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83 最終回

『もう僕は必要ないね』


 結婚式が無事終わり、私はエドの領地に旅立とうとしていた。ずっとそこで暮らすわけではないけど、領民への挨拶がある。

 当然クリューも一緒に来るものと疑っていなかった。だからクリューが寂しそうに、そう言ったとき初めは冗談かと思っていた。


『何を言っているの? クリューも一緒に行くでしょ。たまには王都以外の所に行きたいって言っていたじゃない』

『うん。一つの所にこんなに長くいたのは初めてだよ。でも、もうお別れだ』


 そんな寂しそうな顔で言われても困る。私がお別れを言っているのではなく、クリューの方から言ってるのだ。寂しいのなら一緒に来ればいい。


『どうしてお別れなの?』

『それは妖精と人間は長い間一緒にいない方が良いからだ』

『そんな話、初めて聞くわ』

『僕たちは君たち人間とは違う生き物だ。たくさんのことを知っている。僕はなるべく影響が出ないように、誰もが知っている魔法しかアンナには教えなかった。でも長くいるとどうっしても助けたくなる。情がわくからね』

『私はクリューを利用したりしないわ』

『うん、わかっているよ。でも僕が手を出したくなるんだ。そして出してしまった』

『えっ?』

『あのままいけば、庶民である君たちがルウルウ風邪に感染してしまいそうだから、つい余計なことを教えてしまった。本来は許されないことだ』


 妖精なりの掟みたいなものでもあって、人の生き死にを、左右するようなことはしてはいけないらしい。

 でもチェンジリングだって十分、人の人生手を出していると思うんだけど、あれは許されるのか。


『もしかして怒られたの?』


 そう言えば最近はいないことが多々あった。忙しくて気にしていなかったけど、何か言われたのだろうか。


『注意されただけだ。でも二度としてはいけないと言われたよ』

『それなら、これからはしなければいいわ』

『そんなに簡単じゃないさ。これ以上長く一緒に過ごしたらどうなると思う?』

『どうなるの?』

『アンナが死んだら、生き返らせるかもしれない』

『そんなことができるの?』


 私が目を見開いてクリューを見ると、クリューは意地悪く笑った。


『さすがにそれはできないよ。でもそれに似たようなことはしてしまうかもしれない』

『だから私が死にかけていても手を出さなければいいじゃない』

『そんなこと、できないよ。僕はきっと君を助けてしまう。それにアンナは? アンナは君の大事な人が死にかけた時、僕に助けを求めたりしないと断言できるかい?』


 「できるわ」と言おうとして、口にできなかった。嘘だったからだ。もしそんなことになったら、きっとクリューに助けを求めてしまうだろう。そしてクリューが助けてくれなかったら、私はクリューを恨むようになるかもしれない。それほど妖精の力はすごいものだった。

 そのことが悲しい。クリューに力がなければ、きっとこのまま一緒に旅ができて、一緒に暮らしていけたのに。

 私が黙っているとクリューが「やっぱり」と呟いた。


『もっと一緒に過ごしたかった。アンナといるのはとても楽しかったからね。たまに君が作った、ご飯を食べに行くかもしれない。もしおかずが減るようなことがあったら僕が来たと思って許してほしい』


 まるでもう二度と会えないと言っているようだった。たぶんそう言うことなんだろう。私はクリューを見ることができるから、私の目の前には現れないと言っているのだ。


『こっそりと見に来ても、私とは話をしてくれないのね』

『たぶん、僕が君たちを見に行くのはずっと先になる。アンナは僕のことなんか忘れているかもしれないな』

『忘れないわ。クリューのことを忘れたりするわけないじゃない』


 私が涙を流しながらそう言うと、クリューは嬉しそうに笑った。

 そしてそれがクリューを見た最後に姿だった。



 私は生涯クリューを忘れることはなかった。

 エドの石炭列車の会社は大成功をおさめ大金持ちになった。それでも私は庶民だった時のことを忘れることなく、家族のために時々は料理を作った。エドも子供たちも私の手料理が好きだった。でも私が一番食べさせたかったのはクリューだった。

 お菓子を作った時も、料理を作った時も必ずクリューのための茶碗に入れておいた。

 たまになくなっていることがあったけど、クリューが食べたのかはわからない。

 でも私はクリューが食べに来たと思っている。イチゴのショートケーキを食べるときは、きっと口の周りを汚しながら食べたに違いない。私が拭いてあげられなかったのが残念だ。


『アンナ、君は今、幸せかい?』


 きっとクリューはこう私に問いかけたはずだ。


『ええ、とっても幸せよ』


 私の答えはいつも同じだった。



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