聖女と王位継承者 1
***
アラン様が、王族らしいというウィンド卿の爆弾発言の翌日。
なぜか、本日私のことを護衛してくれる騎士様は、ウィンド卿だった。
今朝も薪をとりに向かう私に、懐かしいような、いつもの距離感のウィンド卿がついてくる。
「……決闘の翌日に、どのような経緯でウィンド卿がこちらにいらっしゃったのでしょうか?」
「本日をもって、第三騎士団所属となりました。ノルンと申します。聖女様の護衛任務に就けること、誠に光栄であります」
「……えっ。第三騎士団って、モフモフ限定なのでは」
「誰がそんなこと言ったのですか? まあ、たしかに第三騎士団に所属するということは、王位継承権を持つアラン・イーグル様を支持するということですから……。獣人であれば、そのことを言い訳に志願することもできるでしょうが……」
「えっと。ウィンド侯爵家は、第二王子派の筆頭家門なのでは? いいのですか……?」
ノルン・ウィンド卿は、第二王子派の筆頭であるウィンド侯爵家の次男だ。
私の護衛をしてくれていたけれど、ウィンド侯爵家は、アトリー伯爵家なんて相手にもならないような、大貴族なのに。
「聖女様の力で生み出された聖剣に認められし、真の王位継承者がいるのに、どうして凡庸以下の第二王子につかねばならないのです」
「え、でもご実家の立場とか」
「……聖女様を追い出すことに加担した時点で、ウィンド侯爵家には絶縁状をたたきつけております。ああ、以後俺のことは、家名でなくぜひ、ノルンとお呼びください」
……第二王子を凡庸以下と言った上に、ご実家に絶縁状なんて!?
普段とても穏やかなウィンド卿は、不思議なことに聖女がらみのことになると、過激になってしまうことがある。
そんなときに、ウィンド卿を止めるのは、いつも私の役割だった。でも、今回は……。
そばにいたなら、止めることもできたけれど、予想もつかない場所で聖女の資格を剥奪され、婚約破棄をされたから……。
でも、確かに絶縁状を出してしまったのに、いつまでも家名で呼ぶのはおかしいのかしら?
「えっと、ノルン卿? どうして、そんなことを」
名前で呼ぶと、なぜかノルン卿は、春の訪れのように爽やかに微笑んだ。
「え、あの?」
「聖女様に、名前で呼んでいただけるとは、身に余る光栄です」
意味もなく、胸がドキンッとしてしまう。
「聖女様こそが、この王国の希望で光であり、俺のすべてです」
「……えっと、私は聖女では」
「王国中の人間が、フィーリア様が聖女ではない、と言ったとしても、俺にとっての聖女様は貴女お一人です。……我が剣が折れ、命つきるその日まで」
……か、変わらないわね!?
聖女に関することになると、ノルン卿の発言はものすごく重い。
私は、半分くらい聞き流すことにした。
「……ところで、昨日、アラン様としたお話って……」
ノルン卿の表情が、一瞬だけ暗くなったのを私は見逃さなかった。
すぐに、いつもの穏やかな笑顔に戻ったけれど、ノルン卿が表情を崩すなんて、めったなことではあり得ない。
「ノルン卿!!」
「……聖女様。アラン様からは、王位継承と、獣人について……聞きました。けれど、それは俺の口から聖女様に話していいことではありません」
ノルン卿が、私に隠し事をするなんて、めったにないことだ。
それだけに、ことの重大さを感じてしまい、知らず握りしめたこぶしの中が湿っていく。
「お許しを……。けれど、これだけは約束します。もう一度だけ、機会をいただけるのであれば、今度こそ聖女様を守り抜きます。そして、アラン様のために、この剣を振るいます」
それだけ言うと、ノルン卿は私から少しだけ離れ、積み上げられた薪の前にしゃがみ込んだ。
この距離感は、護衛任務の開始を意味すると同時に、これ以上の会話を拒否するという意思の表れでもあるのだろう。
アラン様は、今日もお忙しいらしい。
今度いつ会えるのかなんて、私に分かるはずもない。
「あの、薪は三束でいいのです。ノルン卿が三束持ってしまったら、私のお仕事がなくなってしまいます」
「聖女様に、薪など持たせるくらいなら、今すぐに剣を折り、騎士をやめ、御前から消えます」
「えぇ……。私のお仕事……」
そんなことを言われてしまえば、私が言えることなんて一つもない。
ノルン卿は、いつものように穏やかに微笑むと、薪の一本すら持たせてくれず、さっさと歩き出してしまったのだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




