闘いは突然に!開拓村の秘密1
「闘いは突然に!開拓村の秘密」(全7話)をお送りします。遡って7年前の出来事です。
本日は、2話投稿します。2話目は9時になります。
よろしくお願いします。
ときは7年前に遡る。
アンゼルア王国はアルレス帝国と決別し、ノエルは付与魔導士としてそれを支えた。
これはその当時の話。国王夫妻が結婚して間もない頃のこと。
◇
ノエルは満足気に使いやすく整えた作業場を見回した。
――こんな感じでいいわ。
これから付与魔法を施した武器の新作を作るのだ。
ノエルは夜会で、胸がデカいのが取り柄の皇女に馬鹿にされた。
――もう一つ取り柄があったわ。人の心の弱みを察して抉ってくるのが上手かったわね、あの皇女。
ノエルは自分では図太いつもりだった。でも違ったのだ。黄金リスという魔獣に似ていると言われただけで落ち込んでしまったし、それをずるずると引きずった。
あの皇女の悪意はノエルのコンプレックスを直撃した。
実際にはシリウスはノエルと黄金リスを繋げて考えたことなどなかった。ノエルに会った頃は飼っていたリスを思い出したこともなかったと言う。ただノエルの健気さに惹かれたのだと、後になってシリウスは打ち明けてくれた。
ノエルとシリウスは入学試験の時に出会った。
シリウスがノエルの実技試験監督をしたのが最初だ。
シリウスはあの時、見るからに緊張した様子のノエルに違和感を感じた。なぜなら他の受験生たちは得意技をする実技試験はもっとリラックスして受けていたからだ。
それなのにノエルはあまりにも必死なように見えた。
手元の資料によればノエルは魔法属性は4つも持っている。魔力も豊富にある。得意技をするだけなら楽勝だろう。
もっと魔力に乏しい子たちでさえもずっと楽々と試験を受けている。
土塊の生成でも、水の生成でも、火魔法で水を温めるのでも、小さな竜巻でも、どれも魔力が少しでもあればできる。学園の側でも鬼ではない。魔力量に応じてできる限りの魔法を使えていれば合格だ。
ノエルはそういう情報を持っていなかったし、奨学生に認められなければ家出するか死も覚悟していた。
そんなノエルが結界の付与という希少な魔法をやってのけたのだ。強烈にシリウスの印象に残り、ノエルの様子や境遇も心配だった。
守りたいと思い、自らノエルの担当を買って出た。
黄金リスに妻がちょっと似ていると思ったのは、皇女に可愛がっていたリスのことを思い出させられてからだ。
それはともかくとして。
ノエルの心を抉った皇女は良い仕事をしてくれた。
シリウスを怒らせたし、実家の父親を唆して大臣を騙させ、交易の停止という暴挙に及んでくれた。おかげでアンゼルア王国は理不尽な交易を止めることが出来た。
以前からノエルは帝国の「事故品混じりの魔導具」の酷さを騎士団長から聞いて知っていた。
不良品率は1割から2割という凄まじさ。あり得ない。桁が違うだろう。だが、最初の取り決めでアンゼルアは文句を言えないようになっていた。不良品率も含めての契約だった。『そんな契約をした国王はクソだクズだ』とノエルは口には出さないまでも思った。本音では皆、思っていただろう。
攻撃魔法の魔導具ゆえに、事故品は使用する騎士の安全に直結する。
鑑定の魔導具を使い、鑑定士や王宮魔導士たちが総出で帝国からきた魔導具を確認する。
その過程でも魔導士がうっかり大怪我をすることがあったという。
確認漏れがあれば今度は騎士が大怪我をする。
手や足を失った魔導士や騎士がいた。亡くなった人もいた。
そういう裏話を王宮魔導士だったこともあるセオ教授から聞いた。
ノエルは帝国の不良品の話を聞いてから少しずつアイデアを貯め込んでいた。
ただ、付与魔法品はノエルができる魔法しか付与できないという制限があった。
――私の魔法属性は「風」「火」。
「土」もある。それに「水」。
「土」と「水」は弱いながらも鍛えてあるから使いこなせるわ。
とは言え、やっぱり「風」と「火」を使うのが楽々できて気持ち良いけどね。
ノエルは混合魔法も得意だった。器用なのだ。
おかげで雷魔法も得意だ。
雷は、火と風の混合魔法の進化形だ。
――だから雷魔法付与の投げナイフはじゃんじゃん作れたのよね。
雷魔法は魔獣に効くって言うから。ちょっと調子に乗ったわ。魔獣の中には雷よりも火の方が苦手なやつもいるみたいだし。
魔獣でも雷魔法を使えるものは、雷魔法が効きにくいらしい。あとは単純に、火の方が苦手なものもいる。
植物型魔獣や毛皮の厚いやつは火の攻撃の方が効くのだ。
そういう魔獣に使えるように「高威力の火魔法付与の投げナイフ」。それから「カマイタチ付与の弓矢」。
カマイタチは風魔法の攻撃魔法だ。突き刺さっただけで魔獣の体が切り刻まれる物騒な弓矢をノエルは考えた。
投げナイフは刃の長さを少し長めにしてみようと思う。この辺は使う騎士と相談だ。
――これで行くわ。まずは準備ね。
とりあえず、攻撃魔法訓練場でカマイタチの練習をする。
付与する魔法に熟練しておくことが上手い付与魔法を施す基本なのだ。
ノエルは訓練に励みながら考えた。
――なんか……的をこんなに攻撃するくらいなら魔獣をやっつけた方が良くない?
そうすれば、ちょっとは国の役に立つわ。
魔の森が広がっちゃったところはまだ魔獣が多いし。
シリウスが王位についてから魔獣の被害は激減した。
国神の加護が篤くなったようなのだ。
だから町や村にまで魔獣が襲いにくることはめっきりと減った。
――でも手遅れになって、瘴気を帯びた魔の森が出来上がったところはやっぱり魔獣が住み着いてて駄目なのよね。
そこに行ってカマイタチと炎爆の練習をすればいいんじゃない?
王都から近い魔の森は騎馬ならそれほど掛からないわ。4時間くらいで着くかしら。
脳裏に地図を思い浮かべて考える。
ノエルは「日帰りで行けそうね」と結論するとすぐさま行動に移した。
周りの側近たちに目的を告げて「魔の森に行くから」と宣言し、騎士団長に会いに行った。
ノエルはすっかり自分の計画に夢中になって忘れていた。
肝心の夫に相談する、ということを。




