追放先は、モフモフ騎士団でした 5
「アラン様!」
走り寄ったアラン様は、今は大きな白銀の狼ではない。
美しいアメジストの瞳には、あいかわらず視線が釘付けになってしまう。
「あの、ご迷惑を……」
「迷惑なはずないだろう。どれだけ心配したことか……」
まあ。アラン様はお優しいのね……。心配をおかけして申し訳なかったわ。
申し訳ありません……。というのは、どこか違うわね。ありがとうございます、と言うべきかしら?
「では、護衛任務を終えて、先に集まりに合流する」
「ああ、バード。ご苦労」
「ありがとうございます。バード様!」
バード様は、振り返らず手を振って去って行ってしまった。
「フィーリア、目覚めてくれてよかった。……話さなくてはいけないことがある」
「え?」
手を引かれ、歩き出した廊下は端が見えないほど長い。
いくら、王国が誇る精鋭、第三騎士団の詰め所だとしても、広すぎる。まるで、王宮みたい……。
連れていかれたのは、長い廊下の端っこだった。
金色のドアノブが着いたドアは、ほかの部屋に比べて豪華だ。
「団長室……?」
迎え入れられた部屋は、明らかに大切な資料が所狭しと並べられた部屋だった。
入っていいものかと戸惑ったのもつかの間、優しいけれど振りほどくことができない力で手首を掴まれて、そっと引き寄せられる。
「あの、私が入ってもいいのですか?」
「構わない……。というよりも、ここが一番機密事項を話すには都合がいい」
「そ、そうなんですか」
私が眠っている三日間、なにかあったのだろうか。
匿ってもらっているようなものだもの。何かご迷惑を駆けたのではないかしら?
「あの……」
「いくつか伝えなければいけないことがある。……まず、俺の傷を治してくれたことに礼がしたい」
「えっと、無意識だったので……。本当に私が治したのでしょうか」
魔力が枯渇したほかには、まったく自覚がないのだけれど……。
そんなことを考えていると、急にアラン様が上着を脱ぎ始める。
「――――見苦しいものを見せてすまない。だが、見てもらった方が、話が早い」
「…………瘴気が強い場所で、受けた傷ですか」
恥ずかしがったりした自分が、情けなくなってしまう。
アラン様の背中には、肩から腰まで斜めに黒い傷が付いていた。
けれど、それはすでに消えかるように薄くなっている。
「この傷は、ずっと乾くこともなく、痛みをもたらしていた」
「……それは、お辛かったでしょうね」
「いや、この傷は俺にとって勲章のようなものだから」
瘴気が強い場所でけがをすると、その傷が塞がることがなく、時に命を奪う。
それにしても、いつまでも痛みを伴うような傷さえ勲章だと言い切れるだなんて……。
感動のあまり、潤んだ瞳で見つめていると、アラン様が私から目をそらした。
見過ぎてしまって、不躾だったかもしれない。
「ある人に助けられなければ、この場所に俺はもういないだろう。そして先日、もう一度助けられた」
「そうですか……」
そっと、傷に触れてみる。
すでに乾いているけれど、ここまでの傷を治すのは難しいだろう。
やっぱり、私の力では、治せないレベルの傷ね……。
「ありがとう、フィーリア」
「え? 間違いなく私ではないです。こんな傷を治せるほどの治癒魔法、使えません」
「……そうか」
それだけ言うと、アラン様は、上着を羽織る。
「それから、この場所に、おととい両陛下がいらっしゃった」
「え、ええ?!」
それは、大変!
両陛下がいらっしゃるとなれば、それこそ屋敷中が一か月前から準備に追われる。
私が三日間眠っていたとなると、婚約破棄の翌日には、この場所に両陛下がいらっしゃったってことよね?
「私が、のんびり眠っている間に、大変なことになっていたのですね……」
「ん? たしかに、久しぶりにいらっしゃったが……。フィーリアに申し訳ないと、頭を下げていた」
「――――は」
驚きのあまり、開いた口が塞がらなくなった私は、きっと間抜けな顔をしていたに違いない。
婚約破棄は、そのまま手続きが進められたそうだ。
聖女の資格剥奪については、すでに神殿の手続きが、第二王子派の神官により、終わっていたらしい。
「本当は、フィーリアの聖女剥奪をすぐにでも白紙にしたかったのだが、少し時間がかかりそうだ」
「……えっ。聖女の資格剥奪を、白紙……ですか?」
余計なことをしないでください! 私は、自由がいいのです!
あまりにも、アラン様の瞳が真剣だから、私は台詞を言い出すことができなかった。
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