学校編「よく学び、よく鍛えよ」6
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( ´▽`)
ルシアンの能力を使って情報を収集する――なかなか良い方法のように思われた。
王室管理室や王宮も、色々と対策を考えてはいた。
学園に情報収集のための諜報員を入れる案もあった。
ただ、そういう目的で諜報員を入れることは、学園側が難色を示して没だった。
あるいは、防犯のために設置された監視用魔導具の情報を使えないか、なども考えられた。
魔導具は、出入り口や倉庫付近などの人気のない場所、廊下など、要所要所にある。
事件や事故が起こったときにはそれらの映像は証拠となるため、一定期間データを保管している。
とは言え、データ量は膨大だ。絞り込みができないと目指す情報を探し出すのは困難だ。
その点、例えば、ルシアンが「エミルという者の情報を教えてくれ」と魔草に尋ねて答えが得られるのならすぐに済む。
ただ、ルシアンの能力を使うのは慎重にしなければならない。
制限のある中で利用することになる。
ユーシスは考え込んだ。
―― ルシアンは『魔草や樹木なら話しは聞ける』のか……。
『進化させた植物』は利用してみたいのは山々だけど。止めた方が良いか。
「進化した植物って、例えば、ゴラツィだろ?」
ユーシスはルシアンに紹介されたのでゴラツィはよく知っていた。
「ゴラツィは特別に素質があったらしい」
ルシアンは自慢げに答えた。
「もともと凶暴だったと言うことか?」
「違うって。苗の時に土魔法してもらったとか、そういうの。
ゴラツィは凶暴じゃないから!」
ルシアンは真剣に否定するが、ゴラツィのトゲを見た事のあるユーシスは『あれは物騒すぎだろ』と思っていた。初めて見た時は、ゴラツィの小さなナイフのようなトゲに背筋が寒くなった。しかも、一本や二本ではなく、ゴラツィが繁茂しているところ全てにその鋭いナイフが光っていた。
「ルシアンが魔力で育てた植物は、そんなに色々できるのか?」
ユーシスは、ルシアンがゴラツィを庇うのは無視して尋ねた。
「個体差があるから一概には言えないけどね。
ふつうの植物よりも彼らなりに進化してるんだ。優秀な子は蔓や葉を強めて魔力で動かせたりとか。古い記憶を蘇らせて、色んな話を教えてくれる。
前はただの植物だったとしてもね。でも、どの植物でもそうと言うわけじゃないんだ。
種のころから僕が育てればけっこう力を持てる。
つまり、生まれながらの素質と、より小さいころから進化させるのと、両方あれば理想」
「生まれながらの素質って、土魔法もらって育ったとか?」
「うん。培養土に一度でも土魔法をかけてもらってると、全然違う。
あと、元々、魔力を持ってる魔草とかは僕の魔力の馴染みがいいらしい。
父上は魔力を受け入れる質を持っているからだろうって言ってた。
極端な話し、植物型魔獣とか、支配しやすいのかなと思う」
「そう言えばそうだね、あの時……」
あの時と言うのは、アルレス帝国の「造られた魔獣」に襲われかけた時のことだった。
「うん」
ルシアンも記憶をたぐり寄せて頷いた。
「なかなか興味深いね。オディーヌの力と逆だな。
オディーヌは魔力を持ってる相手だと、素直に言うこときかないって言ってたから」
「あの時もそんな感じだったね。陛下もそう言ってたっけ……」
オディーヌに伏せ! と言われた魔獣は必死に抗おうとしていたのだ。
「あの連中は、凶々しいから駄目なのかと思った」
ルシアンは自分の印象を思い出しながらそう言った。
「もちろん、それもあるかも。
オディーヌも『効きにくい』という曖昧な言い方だった。
個体によってそれぞれで、一概には言えないのかもな。
ただ、一般的に魔力を持ってると素直じゃないってのは本当にあるらしい」
「そうか。
でも、オディーヌの力と僕の力が反対と言うのは少し違うかも。
魔力のない植物たちは僕に抗おうとするんじゃなくて、元からなにか出来るような能力がないんだ。か弱いって言うか。
僕の魔力の籠った水はどの子も素直に受け入れるよ。それで成長する様はそれぞれだけどね」
「なるほど……」
「とにかく、情報をくれるような子はそこらにはあまり居ないんだ。
でも、力を持った子は、外には出しにくい。優秀な魔導士ならただの植物じゃないってわかるから」
「……王立学園は魔導士だらけだよな」
ユーシスは「それはマズイな」と思う。
「そんなわけでさ。仕込みが出来ないとやれることは限られてる。
一年草くらいの普通の草花だと、詳しい情報なんかないんだ。せいぜい強い印象を見られるだけ……例えば、踏んづけてきた奴の顔とか、靴とか。
その辺の花壇を踏みにじるような奴でも、側近として優秀ならいいだろうし」
「駄目だ、そんな奴」
ユーシスが嫌そうに首を振る。
「動物を虐待するようなら駄目かもしれないけど。花壇に踏み込むくらいなら仕方なくない?
12歳くらいのガキだし」
僕はそんな奴と付き合うのはお断りだけどさ、とルシアンはボソッと呟く。
「側近候補なら、12歳でガキとか言われるようじゃなおさら駄目だな」
ユーシスが肩をすくめて言い切った。
「了解。
オディーヌの件もあるしな。オディーヌの婚約相手は花壇を荒らすようなやつはダメだよな」
「当然。
オディーヌの方が日がないんだよな。
一応、王室管理室が時間稼ぎに、帝国に適当な言い訳をしておいたけどな。
オディーヌの婚約相手が公にされてない理由と言うのを……」
「どんな理由、言ってやったの?」
ルシアンは興味を引かれた。
「婚約披露宴をやるまでは発表しないってさ」
「……じゃぁ、婚約披露宴をしていない理由は?」
「そんなのは書かなかったらしい」
ユーシスはあっさり答えた。
「帝国にケンカ売ってない?
それとも、単に思いつかなかったから適当にしただけ?」
ルシアンはあんまりな返答に呆れそうになった。
「流石にケンカは売ってない。
思いつかなかったんだろ。だって、理由なんか『帝国のやつとは婚約したくないから』なんだし。
本当の理由は、察してもらうしかない」
「そりゃそうだけど」
ルシアンは、うちの王室管理室は帝国への扱いが雑だ、と思った。
「帝国の第三皇子は、容姿は良いらしい。
オディーヌが『面はいいのよね』って言ってた」
「……オディーヌ、呑気だな。
『帝国の皇子』と言う致命的な欠陥がなければ良かったね」
ルシアンは、オディーヌが面食いなのを思い出した。
何しろ、初恋は国一番の美男騎士と言われたブラド・バントランだ。
「まぁな。どちらにしろ、どんな凄い美男でもジュール叔父上が許すはずない」
ユーシスは、オディーヌが「でも私のいとこたちの方が良いかもね」とも言っていたことを思い出したが、大したことじゃないので言わなかった。
それに「いとこたちの方が良い」ではなく「良いかも」なのだから、ますますどうでも良い。
「でも、そんなんで、どれくらい時間稼ぎできる?」
「公式な国同士のやりとりだから、いちいち時間がかかるはず。
1か月くらいは稼げたんじゃないか」
「わかった。
一応、できるだけ協力する」
「一応じゃなくて、きっちり協力してもらうよ!」
ユーシスにきつめに言われて、ルシアンはこくこくとうなずいた。押しの強さは親子で同じらしい。
その押しに負ける弱さも親子で似ていることにルシアンは気づいていなかった。
作戦会議が済むと、眠気が押し寄せてきた。
うとうとしそうになりながら、ルシアンは気になっていたことを口に出した。
「召喚術の授業……」
とルシアンが言いかけたところで、ユーシスの寝ぼけ始めた目が見開かれた。
「受ける気になった?」
「あ、うん、少し。
また明日、話す……」
ルシアンは、ぁふ、とあくびをする。
「じゃ、明日、また……」
ユーシスもあくび混じりに答えて二人は目を閉じた。
ルシアンは夢うつつで考えていた。
今日、芝生で寝こけていた時に見たのは、きっと精霊か、妖精だ……と。
ユーシスが微妙にオディーヌとルシアンがくっつくのは気が進まないのは、ちょっとツンツンオディーヌだとルシアンが可哀想な気がするからで、友情です。




