男を見る目がない女
「――そう言えば、あいつ、どうしている?」
それは同窓会のようなそうでないような、そんな曖昧な飲み会だった。
なんとなく、高校時代の仲間で集まろうという話になったのだが、別にそんな縛りがある訳でもなかったので、誰かが「高校時代以外の友達も呼びたい」と言うと「私も、俺も」と声が上がり、結局は“高校時代の仲間達”を中心とする、輪郭の曖昧な飲み会になってしまったのだった。
お陰でそれなりの規模になって、通常の飲み屋じゃ納まらず、立食パーティー形式となってしまった。
そんな会場の中、一人の女性が辺りを見回し、「そう言えば、あいつ、どうしている?」と切り出した。
長髪で背が高い。気が強そうな顔をしている。
「あいつって?」
隣にいた別の女性がそう返す。こちらはやや背が低くて少し太っている。
「ほら、あの男を見る目がなかった、あいつよ」
それに別の一人、大きな眼鏡をかけている女性が言った。
「ああ、いたわねぇ。駄目な男ばっかり選ぶから、わたし達がいっつもアドバイスしてあげなくちゃならなかった女……」
それを聞いて小太りの女性が言った。
「あ、思い出した! それなりに可愛い顔をしているのに、なんかいきなり目立たないオタクっぽい男子と付き合いたいとか言い出したやつね。あの時は、びっくりしたわ。ホントに」
それに長髪さんが頷く。
「そうそう。皆で説得して止めたのよねぇ。で、なんとか納得したと思ったら、次はなんと太っちょ君を選ぼうとして」
眼鏡ちゃんが続ける。
「“なんでだー!”って、誰もがツッコミいれたわよね」
今度は小太りちゃんが言った。
「で、それが駄目だと思ったからなのか、次に選んだのがガリガリの痩せ男君。
“いやいや、そーいう事じゃないからっ”て、流石にあれはギャグでやっているのかと思ったわよ」
また長髪さんが言う。
「どういう基準で男を選んでたのかしらね? 彼女。今頃、変な男と付き合ってたりして」
そう長髪さんが言い終えた瞬間だった。彼女達の目の前を、いかにも引き締まった体格の男が通り過ぎる。顔もそれなり及第点。
彼女達三人は思わず目で追ってしまう。
「何、今の男? あんなのうちのクラスにいたっけ?」
と長髪さん。
「いや、多分、誰かが連れて来たんでしょ。誰かの彼氏かしら?」
そう言ったのは小太りちゃん。
それを受けて、眼鏡ちゃんが近くの元クラスメートの男に話しかけた。
「ね、あの人、誰が連れて来たの?」
男性はそれに不思議そうな表情を見せる。
「あいつ? ああ、杉本だよ。随分痩せたよな。痩せたってか、引き締まったってぇか、贅肉が筋肉化したってぇかぁ」
「杉本?」
「ほら、高校時代は太っていたあいつだよ。お前らは“太っちょ君”って呼んでいたか」
それを聞いて、「ええー!」と三人は同時に驚きの声を上げる。もちろんそれは、彼が“男を見る目がない彼女”が付き合いたいと言っていた肥満の男生徒だったからでもあった。
そんなタイミングで、「すまない、遅れた」と言って説明してくれた男性に別の男が話しかけて来た。
見覚えのある外見。
少々、オタクっぽい。
「気にするなよ。お前、今、システム会社でバリバリやっているんだろう? 仕事、大変なんじゃしょうがないよ」
それに男性はそう返す。
それから「ああ、ありがとな」と言い残すと、そのオタクっぽい男は他に移動した。
「まさか、」と思いつつ、長髪さんが尋ねた。
「さっきのって、うちのクラスにいたあの目立たなかったオタクっぽい男子?」
その通りなら、“男を見る目がない彼女”が付き合いたいと言っていた一人だ。
それに男性は頷く。
「そうだよ。今はシステムエンジニアをやっているらしい。手に職があるってのは強いよなぁ。会社が潰れてもいくらでも就職先があるらしいぞ」
それを聞いて、彼女達三人は顔を見合わせた。
おずおずと眼鏡ちゃんが口を開いた。
「あのさ、もし知っていたらで良いのだけど、うちのクラスにガリガリに痩せていた男の子がいたでしょう? あの子は、今、何をやっているか知っている?」
「ガリガリ? ああ、田中かな?
知ってるよ。なんか事業を起こして今は社長だってさ。今日、来ているかどうかは知らんけど……」
その返答に三人は驚愕の表情で固まった。
そんな三人の様子に気付いているのかいないのか、男性は続ける。
「おっ あいつなら知っているかもよ。確か、田中と付き合いたいとか言っていたよな?」
三人が目をやると、そこには“男を見る目がない彼女”がいたのだった。
更に男性は言う。
「でも、知らないかなぁ? あいつ、今は他のなんとかって男を好きになったとか言っていたから」
それを聞くなり彼女達三人は声を揃えて言った。
「ちょっと、その話をもっと詳しく!」
もしかしたら、その男も、今は駄目でも将来はかなりイケてる男になるのかも……!




