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89.辿り着いた答え

 ◇◇◇


 俺たちは森の中をまっすぐに駆けていた。

 崇影に捕まって上空を飛んだ方が間違いなく早いが、鬼に見つかる可能性が上がってしまうため、ひとまず自力で走ることを選んだのだ。

 こちらの手の内が知れていない今、わざわざ居場所を知らせるのは自殺行為だ。

 

 森の中は走りにくく、思うようにスピードが出せないが、今はとにかく進みたい。

 似たような景色が何度も視界を通り過ぎていく。

 大木、低木、倒木、沢…

 おかげでちゃんと目的地へ近づいているのか、不安になる。


「七戸……近づいている」

「……やっぱ、追いかけてくるよな……」


 崇影の一言で、俺は危険が迫っていることを察知した。


「一旦隠れるか?」


「いや……俺は隠れても多分すぐ見つかるから、このまま突っ切る。けど、崇影は隠れてくれ」

「承知した」


 崇影は鳥の姿へと変化し、ふわりと空へ舞い上がる。


 頼んだぞ、崇影──


 俺はそのまま足を前へ前へと進めながら、銃を手に取った。

 崇影が気配を感じ取ったということは、いつ襲われてもおかしくはない。

 

 先程のように予定外の獣が襲ってくる可能性も十分に考慮した上で、導線だけは確保しておかなければならない。

 俺は迷わずまっすぐ進みながらも、全方向への警戒を強めた。

 

 ヒュッ


 耳を掠めた不自然な風の音。


 ──来た!!


 俺は咄嗟に両足を開いて身を沈め、ブレーキを掛けた。


 ビュオォッ!!


 俺の行く先で竜巻が起こる。風の精霊魔法だ……

 止まらなければ一瞬で宙に巻き上げられていただろう。 

 

 俺は方向転換し、右方向に広がる緩やかな傾斜へと身を投げた。

 俺の体はそのまま前転の要領で坂を転がる。


「っ……!!」


 ごつごつした石やら折れた木の枝やらが背中に刺さって痛いが、耐えられない程ではない。

 何より……この方が走るより早い。


 だが前方を塞ぐように現れたのは巨大な蔦。


「くそ……!!」


 俺は慌てて自分の体を大木にぶつけて停止させ、立ち上がった。

 蔦がこちらへ向かって伸びてくる。

 俺は三口銃(トリプルバレル)風来石(ふうらいせき)を押し込み、蔦をカマイタチで破壊する。


 ゴウッ!!


 だがその直後、足元に感じる妙な違和感。


 ヤバイ!!


 すぐにその場を飛び退いて切り株の上へと避難した。

 先程まで俺が立っていた地面が一瞬にして泥だまりへと変化する。

 間一髪だ…


 と安堵したのも束の間。

 足場にした切り株の周囲を蔦が囲った。


「しまった…!!」


 視界を緑の蔦と葉が覆う。

 まるで鳥かごの中の鳥だ。

 慌てて引き裂こうとするが、素手ではびくともしない。

 俺を包み込んだ蔦の籠はそのまま宙へと持ち上がる。


「このまま捕まってたまるか…!!」


 俺はトリガーを引いた。


 ゴウンッ!!


 蔦の籠に大きな風穴が空く。


「崇影!!」


 大声で呼びかけると、数メートル先から大きな鳥が飛び込んでくるのが確認出来た。

 俺は魔境で体を縮め、崇影目掛けて跳ぶ。


「七戸!!」


 崇影が絶妙なタイミングで俺の上を通り過ぎる。

 俺はその足をがっちりと掴んだ。

 俺の体は上空へ運ばれ、地上が遠くなる。

 

「崇影、このまま……」

「承知した」


 俺が言い切る前に崇影は飛行速度を上げた。

 

 ◇◇◇



 こちらの存在に気付いていながら……一切向かって来ることはなく、幸木(さちのき)をぶら下げたままタカは俺らに背を向けてスピードを上げた。

 

「アイツら……」

 

「どうやら、答えに辿り着いたようですね?」


 セイロンが嬉しそうに呟いた。

 ようやくかよ……遅ぇんだよ。

 無意識に口角が上がる。


「上等だ。撃ち落としてやる。行くぞ、セイロン」

「こちらもうかうかしていられませんね……」


Sylph(シルフ)


 風の精霊を呼び出し、身体能力を強化。

 タカの飛行速度は相当なモンだが、幸木をぶらさげたまま全速力は出せねぇだろうからすぐに追いつける。

 俺は地を蹴り、風に乗る。

 隣を見れば、セイロンは地面の上を滑るようにして俺のスピードにピッタリついてきている。

 森が…大地が、セイロンを運んでいる。コイツの日ごろの移動に足音が伴わないのはそのためだ。


 森の中では最強の存在、か……


 セイロンの行く先の木々は道を開け、動物たちは立ち止まる。

 ……んな器じゃねぇだろうが、セイロン(オマエ)

 

「チッ」


 無意識に舌打ちが漏れた。


 俺達のすぐ上空にタカの姿。

 

「セイロン、堕とせ」

「僕がやるんですか……? 仕方ありませんね……」


 困ったように小さく笑い、セイロンがすうっと両手を胸の前で組んだ。

 地面から勢いよく無数の蔦が飛び出す──その量は先ほどまでの比ではない。


「!!」


 タカが怯み、一瞬速度が落ちた。


「うわぁぁ!?」


 パアンッ!!


 焦った幸木が銃を撃ち放つ。


 だがその程度で破壊できる蔦の数は知れている。

 地面から生えた巨人の掌のような蔦の束は無遠慮にタカと幸木を包み込んだ。

 そのまま、ぐんっと地面へ吸い込まれていく蔦。

 だが当然、タカと幸木は地面の中へは入れない。


 ドシャッ!!


 蔦が消え去ると同時に勢いよく地面に叩きつけられた一羽と一人の体がバウンドした。

 相当な衝撃だろう。


「っ!!」

「がぁっっ!」


 タカと幸木の苦悶の声が辺りに響く。


 ……やりすぎじゃね? と一瞬思った。

 さっき「やりすぎもいけませんよ」とか言ったのは誰だよ……


「オイ、殺してねぇだろうな?」

「大丈夫です。二人とも体重の軽い姿ですから、その分衝撃も軽くなっています」

「……そーかよ」


 セイロンの口調はいつもと変わらない。

 だが、明らかに先ほどの撃墜には『加減にミス』が生じていた。

 それだけ、コイツらの動きに隙が無くなってきているということは明らかだ。

 連携、判断力、動きの速さ。

 全てが……この試験の中で格段に上がっている。

 恐ろしい成長速度と貪欲さだと思う。

 ……だからこそ、コイツらは面白い。


 俺はふっと小さく息を吐いた。

 セイロンは足早に、倒れてビクともしない二人に近付く。

 俺もセイロンの後ろから、幸木とタカの様子を確認した。

 

 セイロンの言う通り、息はある。

 ……だが、早急に治療をした方が良さそうだ。


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