのトップになったからと言ってやりたい放題にできるわけでもない、政のようですな。


「おっと、失礼。今はラクラさんの加入申請の件でいらしたのでしたね。知人と出会うとつい色々と話し込んでしまう悪癖がありまして」

「いえいえ、お構いなく」

「確かメジスの司祭でウッカ大司教に指南を受けていた方ですね?」

「あら、良くご存じで」

「皆は私の事を『真眼』と言いますが私の長所は耳です、あらゆる情報を聞き逃さないようにしているからこそ優秀な人材を探し出せるのですよ。それでは資料を拝借させてもらいます」


 リティアル殿は私達の持ち込んだ紹介状を読み頷く。


「なるほど、これだけの実績もあり各国代表との関係もあるとなればモルガナへの加入は問題ありませんね」

「それは良かったです」

「しかし以前耳に入れていた評判からはなかなかに信じがたい功績ですね」

「あう」


 ターイズに来る前のラクラ殿の評判は確かに芳しくないものでした。

 戦闘こそ秀でていますが司祭としての仕事の大半がまともにこなせず、ロクな仕事を与えてもらえなかったと聞いております。


「お気を悪くするような質問となるかもしれませんが、私の聞いた噂ではラクラさんはウッカ大司教のお気に入りで特別待遇を受け司祭にまで上り詰めたと聞いています。その辺について貴方自身の見解を聞かせていただきたい」

「んー、特別扱いですか。確かにウッカ様は私に甘い所もありましたからね」


 ラクラ殿、それでは印象を悪くするだけではないでしょうか。

 正直に言うよりもそこは何かしらの見るべき点があったと説明した方がまだ……。


「おや、否定しないのですね」

「ええ、私の活躍したことなんてほとんどが悪魔との戦闘実績くらいですし」

「ふむ、では実力には相当の自信があると?」

「どうなんでしょうか、最近身の回りの方々は色々と凄い方が多くてなんとも」


 ラッツェル卿やウルフェちゃんと見比べたらダメですぞ!?

 あの二人は規格外なのですから、ご友人も方向性が全く別ですし。


「謙遜と見るべきか、それとも……まあそれは直接見れば良いでしょう。どの道モルガナへの加入に関しては私の一存で認められるのですし」

「わぁ、リティアルさんって凄い方なんですね」


 凄いも何もギルドの頂点ですからな……。

 しかし何と言うかハラハラする会話ですな、ラクラ殿はいつも通りなのですがいつも通り過ぎて心配ですぞ。


「後はどのランクで始めるかですね、希望はありますか?」

「ランク?」

「おっと、そういえば説明が足りていませんでした。ラクラ殿、モルガナのギルドメンバーにはランクが定められておりそのランクに応じて受けられる依頼の難易度が定められているのです」

「階級のようなものですか?」

「ええ、ランクには1から10までありましてランク1が最も格が高いとされております。ちなみに私は2です」

「ミクスちゃんって凄いですね! リティアルさんのランクはいくつなのですか?」

「私ですか、ランク1ですね」

「ラクラ殿、リティアル殿はギルドのトップですぞ……」

「ああ、そうでしたね」


 ランク1はモルガナの顔として行動することになりますからな、それこそ他国の王からの依頼を受けるような信用のあるランクです。

 ただモルガナ側からの通達やらが忙しくなるので私はランク2で止めている感じです。

 本来ならば兄様の依頼を受けるのはランク1の方々なのですが私の素性と直接の指名があったので特例として呼び出されたのです。


「ラクラ殿ならばランク4か5くらいでも問題はないと思いますぞ」

「あまり良く分かりませんが、他のランクは希望しても良いのですか?」

「ええもちろん。ただ加入の際には該当ランクに適しているかの簡易的な試験を行わせていただきます。その試験を合格するようならば希望のランクに、不合格するようでしたらこちらが見積もった適正ランクより少し下のランクに登録する形ですね」

「あら、少し下なのですか?」

「ええ、自分の力量を分かっていない者への評価としての措置です」

「なら低い方から始めた方が良いのでしょうか?」

「それでも構いません。ただしランクを上げるにはモルガナでの活動実績と一定期間に行われる昇格試験に合格する必要があります。またその際に上げられるランクは一つまでとなっております」


 モルガナでは加入する際ランク10からではなく好みのランクを指定することができます。

 これは『自分はこのランクに相応しい』と自負できる方へ与えられる機会であり、同時に自分の程を知る洗礼でもあります。

 適正ランクならば実力の向上に合わせたランク上げを行う事ができその実力に見合った依頼が受けられます。

 しかし適正ランク以下に登録されると上がって来るまでの過程がなかなかに辛いと聞きます。

 自分の実力を正しく知るための仕組み、モルガナに加入希望する方々はここで大抵適正ランクより少し低い場所を選んでしまうのですが……ラクラ殿はどう自分を評価するのやら。

 リティアル殿は一枚の羊皮紙をテーブルに置きます、内容はランク毎に応じて受けられる依頼の事例ですな。


「こちらがランク毎に受けられる依頼の例です、参考までにどうぞ」

「うーん……ではせっかくですから一番高いランクが良いです!」


 おっとこれは予想外。


「即決ですか。ではランク2をご希望と言うことでよろしいですか?」

「あら、ランク1ではないのですか?」

「ランク1は特別でして、モルガナでの実績が必要不可欠なのです」

「それは仕方ないですね、ではランク2でお願いします」

「わかりました。試験ではその方の得意分野を見ることになります。自らが誇示できる分野はありますか?」

「戦うこと以外は特にないですね」

「では戦闘能力を見る試験を手配しましょう。暫しお待ちください」


 そういってリティアル殿は一礼して部屋を出て行かれました。

 ラクラ殿の性格からして適正ランクより少し下を選択すると思ったのですが、これはご友人やエクドイク殿の影響でしょうかな?

 こちらの視線を見てか気まずそうな顔をするラクラ殿。


「あのミクスちゃん、私何かダメな事しました?」

「いえ、私的にはラクラ殿の適正はランク3か4と見ていましたので。ラクラ殿の性格ならば自分の実力を少し下に見積もるかなと」

「そういうことですか。でもせっかく試験を受けられるのですから高い方が挑戦し甲斐もあるかなと思いまして」

「向上心が高いのは好ましい事ですぞ! ですがまあ……」

「どうかしましたか?」

「高ランクへの希望は試験に不合格した際により格下に落とされる場合が多いのです」


 ランク4前後の実力者がランク2を希望し、その試験に落ちた際ランク10に落とされたと言う話も聞いております。

 高望みをする者ほど分をわきまえろと言わんばかりの扱いを受けるのですが……まあラクラ殿は冒険者として活動するわけでもないのでランク10でも問題はないでしょう。

 それに戦闘技能を見る試験ならばラクラ殿にも大いに可能性はあります。

 ただ問題があるとすれば一つ、相手は魔物ではなく人間です。

 相手を殺してしまっては不合格、殺傷力の高いラクラ殿の結界魔法は使いにくいものとなることでしょうか。


「戦闘の試験では該当ランクの冒険者との決闘になると思われます、ラクラ殿は対人戦闘の経験はどれ程あるのでしょうか?」

「人間の方との戦闘経験ですか? ええと……エクドイクさんと一回だけでしょうか」


 ……ご友人、大丈夫でしょうかこれは。


 ◇


『マセッタ=ノイチス、君にラクラ=サルフの試験相手になってもらいたい』


 ギルドマスターであるリティアル様からの要請を受け私は迷うことなく承諾した。

 そして今、モルガナの私有地である広場であのラクラと対面している。

 ラクラと最初に出会ったのはユグラ教の信徒として加わった記念すべき日、私達の後見人となったウッカ様の演説を賜っていた時だ。

 私の横にいたラクラはあろうことか開始前から頭をグラグラと揺らしていた。

 ウッカ様の話が終わる時には前の椅子の背もたれに額を擦り付け、子供の様に眠っていた。

 何という礼儀知らず、私は初めて同じ道を歩む者への嫌悪感を抱いた。

 このような者には負けたくない、当初は自らを奮い立たせる悪しき例として役立つだろうと割り切ろうとしていた。

 しかし蓋を開けてみればラクラの能力の低さは目に余るものだった。

 失敗ばかりで課された業務を何一つ満足にこなせない、挙句に反省し改善しようとする意志すら感じられなかった。

 ああ、これは対抗するだけ無駄な相手だ。

 アレを意識していてはこちらのペースが乱される、アレがいるのだから自分はマシだと向上心を妨げる存在でしかないと。

 そう思った私は何時しかラクラを視界に入れないようにしていた。

 他の者達も同様にラクラから距離を取った。

 修行中の身にとって自らを高めるのが本分、それを妨げる存在には関わるだけ無駄だと理解していた。

 一刻も早く司祭になりユグラ教の信徒として世界で活躍する、そのことだけを考えて日々自分を磨き上げた。

 同じ志を持つ友と共に日夜の業務、鍛錬に励み来る日を待ち望んだ。

 だが私達の同期で最初に司祭になったのはラクラだった。

 誰もが唖然とした、納得が行かずウッカ様に訴えた者もいた。

 私もその一人、しかしウッカ様は『然る理由がある』としか説明してくれなかった。

 司祭となってもラクラは変わらない、それどころか失敗がより目に付くようになっていた。

 何故アレが、どうして私達よりも。

 そんな怒りを堪えきれず一度ラクラに決闘を挑んだこともあった。

 だがアレは『対人戦闘は苦手なので』と逃げた。

 立場が上となっているラクラに無理に決闘を行う事は許されず、私の不満は積もりに積もった。

 アレに身の程をわきまえさせる資格すら私にはなかった。

 ならば同じ司祭となる他にない、そうすればと私は一層自分を磨き続けた。

 屈辱を噛みしめながらの修行はとても苦々しい思い出となった。

 私がその次の年に司祭となった時、ラクラは司祭の業務から外されていた。

 失敗により大聖堂を護る結界に多大な被害を与え業務を任せるに値しないと大司教達に判断されたからだ。

 ラクラはメジス魔界周辺の悪魔討伐の任務に回された。

 命の危険が伴う実戦だ、アレが生き残ることは難しいだろうと誰もが思った。

 溜まった鬱憤を晴らす相手がいなくなり私は一時期荒れてしまっていた。

 友人達の助けにより道を正してもらいようやくアレの事を忘れることができた。

 その後は実戦経験を積み、好調に人生を歩むことができた。

 より幅広く行動できるようにとモルガナへの加入を果たし、そこでの活躍も納得のいくできだった。

 司祭でありながらランク2の冒険者としても大成することになったのだ。

 全てが順調、そう思っていたのに。

 突如私の前にラクラが現れた、それも各国の王の推薦状を得て一足飛びで私の領域へ踏み入ってきたのだ。


「久しぶりねラクラ」

「ええと……どちら様でしたっけ?」


 ラクラは昔となんら変わりがない、肉体こそ成長し大人になっているが人を苛つかせる態度は何一つ変わっていない。


「そう、同期の顔すら覚えていないのね」

「まあ、同期の方でしたか! すみません、あまり人付き合いをしていなかったので……」

「積もる話があるのならば今後にしてもらいましょう。それでは試験の内容を説明させてもらいます」


 リティアル様が話に割って入る。

 今後なんてある筈がない、以前は私が後塵を拝することになったが今度は逆だ。

 ならば容赦する必要などどこにもない、いきなりランク2を希望するような愚者に二度と私の前に姿を見せられないよう徹底的に差を示し自分の身分をはっきりと理解させてやる。


「内容は至って単純、あらゆる術を使っての決闘だ。どちらかが負けを認める、あるいは私が勝負ありと判断した時点で決着とします。加減する必要はありませんが意図的に相手を殺傷する行為は厳禁です。双方異存はありませんね?」

「ありません」

「大丈夫です、よろしくお願い致します」


 瀕死となった相手に故意にトドメを刺す行為は決闘の流儀に反するが不慮の事故は当然起きる。

 私の中には殺意が芽生えているかもしれないがそのつもりはない、それでは後悔する時間を与えられない。

 瀕死に追い込み、きっちりと恐怖を植えこむ。


「それでは……始めっ!」


 ラクラに勝機があるとすれば私の意表を突き、何もさせずに勝利すること。

 開幕に何かしらの奇襲を仕掛ける可能性は大いにある。

 まずは周囲に結界を張る、ラクラの服装から魔封石を装着した装備は見受けられないがいつもよりも大きめに展開する。

 これで魔法攻撃による奇襲は通じない、結界の規模から小ぶりな魔封石を隠し持っていたとしても効果範囲外となる。

 対するラクラは……ただ呆気に取られた顔でこちらを見つめている。

 奇襲を封じられたことに動揺しているのか、もしくはただ出遅れているだけか。

 どちらでも良い、護りは完璧だ。

 本来ならば結界を張った状態で魔法を撃つことはできない。

 撃ったところで結界内に拡散し自爆するだけだからだ。

 だが私は違う、遠隔で魔力を操作し結界に接触。

 私の魔力だけを外に浸透させ結界の外で魔法を構築。

 結界の中で魔法が撃てないのならば結界の外で撃てば良い、シンプルな答えだがこれを実現するには尋常ではない訓練が必要となる。


「燃えろっ!」


 魔法を複数合成し、火炎をラクラへと放つ。

 それを見てからラクラは結界を張った。

 ラクラもユグラ教で学んだ身、結界を使えることは知っている。

 火炎魔法では結界を破ることは難しい、火炎は案の定結界に阻まれラクラには届かない。

 しかしこれを結界で防げばそれで詰みだ。


「あら、この炎……」

「そうよ、その炎は込められた魔力が尽きるまで燃え続ける!」


 ラクラの張った結界に炎が纏わりつき、燃え続ける。

 ただの火炎魔法ならば炎が過ぎれば終わり、だけどこの炎は張り付く。

 ユグラ教で習う結界の欠点は移動ができないこと、強固ではあるが維持には魔力消費が大きいこと。

 炎が燃え続ける以上結界は維持せざるを得ない、結界を維持すれば移動ができない。

 魔力が尽きればそれで終わり、これを回避するためには結界を解除し瞬時に魔法で炎を吹き飛ばすしかない。

 だけどこの炎はそれだけではない、一定の衝撃が加われば込められた魔力が一斉に完全燃焼を起こす。

 つまりラクラが結界を解除し魔法で炎を吹き飛ばそうとすればその周囲は爆発する。

 さあ行動してみせろ、それとも魔力が尽きるまで耐え続けるか?


「うーん、視界が悪いですね。移動しましょう、えい」

「……はっ!?」


 今何が起きた、いやそんな馬鹿な。

 ラクラが取った方法、それは展開していた結界を手で押して広げたのだ。

 立方体だった結界、それが横に押したことで直方体となる。

 そしてラクラは広がった結界内を歩いて移動したのだ。

 結界はどんどん横に伸びていく、そして炎がついに途切れた箇所が発生した。


「うわぁ、この炎伸びますね。ここなら良いですかね」


 ラクラは結界を解除すると炎は地面へと落ち虚しく燃え続ける。


「堅牢な結界を伸ばすなんて、非常識よ!?」

「最初は私もそう思ったのですが、魔力で構築されているのですからやってみれば案外伸ばせますよ? 魔力を継ぎ足さないと脆くなりますけど」


 そうなのか、そうなのだろうか?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 ラクラは炎を回避した、だがこれで勝負が終わったわけではない。

 あまりにも意表を突かれて追撃を忘れてしまった。

 結界を拡大することができるのは分かった、ならば拡大した先も燃やしてしまえば良かったのだ。

 結界が大きくなれば維持にも多くの魔力が必要となる、魔力切れを早めるだけの苦肉の策に過ぎないのだ。


「ええと、決闘は相手にも見せ場を作れば良いのですよね? ならもう終わらせて良いですね」


 ラクラがこちらを見つめる、攻撃に来るか。

 こちらは結界に守られている、生半可な魔法ではこの結界は破れない。

 たとえこの結界を破れる程の高威力の魔法があるとしても構築を見てから回避に切り替えれば良い。

 いや、時間の掛かる高威力の魔法を使おうものなら先に私の炎を当てればそれで勝て――


「――え?」


 視界が突如低くなりそして体が地面へと叩きつけられた。

 何が起きた、状況が呑み込めない。

 だが悠長にしている場合ではない、即座に立ち上がって体勢を整え……体勢を……。

 腕が動かない、いや、腕の感触がない。

 首を回し視線を向けると私の両腕がない。

 両腕だけではない、両足もだ。

 視線の先には地面に転がっている腕と足が見えた。

 理解に時間が掛かった、だが理解してしまった。

 私の四肢が切断されている。

 夥しい血が四肢のあった場所から流れている。

 痛みはほとんど無い、それが逆に恐怖を感じる余裕を生み出している。

 そんな、攻撃を受けた?

 だって結界が、あれ、結界がない。

 ラクラは何をした、ラクラは……。

 ラクラは既にこちらに視線を向けていない、リティアル様の方を見ている。


「リティアルさん、流石に胴体と首を切断しちゃうと死んでしまうと思うのですが……」

「え、ええ。勝負ありです! 至急マセッタの止血と治療をお願いします」


 負けた、私は負けたの?

 何をされたかすら分からないのに。

 体中の血が失われ意識が薄れていく、周囲に人が集まってくるのが分かる。

 ラクラは……ラクラは……退屈そうに欠伸をしていた。


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― 新着の感想 ―
人災によるホラー ラクラ災? 当人に敵愾心持っている人ほど、バッキバキに心折られるんだな。 当人ののんびり気質も相まって、不貞腐れず捻くれもしなかったのは、良かったかと。
[一言] ラクラ…容赦ないね…
[良い点] ラクラの攻撃、手加減できないのが難点だよね……
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