元聖女は騎士の決闘にはさまれる 3
「……聖剣に選ばれた、のか」
ウィンド卿は、ぽつりとつぶやくと剣を鞘に収めた。
そのまま、アラン様を前に膝をつく。
「――――どういうつもりだ? ウィンド卿」
「……悔しいですが、あなた様こそが、真にお仕えすべき主君です」
「……それは」
「聖女様が、生み出した聖剣。それは、王位継承者として、聖獣様に選ばれたものしか持つことができません」
たしかに、私以外の人が、聖獣様にお借りした剣を持つことはできなかった。
大神官様も持てなかったし、私の代わりに今、聖女として働く義妹、ミラベルも持つことが出来なかった。
……誰も持てない剣だから、幻術だとか、偽物だとか言われていたのに。
……ところで、たった今、ウィンド卿の口から、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするわ?
「王位、継承者?」
クルリと振り返ったアレン様の、ばつが悪そうな表情を見て、私は聞き間違いではなかったのだと理解する。
どうして、王位継承権を持つようなお方が、騎士団に所属していつも前線で戦っているのかしら?
「……ま、まさか。説明すらしておられなかったのですか? もしや、本当に保護しただけ……」
「ウィンド卿。俺は、フィーリアを継承権争いに巻き込む気はない。だから、わざと負けてもいいと思っていたのだが……」
真っ直ぐ私のことを見つめてくる、アラン様のアメジストの瞳が揺れている。
何を言おうとしているのか、私には想像もできないけれど……。
「フィーリアが、聖女だからあの場面で助け出そうとしたのではない」
「…………え?」
「フィーリアは、俺たちの、恩人だ」
「…………え?」
困ったことに、まったく覚えがありません。
だって、第三騎士団の皆さまは、一度見たなら決して忘れることなんてできないくらいの美形揃い。
もしも、恩を感じていただけるような場面があったなら、覚えていないはずがないわ?
「……あの、話が見えないのですが」
「――――そうだな、説明もせずに申し訳なかった。だが、フィーリアをこの場所で保護し、何があろうと守り抜くことは、俺たち第三騎士団の総意だ」
まったく、助けた覚えがないのに、困ってしまう。
誰か違うお方と勘違いされている線が濃厚なのでは?
「……そうだな。フィーリアにとっては、たくさん助け出した中の一部でしかない。そんなことは理解している。それでも、俺たちは、当たり前のように助け出された。獣人にもかかわらず」
「獣人だとか、そうでないとかは、助ける理由には関係ないと……」
「本当にそう思うのか?」
少なくとも、私にとってはそうだけれど、世界がそんなに優しくないことを私は知っている。
治癒魔法はとても珍しいから、高位貴族を中心に使うように求められてきた。
魔獣相手の戦いでも、分け隔てなく、傷の深さに応じて使うなんて許されるはずもない。
――――たしかに。分け隔てなく使っては、怒られて、食事抜きということも多かったわ?
「……悔しいけれど、違いますね」
「フィーリアは、間違いなく俺たちの命の恩人だ」
そんなことを言われ、優しく微笑まれてしまえば、否応なく頬に熱が集まってしまう。
でも、やっぱり覚えはないのよね?
「さて、ずいぶん時間が過ぎてしまった。ウィンド卿とは、まだ話すことがある。フィーリアは、詰め所に戻ってもらえないか?」
「あ、そういえば、これを……」
ずっと、抱えたままだった、アラン様の騎士服を差し出す。
怪訝な表情でそれを見つめるウィンド卿。
そう、私は聖女ではなく、お手伝いさんなのです。
「ありがとう、フィーリア」
アラン様は、今日の笑顔も、すべての憂いが吹き飛んでしまうくらい光り輝いていた。
私は、ほてってしまった顔を見られたくなくて、そそくさとその場を後にした。
……あら? 何か、とても大事なことがあった気がする……。
王位継承権を持つお方って、つまり……。
「あれ? 王族……?」
慌てて振り返ったけれど、すでにアラン様とウィンド卿の姿は見当たらなかった。
私は、絶対に聞かなくてはいけないことを聞きそびれてしまったのだった。
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