闘いは突然に!開拓村の秘密3
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本日は1話だけの投稿になります。今回は1日1話が多くなりそうです。
明日も8時か9時に投稿します。
騎士団一行とノエルは森の下見が終わったのち開拓村の近くまで向かった。
森での討伐作業は川辺に野営地を築いて行うことになっていた。良い水場も見つけた。
これから開拓村に向かうのは、討伐とは関係のないある目的のためだ。
開拓村に入る前にノエルと騎士団幹部たちは密かに打ち合わせをしていた。
この北の開拓村は不穏な噂が流れていた。
『開拓村の連中はサボっている』
『国から支給される物資を横流ししている』
ノエルがこの事を知ったのは偶然だ。騎士団長とシリウスにとっては想定外の事故だった。
騎士団長と副団長が話しているのを小耳に挟んでしまったのだ。ノエルの攻撃魔法訓練が終わったのちに騎士団小隊を件の開拓村に向かわせるという話だった。
ノエルはその時、小隊派遣の事情が知りたくて風魔法の「盗聴」を使っていたので単なる偶然とは違うかもしれないが。
これに関しては、王宮では今のところまだ証拠が十分ではない。ただ、少しずつ集まった垂れ込み情報などから噂が真実味を帯びてきた。
それゆえに、まずは下調べをしていた。
証拠隠滅をされては困るのでこっそり斥候を向かわせた。もうすでに斥候の調査は進んでいるはずだ。
その結果、黒だと分かれば小隊が向かって捕縛する。報告待ちではあるが黒の可能性が高いと踏んで騎士団は動いていた。
大掛かりな捕物になるはずだ。おかげでノエルたち一行は大所帯だ。騎士団の小隊だけでなく魔導士隊の分隊もいくつか同行している。
捕縛の隊がこれだけの規模になったのは、村総出で不正をしている可能性が高いからだ。実際はどうであっても皆捕まえて取り調べることになっていた。
ただし、捕物はノエルの訓練が終わってからで、騎士団到着後3日後くらいの予定だ。
その頃なら、斥候の調査で関係する商人や村長周りの人間関係などもある程度洗い出してあるはずだった。騎士団は早めに到着して備えている。
今回、開拓村の調べとノエルの訓練が重なったのは、捕縛の隊と一緒に向かえば行きの道中、ノエルが安全だからとシリウスが利用したのだとわかった。
ノエルは夫の騎士団の私物化ではないかと憤った。
とは言え、近場の森は事情があって止めたのは事実だ。遠い森に行くのなら騎士団の都合に合わせたのは仕方がない。
開拓村の捕物をやっている頃には、ノエルは騎士団長と護衛の者たちと王都に向けて出発している。
開拓村の不正の話はノエルとは関係ない。
絶対に関係ないようにしてくれ、とシリウスは騎士団に話を付けていた。
騎士団長も、むさ苦しい開拓村の罪人たちとノエルを会わせるつもりなど毛頭なかった。
それがシリウスと騎士団長の考えだった。
ところが、ノエルは知ってしまった。
「それなら、私の訓練の前に連中を捕まえた方がいい可能性もあるのね?
逃げられたら困るし。
スッキリした状態で魔の森で狩りをすればいいわ。そうしたらさらにスッキリするでしょ。
私も手伝うわ」
とんでもなかった。
かなりモメたがノエルは引かなかった。
タイミングによっては連中が逃げたり証拠隠滅されても困るので、先にとっ捕まえるのは騎士団としても良い――ノエルの手伝いは論外としても。
それでとりあえず斥候の報告を受けてから方針を決めよう、ということに落ち着いた。
当然、シリウスには内緒だ。
◇◇
騎士団一行が開拓村が遠目に見える辺りまで近づくと、斥候の騎士が姿を現した。
今の彼の服装は狩人の格好だ。身のこなしは騎士のものだが、調査のときは田舎の狩人を装うと言う。
斥候の騎士は、乗馬服姿の王妃と騎士団長の登場にさすがに動揺を隠せない様子だった。斥候の頭の中は疑問符だらけだろうな……と皆は察して同情した。斥候はわずかに固まったがすぐに気を取り直した。さすが熟練の騎士だ。
騎士団長と幹部たちが報告を聞く。
「黒です」
斥候は前置きなしに告げた。
「証拠は?」
「音声情報を録音できただけです。証拠としてはもう少し欲しいところですが。
商人と裏取引をしている現場は目撃しました。会話を聞いた限りではもう何度もやっているのがわかります。
あとは、裏帳簿のようなものを捕縛したあと探せばいいかと」
「まぁ一件でも横流しの現場を押さえてあるんなら捕まえられるな。
見たところ、開拓もまるきり進んでいないようだしな」
団長が忌々しげに答え、周りの隊長も頷く。
開拓村の仕事はまずは魔の森が広がらないようにする作業だ。
魔の森は、魔獣が増えるごとにじわじわと広がっていく。
魔獣が増え人が襲われ村が放棄されると魔の森の拡大が早まる。
特に人死にが多く出ると瘴気が増えて、魔獣はより生きやすくなる。
魔獣が増えると瘴気が増える下地ができ、さらにそれが魔獣の増加を加速させる。
悪循環が延々と続く。
この過程が進むと森に異変が起きる。
森の木々が「魔の森」に変化する。瘴気を吸いすぎた木々が黒ずみ、木の実は魔獣の餌になる。
魔の森が形成されると魔獣がまた激増していく。
そこで、騎士団は魔の森の魔獣を間引きしていく。集中的に魔獣を討伐し森に火を放って縮小させる。
ただ、魔の森は簡単には燃えない。一本一本の木が燃えにくい。乾燥する季節であってもなかなか燃えない。それでもそれ以上広げない効果はある。
開拓村の最初の仕事は、定期的に魔の森に火を放つことだ。
それから、魔獣が増えないように間引きもする。
地道に続けていくと、魔の森は潮が引くように後退していく。
気の長い作業だ。
ところが、森の下見をした限りでは魔の森に火を放った痕跡がない。おまけに魔獣がひどく増えている。間引きをサボっているのだろう。
それなのに王宮からの物資は受け取っているのだ。
騎士団は、斥候からの報告を聞いて情報のすり合わせをした。
「あの連中は毎日宴会をするためにここにいるんですぜ。
まともな狩人なんか一人もいやしません。どこに行っちまったんだか。ならず者ばかりだ。
俺が狩の獲物を持って狩人協会の支部に行ったら驚かれたくらいです。あの支部も機能はしてません。
受け付けも居なくてそこらに屯してた奴に『自分で食え』と言われて終わりですよ。宿も潰れてました。
魔獣の間引きなんてしてやしません。肉が食いたくなった時に森の端にちょいと狩に行くだけです。
それで支援物資を横流しして金を手に入れると、それで酒や娼婦を買うんです。
『また騎士団が間引きに来てくんないかな』と村長が何度も言ってるのを聞きました。
自分たちでやる気はないんですよ」
「そうか。
俺たちによほど間引きしてもらいたいんだな。
望み通り間引いてやろうじゃないか」
騎士団長がこめかみの血管をぴくぴくさせている。
この北の森は何年も前にそうとう苦労して竜種を討伐し、ようやく開拓村を作るまでにしたのだという。その時は他の魔獣もだいぶ減らして、瘴気濃度が落ちたという話だった。
ところが、開拓村が何年も間引きをサボったためにまた魔獣が増えていた。
「許せないですよね、やっちゃいましょう、騎士団長!」
ノエルがそう言うと、騎士団長はとても良い笑顔で頷いた。




