騎士と婚活とお節介な人々「退治したのは誰?」(2)
ブクマや評価をありがとうございます。本日2話目になります。
ジェスと都合をつけて会うのは数日後になった。
その間にアマリエは騎士団の友人たちとお喋りし、さりげなくジェスの情報を集めた。
幸い、ジェスとの共通の知人友人は多くいたので簡単に色々と聞き込めた。
聞いた話によると……。
「ジェスは、以前は可愛い嫁さんと温かい家庭を築きたい、と普通の男の願望をよく語っていた」
「ジェスの兄は政略結婚のわりに気の合う妻を娶った。大人しく控えめながらしっかり者で兄を支える出来た妻で兄は幸せに暮らしている」
「兄の家庭を見て結婚願望が強かった」
「それがいつの間にか『もう俺は結婚は無理』と悲観するようになった」
『これは何かあるわ』
とノエルとアマリエが睨んでいたところ、ジュールがジェスの情報をくれた。
「ジェスの悪質なデマを流している女がいる?」
ノエルは思わず声を荒げた。
「そうよ、ジュールからの情報だから確かよ。
ジェスが乱暴者だとかすぐ怒るとか、根も葉もない噂を流されてるらしいわ」
「なんてことよっ!」
ノエルは思わず拳を握った。
「腹立つわね!」
「ジェスは陛下付きの近衛よ! そんなデマを流していいと思ってるのかしら!」
「ジュールも手を打つって言ってたわ。
でも、噂が既に広まってるのよね。
ジェスのお見合いがうまくいかなかった理由もそれかもしれないの」
アマリエが眉を顰めた。
「気の毒に……。どうしてそんなデマを?」
「これもジュールからの話なんだけど。
ジェスは以前はサリエル王子の護衛だったでしょ?
それでその時にお見合いした相手が、サリエル王子の立場が微妙になった頃にお断りしたらしいのよ。
でも、今はジェスは陛下の護衛だわ。出世したわけよ。
だから、断ったくせに、また婚約の打診をしたらしいの。でも、メルロー家は受け付けなかった」
「当然よね」
ノエルが頷く。
「それが気に食わなくて噂を流したらしいわ」
「自分勝手ね!」
ノエルとアマリエは「これはなんとかしないとね」と頷き合った。
◇◇◇
数日後。
ノエルとアマリエはジェスとの面談に臨んだ。
二人の妃を前にしてジェスは恐縮した様子だった。
「私の婚活のことでお話があるということですが……」
と、いかにも居た堪れないという顔をしている。
たまたま時間があったのでこの場に居合わせたシリウスは、ジェスにいたく同情していた。
――気の毒に……。
ノエルたちにはやはり何か出来る公務をしてもらった方がいいんだろうか。
暇だから人の恋路だの婚活に首を突っ込みたくなるんじゃないか、とシリウスは思った。
そんな男たちのことなど歯牙にもかけず、ノエルとアマリエはご機嫌だった。
「気楽にお喋りしましょう。忙しいのにごめんなさいね」
ノエルは少しも『ごめんなさい』という感じもなしに声をかけながら、「このお菓子、美味しいのよ。ファロルの生キャラメルがたっぷりなの」と見るからに甘そうなキャラメルプディングを勧める。
「こってりして美味しいわよ。どうぞ召し上がれ。甘いものはお好きかしら?」
アマリエがにこりと微笑む。
「大好きと言うほどでもありませんが、男のくせに甘味は食する方です」
ジェスは生真面目に答え、勧められたケーキにフォークをいれた。
一口食べて目を瞬かせる。
「まろやかで美味しいです」
ジェスは素直に感想を述べる。強面の顔が気のせいか緩んでいる。
「でしょう?
それでね。単刀直入に言うと、ジェスはもう婚活はやめたの?」
ノエルはふつうなら言い難いことを何ら捻りもなく尋ねた。
「……私はやめたつもりなのですが、実家の兄が諦めてないらしいです」
ジェスは困り顔で答えた。
「ジュールの方から、御令嬢の嫌がらせのことは聞いた?」
ノエルがジェスの様子を伺いながら確認をした。
「はい。
私の不徳の致すところです」
「そんなことないわ。嫌がらせの件は完璧に向こうのせいよ!」
アマリエが叫ぶ。
「私の亡き父が決めた見合い相手だったんです。
ああいう御令嬢を決めたのがそもそもの間違いでした」
ジェスは淡々と答えた。
「まぁ、それは一理あるけれど。でもやはり先方のせいだわ。
デマを流すなんて許されないわ」
「ですが、それを信じさせてしまった自分も……」
「もぉー、そんな後ろ向きにならないでよ、ジェス」
アマリエが王弟妃の仮面を脱ぎ捨て始めた。
「噂を流した令嬢が上手だっただけよ。そんなデマを真に受ける令嬢も迂闊だったと思うわ」
ノエルは自分も一時期、心ない噂に悩んだことがあるし、自信喪失病のようになったこともある。ジェスの気持ちがわかるような気がした。
「噂の件はジュールに任せるとして……。
正直なところ、本当に結婚願望は消滅しちゃったの?」
アマリエに尋ねられて、ジェスはしばし考えた。
「正直なところは……。貴族令嬢との見合いはきついと思われてなりません」
ジェスはわずかに目を伏せてようやくそれだけ言った。
「わかるわ」
アマリエとノエルはうんうんとうなずく。
「じゃぁ、もしも、貴族令嬢らしくない良い相手が見つかったら?」
ノエルが探りをいれた。
アマリエたちの調べで、ララ嬢の情報は入ってきていた。
どうやら貴族令嬢らしからぬお嬢様らしい。お嬢様という感じでもないようだ。
お嬢様が理想と言うならアウトな相手だ。
「そう言う気さくな方がいいですね。
兄には私の気持ちは伝えてありまして。それで、商家のお嬢さんを探そうといってくれてます。
ただ、兄のツテではそういう方面はあまり情報がないので日にちがかかりそうです。私としては幾ら日にちがかかかっても問題ないですしね」
ジェスは少々、疲れた様子でノエルたちに答えた。
ノエルとアマリエは密かにうなずきあった。
これはいける、と。
様子を見ていたシリウスはまたふたりの暴走を阻止しておこうと心中で決めた。
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また明日も投稿いたします。




