警戒
「馬に蹴られたか、死ぬぞ」
解体屋のゲロさんは、朗らかに物騒な事を言いながら荷物をカウンターに置く。
「まあ、死んでないだけ上等ですよね」
ゲロさんが出すものを待つ青年の手元で、バナナ猫が心配気に青年の腕を舐めた。舌毛がザラザラと鳴った。
「変な刀に憑かれたって? 死ぬぞ」
探しながら、片目にみる腰の物に目を細める。ゲロさんはその手の情報収集に余念が無い。
「あれ? 猫又からききましたか? 情報早いな〜」
戯けて応じるも、ゲロさんの眉間にシワが寄るだけだった。
「そうですね、憑かれた、というか、繋がれた感じです」
素直に糸の件を白状すると、
「糸とやらが龍を倒すなら死は遠ざかる。脇差の距離まで近づけば、死は近づく、どちらかというと死ぬぞ」
ゲロさんは何が嬉しいのか、自分の発言にうけはじめて、グツグツ笑いが止まらなくなった。
「これだ」
勝手に笑い止んだゲロさんは、片手持ちの解体爪をゴトリと置くと、小さなパーツも鉄机に載せた。
「早く直せ、殺すぞ」
素早くバナナ猫が場所を空ける。青年はパーツを見ると、壁一面の部品棚からいつくかの品を取り出した。
ゲロさんは解体屋だ。解体屋とは、街に散布される消化薬で解けきらない物を、解体爪等を使ってバラして、希少成分などを売って生活している。
ゲロさんは名の通った解体屋の元締めだが、こうしてわざわざ修理依頼に足を運んできた。それだけ猫又から聞いた血刀を警戒しているのだろう。
「ちょっと利き腕をやられてましてね、道具は貸しますので、取り付けをお願いできますか?」
青年は細い目をさらに細めてお願いする。
「殺すぞ」
という返事は、ゲロさんにとって良しという意味だ。ややこしい。
青年の指示通りにパーツを換えると、原価だけを支払ったゲロさんは、満足そうに解体爪をしまった。
「猫又が呼んでる、悪街だ。死ぬなよ」
かえって不吉な心配の言葉を置いて、ゲロさんは足を引きずって行った。
バナナ猫は、青年を気にしつつ、ゲロさんの後を追う。振り向くと、恋敵のように血刀を睨み、閉まる扉をすり抜けて行った。




