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学校はルールを守る事の大切さを学ぶ場、そして……

 「えー! なに、それー?」

 

 朝のホームルーム。

 担任の松田先生が今検討されているという新しい校則を発表すると、教室内の生徒達は一斉に不満を顕わにした。それが男生徒は短髪、女生徒はおかっぱという時代錯誤も甚だしい内容だったからだ。

 「その校則の必要性を教えてください!」

 「いくらなんでも横暴過ぎます!」

 「学校、来なくなるぞー!」

 様々な抗議の声が飛ぶ。

 松田先生はそんな声などにはほとんど頓着せず、「お前ら静かにしろー」と呑気な口調で言った。静かにはなったが、生徒達の不満が治まった訳では当然なかった。

 委員長の松下さんに視線が集まると、彼女は皆を代表して意見を述べた。

 「うちの学校は風紀が乱れているとかそういう事は一切ないと思います。何故、そんな校則を作らないといけないのですか?」

 頭を掻きながら、ぞんざいな感じで松田先生は返した。

 「校則自体にどれだけの意味があるのかと言われたら困るけどな、ほら、あれだ。世の中にはたくさんのルールがあるだろう? ルールを守ることは社会秩序を形成していて、だから“ルールを守る”って経験自体にとても重要な意味があるんだよ。

 先生達は、皆にそういう貴重な経験をしてもらいたい訳だ」

 その説明に、当然生徒達は納得がいかない。「だからって、そんな校則である必要ないじゃん」、「断固反対!」などなどと再び不満の声を上げた。

 そんな中、鈴谷さんは松田先生の態度に違和感を覚えていた。

 松田は多少いい加減だが、気さくな良い先生で、生徒を支配してやろうだとかそんな事を考えるタイプではない。いつも親身に、生徒達に接してくれる。

 そんな先生が、生徒達にこのような校則を強要するだろうか? しかも、まだ決定事項ではないらしい。何故、このタイミングで発表するのだろう?

 「まぁ、とにかくだ。先生達は髪型の校則を作るように進めている。皆、その事についてよく話し合うように」

 松田先生は生徒達の不満を跳ねのけるようにそう言った。そこで鈴谷さんが手を挙げる。

 「どうした、鈴谷?」と松田先生。彼女は淡々と語った。

 「確かに世の中にとってルールを守る事は重要です。ですが、それだけじゃないですよね? ルールは……」

 しかし、彼女がそう言いかけている間でチャイムが鳴ってしまう。

 「時間だな。続きは帰りのホームルームだ」

 そう言って、松田先生は教室を出て行ってしまった。

 

 先生が教室を出て行くと、野戸君が言った。

 「冗談じゃないぞ? そんな無意味な校則を作られてたまるか」

 拳を握りしめて崎森君が応える。

 「ああ、絶対に反対だ。猛抗議してやる!」

 憤る男生徒達を尻目に、鈴谷さんは涼しい顔をしていた。そんな彼女に立石さんが話しかける。

 「鈴谷。さっき、何を言おうとしたの? 強引に言っちゃえば良かったのに。あなたもあんな校則には反対なのでしょう?」

 「あー あれね」と彼女。不満そうな様子は彼女にはなかった。

 「別にいいかって思って。言っちゃうのもなんか少し大人気ないし」

 そんな彼女に立石さんは不思議そうな顔を見せつつも「いや、あんたはまだ子供だからね。高校生なんだから」とツッコミを入れた。

 この世で高校生を大人と言い張るのはコナ〇君くらいのものである。

 

 ――職員室。

 校長が口を開く。

 「松田先生。どうでした? 生徒達の反応は?」

 「皆、怒っていましたね。委員長の松下を中心に抗議をしてくると思います」

 「鈴谷さんは? 彼女は頭が回るタイプでしょう?」

 「いえ、どうも彼女はこちらの意図を見抜いているような素振りがありましたね。皆の前で言うのは思い止まったようですが」

 「そうですか、そうですか」とその返答に校長は上機嫌だった。

 「こちらの思惑を超えてきましたか。非常に頼もしい」

 それから一呼吸の間の後でこう続けた。

 

 「学校はルールを守る事の大切さを学ぶ場、そして、同時にルールに疑問を覚える事を学び、必要なら変える事を学ぶ場でもあるのです。

 ただただ、ルールを守れば良いと考えるような人間にはなって欲しくありません。大いに憤り、そして考え、行動してくれたなら大変に嬉しい」

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