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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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北ワ大島南テンチ領の侵略1

読んで頂いてありがとうございます。

前回の北テンチ領は南テンチ領の間違いでした。お詫びします。

前回の記述と地図を訂正しました。

 南テンチ領の領主キシワ・ダイゴは、支城のクリワ城で、シマズ王国の使者を迎えていた。彼は45歳の男盛りの細マッチョの色黒の精力的な男であったが、異国船の侵攻で神経を摺り減らしてやつれていた。


挿絵(By みてみん)


 使者は、北ワ王国の王都であるワトのシマズ王国大使館から来たという、ミシマ・カミナイというまだ若い男で、1等大使館員という肩書を名乗った。彼は、大使館の公印を押したシマズ王国の公文書と称するものを持ってきて、それを南テンチ領の領主であるキシワあて提出した。


 それに読んだキシワと家老以下の重臣が語らって、謁見の間に重臣共々座を占めて聞き取りのために使者を招いたところである。口を開いたのは50歳台半ばの家老のヒラノ・ジュウロウである。

「この書によると、貴シマズ王国のアマオウ国王陛下が、テビラに攻め寄せた異国船と兵をせん滅して、我が領を救って頂けるとのこと、誠ですかな?」


「はい、その通りです。アマオウ陛下に置かれましては、南北ワ大島の人々は我が同胞であり、その領土は同じワ国の一部であると常々言われております。従って、その領土は異国に渡す訳にはいかず、人々を異国人の支配下に置くことはあってはならない訳です。

 そして、わが王国には侵略者を追い払い、せん滅をする力がある。そのことは我が国の大演習を見られたキシワ様及び重臣の方々もご承知であろうかと思いますが、いかがでしょうか?」


 最初に家老のヒラノ、次に領主のキシワを正面から見つめたミシマに、領主のキシワが頷いてそれを見た家老のヒラノが応じた。

「うむ、わしも演習を見せてもらった。あれは凄まじいものであった。今回の攻めてきた異人共も鉄砲と大砲というものを撃ってはきておるが、あれほどのものではなかったと思う。だから、確かに陸戦においては、シマズの兵が今上陸している異人共に勝てるだろうとは思う。

 しかし、彼らは10隻もの巨大な船を持ってきて、それから炸裂する弾を発射する、あれに対してはどのように対処されるかな?」


 それに対してミシマはニコリと笑って誇らしげに言った。

「それはお任せください。私も異国の船は見ましたが、わが王国には2倍の大きさの鉄製の戦艦がございますから、あの程度の船は鎧袖一触でございます。それから、その戦艦が2隻に加えて兵を積んだ輸送艦3隻に小型の艦も加えて、すでにテツトの軍港を出航しておりますので、明日には姿を見せるかと」


「なに!我が方に断りなく、そのような!」

 若い武将が目をいからせて立ち上がる。


「いや、しかし、テビラの街はひどいことになっているようですね。聞くとテビラにある貴領の本城であるテビラ城は、すでに敵の手に落ちて街全体が占領状態にあると聞いています。更には街の中では多くの人々が傷つけられ殺されているという話もあるようですし、女性が凌辱されているという話もあるようですね。

 出来るだけ早くテビラは解放された方がいいのじゃないでしょうか?そう思った我が国王陛下は、この南テンチ領の御了解を得ていない段階ですが、可能な限り早くの出航を決断されたのです。あなた方がテビラを解放できるのなら、引き返すように連絡しますがいかがですか?」


 ミシマは、立ち上がった武将の剣幕に顔をこわばらせながらも言う。それに対して、若い武将は「こ、こいつ、何と無礼な!」叫び、脇においた刀を抜こうとするが、「カトウ!黙れ。座れ!」家老のヒラノがいきりたっているカトウを怒鳴りつける。


 家老の剣幕にひるんだ武将を見て、家老はミシマに向きなおって話しを続ける。

「いや、すでに軍を送って頂いているとのこと有難い。残念ながらわが軍も異人の軍と戦ってきましたが、全ての兵が銃を持っている相手に攻めあぐねており申した。して、頂いた文によると、貴シマズ軍が我が領に入ってきても、領民に害を与えることはないし、異国軍を追いはらった速やかに引き上げるとのこと……」


「はい、我がシマズ軍は今回進入した異国軍は1兵たりとも逃がすことなく、殺すか捕らえます。その際にかかった費用についてはお支払いを頂くことになりますが、過剰な請求は致しませんし、無理なく支払っていただける方法は話し合って決めるようにします。

 ただ、出来るだけ救出するように努力はしますが、敵兵を追い出す際に、捕らえられた領民などを全て救うことはできないと思っています。さらに、その過程で家屋等に損害が出ることは御承知下さい」


「う、うむ。費用の負担は当然であるな。我が領も知っての通りだと思うが、これと言って大きな収入源はないのでそれほど余裕がある訳でないので、出来るだけお手柔らかに願いたい。また、領民については心がけて頂いて有難い。救おうとすることで貴軍に損害があってはならないが、出来る範囲の心がけをお願いしたい。

 さて、今回の我が方の大将を務めるヒジカタ、聞きたいことはないのか?」

 家老の言葉に白髪でやつれているが、鋭い目の引き締まった顔の50歳台に見える武将が口を開く。


「うむ、儂は軍務奉行のヒジカタでござる。異国の軍は軍艦が10隻、全て湾内に停泊しており、最初は陸に向かって激しく砲撃していたが、今は時々思い出したように撃っておる程度でござる。

 その弾が陸に当たると爆発する砲弾でござって、そのために我が軍に被害が出ている他に、建物にも相当な被害がでており、街の2割程度の家が燃えてしまい申した。


 上陸した異国軍は判っている限りでは1500人ほどで、全員が銃を持っておる。さらに、持っている兵はそれを使うのに手慣れている様子で、必死で突撃する我が槍兵を冷静に打ち倒す中々に手強い相手じゃ。ミシマ殿。貴軍の軍艦がすでに出航され明日着くとのことであるが、どのような構成であろうか?」


「はい、私は受け取った電信では、さっき申した通りに船は戦艦が2隻、小型砲艦が3隻、輸送艦が3隻で、上陸する陸戦隊員は1200人余りということです。わが軍は全員が銃を持っていますし、携帯の大砲とも呼ぶべき迫撃砲を持っていますので、1500人、いや倍の兵がいても負けることはありません。

 戦艦と砲艦がテビラの沖に着くのは、明日の夜明け後になりますが、テビラ湾に入ったらまず敵船を全て沈めます。その後、砲艦がテビラの港に接近して、上陸艇で陸に上がる兵を援護します。明日中には、港周辺は奪還できると思います。ただ、敵が住民を盾に建物等に立てこもっている場合は面倒なことになりますが、その辺りは?」


「うむ、船からの街への砲撃後に港にボートに乗った兵に攻め込まれて、港近くの建物になだれ込まれてしまった。砲撃があったことで予想して、港に兵を配置すべきであったが、混乱でそれも出来なかった。上陸した敵を迎撃すべく城から出撃したのだが、僅かな弓兵と鉄砲兵に加えて槍と刀の兵では、全員が鉄砲を持った相手に太刀打ちできなかった。

 結果的に、押しに押され本城まで奪われてしまって、我らはこのクリワ城まで引くことになってしまい、先ほど言われたようにテビラの街はほとんど全て敵の占領状態だ。ただ、敵の戦力は先ほどから話に出ているように、1500人ほどでさほど多くはない。


 だから、敵は5万人が住んでいたテビラの街を隈なく占領するほどの兵はおらず、町中に兵が配置されてはいない。無論、船には戦える相当な兵が待機している者と考えておるが、調べた結果では港の大きな建物や倉庫に重点的に兵を配置している模様じゃ。

 だから、逆に民に対する取り締まりは厳しいようで、外を動いていて見つかると容赦なく銃を撃って来るらしい。現状でテビラの街から逃げ出した者達は2万を超えるので、あちこちに避難させておるために領内全体で大騒ぎじゃ。

 して、聞くとシマズの戦艦が敵の船を真っ先に撃沈するとか言うが、あの大きな船を本当に破壊して沈めることが出きるものか?そして、それが可能として、敵も銃を持っている中をどうやって兵を上陸させるのか、お聞きしたい」


「はい、私も我が海軍について詳しい訳ではないので、伝えられた内容をお話しているのみということでお聞き下さい。まず、我が戦艦に備えている大砲は非常に長い射程を持っており、敵の大砲の弾が届かない距離から確実に相手を撃ちのめすことが出来ます。

 また、その戦艦は先ほども申したように仮に敵の大砲の弾が当たっても、ほとんど損害を受けない鋼鉄の船です。しかも帆によって動くのではなく機関によって走るので自由に行動が出来ます。ですから、相手の船は何もできない内に破壊され沈みますから御心配には及びません。

 そうやって、敵の船が破壊されて大砲を撃てなくなれば、大砲で撃たれることは無くなります。ですから、小型の砲艦は岸壁に寄って来て、小口径の大砲や迫撃砲、さらに銃で岸の敵兵を排除しますので、上陸艇で我が兵が悠々と上陸できるわけです」


 また、その後もやり取りがあって、結局軍務奉行ヒジカタ以下合計5人が案内役として、シマズの軍に合流することになったのだが、シマズ艦隊に合流するために、明け方乗り込んだ4人の漕ぎ手のいる快速船の中で、ヒジカタはウトウトしながら考えていた。


 昨日、シマズの使者であるミシマを下がらせて、領主キシワ以下がそのまま2時間以上も内輪で話し合った。ミシマのいる席では余り口を開かなかったキシワであったが、その席ではいつも通りであった。


「うむ、シマズにとっては今回の異国の軍程度など何ほどのことはないのだろうな。その相手に、我らは領都はおろか本城まで奪われて、街を焼かれ多くの領民を殺されておる」

 俯いてこのように言う主君を家老のヒラノが励ます。


「殿、弱気になってはなりませんぞ。今回の侵入した敵はシマズが追い払ってくれるでしょう。その後、我らは異国人のために被った損害を復旧して、強い領を作ればよいのです。その際の知恵はシマズに借りることが出来ます」


「しかし、殿。今回シマズに助けてもらう話は、シマズからすでに北ワ王国に書では通知したとうことですが、我らからあらかじめお知らせしなくてよろしいのでしょうか?」

 外務奉行のヤシキが言うが、これには領主のキシワが目を怒らせて断固として言う。


「不要じゃ。そもそも我らは侵攻があってすぐさま王国には使者を送って救援をお願いした。しかし、今に至るもなしのつぶてじゃ。シマズの書によると、シマズに知らせたのも我らがお願いの3日も過ぎた後じゃ。そもそもあらかじめ知らせるとシマズを待たすことになる。それは出来ん」

 キシワの言葉に家老が応じる。


「殿。北ワ王国も追い返す戦力が無いのでしょう。陸上でなら何とかなっても、大洋を超えて来て、大砲を備えた10隻の軍船となると対抗が出来んと思います。陸から来るとなると動員をかけて多分15~20日近く要するうえ、銃は持ってはいてもその戦いに慣れていない王国の軍では追い返せるかどうか。

 何れにせよ、北ワ王国に頼るとなると我が領がさらに大きく侵略を受けてのことになりますな」


「うむ。王国には兄の国として仕えてきたが、このような事態には頼りにならんということだの。さきほど、ヒラノが言ったが、シマズが敵を追い払った後、我らは被った損害を復旧せにゃならんし、今後同じことを起こさんためには、シマズに倣って軍を強くしなきゃならん。

 さらにそのための金を稼ぐには領の産業を興して豊かになる必要がある。しかも、今回のシマズへの軍費の借りじゃ。どのようにしていいのがわしには解からん」

 領主のキシワは言葉を切るが、誰も何も言えないのを見て話を続ける。


「一方で、シマズはワ国の一部としての我が領を外敵が侵略することは許せんと考えておる。だから、こちらが頼むまでもなく自ら軍を出してくれたのじゃ。我が南テンチ領は残念ながら異国の軍に対抗できなかったが、侵入者から領と領民を守るのは領主の役割であるとわしは聞かされて育った。

 その意味ではわしは、いやわがキシワ家それと仕えているお前らは、その役割を果たす能力がないということになる。この際は、南テンチ領はシマズ王国の一部になるべきじゃとわしは思う。ヤシキ、シマズからは王国に加わるようにという誘いの文がきておるな?」


 聞かれた外務奉行はすぐさま応じる。

「はい、彼らの演習を我が領が視察に行った後に文が来ております」

 そう言って、ヤシキが懐から文を取り出すところを見るとその話題になるのを予測していたのだ。


「その内容を簡単に述べよ」

「は、これは各々方もご存じのことなので、簡単に申します」

 そう言ってヤシキは文を読まずに説明を始める。何度も読んで暗記しているのだ。


「まず、領の采配は、今の領の采配している者達、つまり我々ですな、我々及びシマズから送られてくる官吏によって行われるとされますが、基本的はやり方は王国の方式に変えられます。

 我々の俸給は王国に基準に照らして支給されますが、我が領の場合で言えばほぼ全員が1.3倍~2倍に上がります。なお、御領主様は王国の貴族に列せられ、我が領の場合には5人まで準貴族に列せられます。

 領内の農漁業、様々な産業については王国の産業振興予算でテコ入れが行われ、例えば農業のコメについては、2~3年で収量が2倍以上になるそうです。


 領の役割は領内の領民のための様々な仕事は行うことになりますので、その一部として領民の治安、盗賊などの取り締まりの役人は領の役割です。しかし、軍の維持と大きな道路、港などの事業は国の役割になります。

 また、領民への税は農民が現物によって納めて4割で、他は職種にとって人頭税、売り上げによる税などですが、概ね農民と同程度になるように調整されているそうです。税は一旦領で集めて、国庫への納入が半分、領の納入が半分になります」


「半分!年貢が4割になって、半分を王国に取られたらやっていけんだろう?」

 カトウと呼ばれた若い武将が、不服そうに大声で言うが、勘定奉行のムネタが冷ややかにカトウを見て言う。


「前に説明しただろうが!シマズの傘下に入った領は大体3年ほどで、領の収入が2倍以上になっておる。今まで年貢が5割だった我が領の場合では、当初は足りんが足らずは国が補填してくれる。それに、お前の俸給も含めて原則は領の収入からの支給だが、支払いは国が保証してくれる。

 お前の場合には、4割くらい高くなるはずだが、それだけ解りが悪いとなると、領の官吏として使ってくれるかどうか判らんぞ」


「ええ!そ、そんなあ」

 カトウは情けない顔になってしょんぼりする。


「だから、人の言うことを真面目に聞いて判らんことは調べろ!」

 きつく言う勘定奉行を見て、主君のキシワが薄く皮肉げに笑って話を元も戻す。


「まあ、南ワ大島のシマズ王国に加わった領の事情は調べたが、概ねはシマズが約束を守って、王国に加わった領の少なくとも家臣共は満足しているようだの。わしと同じ立場の者は、自分が何でも命ずることにできる大将から人の言うことも聞かなくてはならんので不満をいう者もおるようだけどな。

 それと、いずれの領も実際に急速に豊かになっていることは確かではある。そういう意味では、少なくともお前らにとってはシマズに下るのは良い決断になると思う」


 それに対して家老が慌てて「い、いえ、殿。我らは決してそのような……」と言うが、キシワは声を出して笑って言う。


「いや、爺、良いのじゃ。わしも異人に攻められて国を奪われ、お前たちさらには、妻や子も殺される恐れがあることを考えれば、まだ貴族に遇してくれるのじゃから幸せなものじゃ。しかし、いずれにせよ。差し当たってはテビラを占領している異国人を追い出すか、せん滅する必要がある。

 出来るだけ民に被害が及ばんように軍務奉行のヒジカタそれに他の者も頼んだぞ」


「「「「「はは!」」」」」

 一同は、決断した君主に平伏したのだった。シマズの要求で、南テンチ領として、シマズ軍の案内人を提供することになり、ヒジカタはその一員として、船に乗ってテビラ湾の口でシマズ艦隊を待ち受けようとしているのだ。


「ヒジカタ様。煙を吐いている船が近づいています。あれがシマズ艦隊でしょう」

 ヒジカタが船頭の言う方向を見ると、なるほど明るくなりつつ海の彼方にいくつもの煙がたなびいていて、その源に船が見える


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