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コンセント

 シルクハットが頭を締める。その感覚が薄皮一枚向こうから、脳を刺激した。じんわりと肌感覚を取り戻す。四肢の麻痺が皮膚に収束して、「フ」と消えた。

 手脂にじんわりと温もる銃のグリップ。取り落とすまいと握り込む手に、チェッカリングの細かいダイヤ柄がびっしりとスタンプされていた。

 手から先が別の生物のようだ。左脇を冷や汗が伝う。敵はどこだ? 龍が間近に居るならば、こんなに容易く麻痺は解けないだろう。

 見回すとシルクハットに伸びる線があった。脇差がシルクハットを縛っていたようだ。

 抗議するようにシルクハットが斜めにズレた。年代物同士、お互いにプライドがあるのか? 「お前に操られる覚えはないぞ」とシルクハットが脇差に去勢を張っているように感じる。比べればまだ年若いのだろう。脇差からは、はんなりとした笑みを感じる。相手にならないようだ。

 そんな事を考える間に、囚われかけていた心が戻った。

 『こんなのは大したモノじゃ無い』

 一方向に縛り付ける法則じみた何かは、軍律ほどに青年を縛らない。この程度では異界の青年を律する事はできない。

 周りの気配は異質だが、龍のような危険な気配は無い。青い空間の中でも、普通に立っていられる。

 青年を縛る歯車が「カサリ」と音を立てて溶けた。

 脇差のヌメるような笑みを感じる。シルクハットはブルリと震えた。

 何かの命令が下ったと感じた瞬間、シルクハットは霊力を発揮して、周囲の青を拭った。

 脂のように視界にへばりつく青は、その隙間に人を見せた。見たことも無いくらい清潔な人々。大人になりかけの年代の男女が、見慣れない服を着て座っている。予備兵だろうか? 軍人らしい厳つさは感じなかった。

 一人だけ歳を取った上官が白いラインで作戦らしい図式を描く。

 どうやら隊の士気は低いらしい。戦場に出たらまず初めに瓦解する類の、おままごと軍隊のようだ。

 青年は危機感を抱いた。

 無気力な兵士達のみならず、無能な指揮官という印象だ。生命力が薄く、説得力が無い。こんな軍隊に帯同するのは、巻き添いで死にに行くようなものだ。

 シルクハットが概ね周囲の青を拭うと、室内の端々までよく見えた。

 部屋の端に違和感を覚える。どうやら強い力がそこに集まっていた。二本づつセットに並んだ小さな縦穴。そこに送られてくる力が、天井や、壁の中に這い回るのを感じる。

 シルクハットは拒否するが、脇差の目抜き飾りのおかめが力で制した。

 拳銃をホルスターにしまうと、おかめに引かれて血刀を抜く。

 視界はボヤけて、また青の世界が侵食しようとするが、一気に移動する。

 少女の椅子を避けて、3歩駆けると、おかめに導かれて穴を突いた。

「バチッ」という衝撃が青年を襲った。

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