84.折れなかった理由
あぁ、死んだな……と思った。
上空で思い切り殴られ意識を失い、そのままあの高さから地面に叩きつけられて無事でいられる筈はない。
セイロンさんの治癒能力は死んだ場合の復活は出来ないって話だったし、完全なゲームオーバーで終了だ。
これを見越していたから、死ぬ可能性があるという話をしたのだろう。
もしかしたら、試験なんていうのは建前で、最初から俺達をここで殺すつもりだったのかもしれない。
俺の体質は結局治らないまま、原因も何も分からないまま…人生の幕を閉じることになるのか。
短い人生だった。
恋人の1人くらい、作りたかったな…
俺はやっぱり、物語の主役になれるような器じゃ無かったんだろう。
せっかく出逢えた崇影というかけがえのない友人を巻き込んでしまったことが何より悔やまれる。
最後まで情けない男だ、俺は……
「オイ!! いい加減起きれんだろ!!」
バシンッ!!
「あたっ!!」
俺の黄泉への旅路は、不機嫌な怒号と軽い頭部の痛みによって遮られた。
「…トーキスさん?」
「トーキスさん? じゃねぇよ! いつまで伸びてんだ雑魚野郎。」
雑魚野郎……随分な言い様だ。
この人は相変わらず口が悪い。
いや、反論出来ないけどさ……
俺は体を起こして状況を確認する。
どうやら俺は生きているらしい。体に鈍い痛みはあるが、意識はハッキリしている。四肢も問題なく繋がっている。
そうだ、崇影は!?
俺は慌てて視線を巡らせ……いた。
俺の隣で俺と同じように傷だらけでぼーっとしている。
「崇影、大丈夫か?」
思わず声を掛けると「オマエが言うな」とトーキスさんに食い気味に突っ込まれた。
まぁ、ごもっともだけどさ。
「俺は問題無い。七戸こそ、もう大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫そうだ…」
多分、セイロンさんがまた蔦の揺り籠で落下ダメージを防いでくれたのだろう。でなきゃあの高さから落ちて助かるハズが無い。
「治癒は終わっていますから、損傷としては問題無いはずですよ。」
目の前にしゃがんでいたセイロンさんが微笑んで言い、「ただ…」と続けた。
「心に傷を負った場合は治癒は出来ませんから、怪我をすることに対する恐怖やストレスを取り除くことは不可能です。恐怖のあまり戦えないようであれば、リタイアすることをオススメします。」
「リタイア……」
「道理だな。逃げ腰で戦闘に参加すりゃ動きが鈍る。恐怖心は判断を遅らせる。死に急ぐ奴に教えることなんざ何も無ぇ。」
確かにそうだ。それは身を持って体験した。
そして、セイロンさんに見抜かれた通り…俺は攻撃を受けることに対する恐怖心を感じ始めていた。
試験の説明を聞いた時点である程度痛めつけられるだろうことは理解していたが、理解するのと体感するのは違う。
骨を折られればめちゃくちゃ痛い。体中をきり裂かれるのもめちゃくちゃ痛い。内臓を破壊されるのは苦しい。
それでも……
俺は崇影に視線を向けた。
崇影は俺の答えを持つようにじっとこちらを見ている。
俺がリタイアを選べば、コイツは『承知した』と従うのだろう。
だからこそ俺は正しい判断をしなければならない。
「リタイアは、しません。俺達は…必ずこの試験を突破します。何時間かけても…何日かけても。」
トーキスさんを真っ直ぐに見据えて俺はハッキリそう宣言をした。
「当然の答えだな」
そう呟いたトーキスさんはどこか嬉しそうだ。
セイロンさんも小さく頷く。
隣を見れば、崇影も安心した様子で俺を見ていた。
「あの…少しだけ、作戦会議の時間をもらえませんか?」
少し遠慮気味に提案してみる。
即却下されることも覚悟の上だったが、トーキスさんは少し考えた後「いいんじゃね?」と答えた。
「闇雲に突っ込んだってオマエらに勝ち目はねぇ。せいぜい頭使って突破口見つけてみろよ」
「あ、ありがとうございます!」
「二人の作戦、楽しみですね」
セイロンさんもふふっ、と笑った。
◇◇◇
今回トーキスさんが与えてくれた猶予時間は三十分。
以前より長めなのは、それだけしっかり作戦を練れ、という無言のメッセージだろう。
浅い考えで挑めば次は本当に殺されるかもしれないという圧さえ感じる。
「七戸、何か思いついたのか?」
崇影の言葉に俺は項垂れて首を振る。
「いや…正直まだ何も。…けど、確実に何か方法はある。あるはずなんだよ…絶対」
言いながら、何て曖昧な言い方だよ、と自分に突っ込みを入れた。
これじゃ前に進めない。崇影だって困るだろう。
けど…じっくり考えるには時間が足りない。
正直俺は相当焦っていた。
「そうか、七戸がそう感じているのなら、そうなのだろう。もう一度情報を整理するか?」
焦る俺に気付いているのかいないのか、崇影の口調はいつもと何も変わらず落ち着いている。
「あ、あぁ! そうしよう!!」
おかげで、俺も少しだけ冷静さを取り戻した。
無償で俺を信じてくれる崇影の言葉が有り難い。
コイツとならどこまでも突き進める、そんな心強ささえ感じる。




