表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/93

87.三つ巴の戦場

「間に合ったみたいだな」

「崇影! トーキスさんを撒いたのか?」

「あぁ。…といってもすぐに気付かれるかもしれない」

「なら、今がチャンスだな! 崇影、俺をセイロンさんに向かって投げてくれ」

「承知した」


 崇影は俺を掴んだままセイロンさん目掛けて直滑降。

 飛行の速度のまま、俺をセイロンさんの頭上へと落とした。


「うおぉぉ!!」


 今度こそ、一撃入れる!!

 気合が声になって自然と口から零れ出る。


 地面から伸びてくる蔦。

 捕まってたまるか!!

 俺は残りの一発を蔦に向けて放つ。


 パアンッ!!


 飛び散る緑。


 その奥に見えるアクアブルーの髪目掛けて、俺は渾身の飛び蹴りを繰り出した。


 ガッッ!!


「重い一撃、ですね」


 果たして俺の蹴りは、セイロンさんに届いた。


 と言っても、防いだセイロンさんの腕には頑丈に蔦が巻き付いており、恐らくダメージはほとんど通っていない。

 やっぱこの姿じゃ威力が圧倒的に足りないか…!


「…ふっ!!」


 セイロンさんは防いだ腕を横に振り抜き、俺の体を吹っ飛ばした。


「崇影! 頼む!!」

「承知した!!」


 俺の呼びかけに即座に反応した崇影がクナイで飛び降りざまセイロンさんを襲う。

 俺の体は近くの木に激突し、細い枝を折って地面に投げ出されるが、この程度の痛みで動きを止めるわけにはいかない。

 俺は今のうちに香辛料の瓶を取り出して体を元に戻し、三口銃(トリプルバレル)に弾を籠める。


「なるほど、良い連携ですね…」


 セイロンさんは腕に巻き付けた蔦で崇影の攻撃を防いでいる。

 今がチャンスだ!


 俺はセイロンさんの足元めがけてトリガーを引く。


 パァン!!


 だが、やはり地面から突き出た蔦がそれを塞いだ。

 やっぱりこの人相手に遠距離攻撃は通用しない。 

 二人がかりで近接戦に持ち込むしかなさそうだ。

 

 俺は地を蹴りセイロンさんへの間合いを詰める。

 セイロンさんはクナイを構えた崇影の腕に蔦を巻き付けて攻撃を封じ、そのまま崇影を投げ飛ばそうとした。


「っ!!」


 崇影が咄嗟に姿を鳥へと変えてスルリと逃げる。

 今なら間合いに入れる…!!

 俺はその隙を逃さぬようサバイバルナイフを構え、セイロンさんへ向けて突き出した。


「二人とも、素晴らしい成長ぶりです」


 セイロンさんの柔らかい口調の中に動揺の色は全く滲んでいない。

 俺の手に感じるはずの手応えも、無い。

 俺が突き出したナイフはセイロンさんの腕と脇の間を綺麗に抜けていた。

 俺は腹を狙った筈だ。それを…咄嗟に身をずらして避けられた。


 このスピードと判断力…マジかよ…


「もう少しで刺されていましたね」


 ふふ、と楽しそうに笑うと、セイロンさんは脇を締め俺の腕をホールドした。

 崇影が後方から鎖を振りかざして向かってくるが、セイロンさんを守るように地面から伸びた無数の蔦が鎖を打ち落とし、崇影を阻む。


「はぁっ!」


 俺は動けないのを利用してセイロンさんの体目掛けて膝を蹴り上げようとした…のだが…


 「え…うわぁっ!?」


 軸足が地面につかず、俺の膝蹴りは形にならぬまま妙な浮遊感に襲われた。

 次の瞬間。


「がはっ…!!」


 背中に激しい衝撃と痛み。

 投げられたのだということは分かった。

 恐らくだが、尋常じゃないジャンプ力で高い位置から投げ落とされたのだろう。

 手足が痺れて力が入らない。


 なんなんだ、この人は… 感情も動きも全然読めない。

 早くしないと、トーキスさんが合流したら勝ち目が無くなる…!


 俺は焦って痺れの残る手足を無理やり動かして身を起こす。


「七戸!」


 崇影が俺の前に着地し、俺の状態を確認する。


「大丈夫だ、崇影。まだ戦える。」

「あぁ、だが…マズイことになった」

「マズイこと…?」


 まだトーキスさんは来ていないよな? …と周囲へ注意を向け…俺は理解した。

 危険な気配が後方に迫っている。

 夜に感じたのと同じ『狙われている』嫌な空気感。


「マジかよ…」


 トーキスさんじゃない。トーキスさんはこちらが危険を感じる前に攻撃を仕掛けてくる。

 これは、外部の…()()()()の気配だ。


「客人が混ざってしまいましたね…」


 セイロンさんもその存在に気付いたようだ。

 少し困ったような口調だが、どこか楽しそうにも聞こえる。


「あ、あの…こういう場合は、試験は中断ですか…?」


 一応確認のためにそっとセイロンさんに尋ねてみた。


「中断はしませんよ。自然の中での試験ですから、こういった事態が起きるのは想定内です。」


 …マ ジ で ?


 いや、そんな気はしていた。

 朝の時点で野生の動物の姿を何度も見かけたし、動き辛くなるだろうことは覚悟していた。

 けど…


「崇影、何の動物がいるか、分かるか?」


 気配はまだ遠い。向こうも警戒しながらこちらへゆっくり近づいているのだろう。

 俺の視力ではその先に何がいるのかまでは把握が出来ない。


「虎だな……危険だ」

「…っト、トラ…!?」


 動揺のあまり舌が回らない。

 待て待て待て待て!!! 虎だって!?

 そんな奴までいるのか、この森は!!

 虎に狙われながらセイロンさんと戦闘…いや、無理だろ!!

  

 背中を嫌な汗が伝う。

 これはいよいよ…死亡フラグか?

 どちらを狙えばいい?


 落ち着け、冷静に考えろ…セイロンさんは俺たちを殺すのが目的じゃない。

 虎はどうだ?

 俺を「被食者」と認識している。殺して食おうとしている。

 なら…より危険なのは当然後者だ。


「崇影、虎を何とかするのが優先だ。先にそっちを仕留める」

「承知した」


 セイロンさんは何も言わない。

 俺は銃を手に、迫りくる脅威に備えて構えを取った。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ