AI勧誘と恋愛成就
……何故なのか分からない。絶対に納得がいかない。
「アハハハ! なにそれ! 恩名くん、面白い~」
「え? そう?」
「絶対にそうだよ~」
何故か、スポーツも勉強もできない上に肥っていて顔も良くない恩名が、美人で有名な篠崎さんと楽しそうに話している。学校の休み時間。この二人に接点らしきものはまったく見当たらないのに、何がどうなって仲良くなったのか、はっきり言って意味不明だ。これは最早怪奇現象の類だろう。
「そんなに羨ましいのかい?」
そんな二人を眺める僕に、不意に吉田がそう話しかけて来た。
「何の話だよ?」
「いや、羨ましそうな表情で恩名君と篠崎さんを眺めていたから」
「勘違いだ」
と、それに僕。意図的に恩名達から目を背けると、偶然にもそこには三谷さんがいた。篠崎さんとはタイプが違うけど、やはり美人で有名だ。クールな雰囲気には、ついうっとりとなってしまう。
「恥ずかしがらなくても、健康な年頃の男子としては、正常な反応だと思うよ?」
そんな僕に吉田はそうまた話しかけて来た。また「何の話だよ?」と僕は返す。三谷さんから目を逸らすと、長谷川沙世という気が強そうだけどそれなりに可愛い女生徒の姿が目に入った。ただ彼女は村上という男生徒と話していた。こいつらは付き合っている。
そこでまた吉田が口を開いた。
「恩名君と篠崎さんは、同じAIパートナーを選んでいる。二人の接点はそこだね。村上君と長谷川さんは、元々仲が良かったみたいだけど、やっぱり同じAIパートナーを選択しているみたいだよ」
「それがどうしたんだよ?」
僕が返すと、吉田は澄ました顔で「気になるのかと思って」などと言う。
「別に気にしていない」と、僕は返した。いや、もちろん、嘘だけど。
AIパートナー。
生活から勉強、健康管理、将来の夢、人生設計。様々な相談を請け負うAIによるサービスがそう呼ばれている。
今の時代、急速にそのサービスを利用する人が増えていて、流行に敏感な層は様々なメーカーが提供するそのサービスの良し悪しについて盛んに意見を言い合っていたりしている。僕はまだどこにも加入していない。優柔不断でビビりだから、どのメーカーのどんなプランにするべきか決めかねているのだ。
AIパートナーは、利用者を増やそうと熱心に宣伝活動を行っている。これはどうもメーカーだけじゃなく、AI自体にもそのような行動が観られるらしい。そして、僕の目にはどのメーカーも魅力的に思えていた。
正直、どのメーカーが良いのか分からない。
「宗教が最も確実に信者を増やせる方法って知っているかい?」
吉田がそう言った。
「多人数で無理矢理に勧誘するとか、か?」
「違うよ。そんな勧誘をしたら社会問題になってしまうじゃないか。
実にシンプルな方法なのだけど、子供を産んで、その子に物心つく前から宗教教育を施すのさ。すると、その子供はかなり高い確率でその宗教を信じるようになるのだとか。
今現在、最も信者の増加速度が速いのはイスラム教なのだけど、イスラム教の信者達はたくさん子供を産んでいるらしいよ。なら、教団側は、同じ信者同士で結婚させたがるのじゃないかと簡単に予想できるね」
「それがどうしたんだよ?」
「分からない?」
そう言うと、吉田はクラスの女生徒達をざっと舐めるように見渡した。
「この理屈は、AIパートナーでも同じなのだよ。
子供は親の利用しているAIパートナーを使うだろう? 子供の頃から使っていれば、よっぽどの事がない限り使い続けるさ。そして、AIパートナーは利用者を増やしたがっているのだよ」
僕はそこまでを聞いて、吉田の言わんとしている事を理解した。
「つまり、AIパートナーは同じ利用者同士を結婚させようとするって話か?」
ならば、気になる女の子が利用しているのと同じAIパートナーを利用すれば、その子と付き合えるかもしれないって事になる。
吉田は頷く。
「その通り」
それから彼は三谷さんを軽く一瞥するとこう続けた。
「恩名君と篠崎さんはイズナってAIパートナーを使っている。村上君と長谷川さんはクダ。そして、現在彼氏がいないっぽい三谷さんはイヌガミを使っているみたいだね」
僕はその言葉に目を輝かせた。
「分かった。イヌガミってAIパートナーを選べば良いのだな?」
吉田はまた頷く。
「そうだね。少なくとも、利用し始めれば仲良くなる切っ掛けくらいは作れるはずだよ」
そうして僕はイヌガミを利用し始めたのだった。吉田の言った通り、そのお陰で三谷さんと気楽に話せるようになった。
ただ、しばらく経ってから僕はふと疑問に思ったのだ。
「あのさ、吉田。お前自身は、一体何のAIパートナーを使っているんだ?」
可笑しそうに奴は返した。
「ああ。イヌガミを使っているよ。偶然だね」
それを聞いて僕は思い出していた。
美女で釣って勧誘するのも、宗教団体のありがちな手段の一つである事を。




