83.抜け道の行き止まり
もう力技しか無い!!
「うぉぉぉっ!!」
俺は持てる限りの力で強引にそのまま右足を振り抜いた。
「おっと…!」
トーキスさんが少し目を見開いて後ろへ下がった。
よし、拘束は解けた。これでも一応基礎筋力は相当上がったんだ。
トーキスさんはまだ反撃をしてこない。
俺はチラリと崇影の方を確認する。
崇影の放つ鎖がことごとくセイロンさんの蔦に阻止されたため、崇影はクナイを手にセイロンさんに接近して連撃を繰り出していた。
セイロンさんは蔦で防ぎ、身を翻して避け、ひらりひらりと踊るように崇影の攻撃から逃れる。
一見すれば崇影が押しているようにも見えるが…それも今だけのことだというのは素人の俺でも分かる。
そもそも俺達の狙いはセイロンさんじゃない。
崇影は完全にセイロンさんのペースに呑まれてる。戦況として望ましくない展開だ。
セイロンさんの口が再び僅かに動いた。
『あと、一分』
「!! 崇影、逃げるぞ!!」
俺の叫びに、崇影はすぐさま攻撃の手を止め、鷹へと姿を変えた。
俺も魔境を開いて体を縮める。
飛び立つ鷹の足を掴み、俺は空へと舞い上がった。
タイムオーバーだ。
逃げるしかない。
「くっそ、反撃が無ければいけるかと思ったのに…!」
「読みが甘かったな…」
悔しさを吐き捨てるように言った俺に崇影も小さく答える。
1分間では逃げられる距離も限られるが、少しでも遠くへ行きたい。
「崇影、スピード上げてくれ」
「承知した。」
俺の言葉に崇影は少しづつ速度を上げる。
速い…けど、今は怖いなんて言ってる場合じゃない。
ていうか、二人がかりで狙って一方的に攻撃しても倒せない相手をどう攻略しろって言うんだ。詰んでんじゃないのか……
と絶望した、その瞬間。
「!! 七戸、降りろ!!」
「へ!?」
何かに気づいた様子の崇影が突如俺をその場に下ろし…もとい振り落とした。
「うわっっ!?」
突然猛スピードで振り落とされた俺は、成す術もなく数十メートル上空から落下する。
なんだ!? 何が…
落ちていく俺の視線の先、飛行する崇影を『カマイタチ』が襲うのが目に入った。
「な…!?」
なんで!?
あれは、『俺の攻撃』だ。
風の刃を食らった崇影はぐらり、と態勢を崩し…だがすぐに持ち直すと、こちらへ一直線に向かってきた。
血が、雨水のようにぽたりぽたりと上空から落ちてくる。
「七戸、すまない!!」
あわや地面に激突、という所で…崇影は俺の体の下へと潜り込み、俺の落下を防いでくれた。
だが、再び上昇するには低すぎた。
ズザッ!!!
崇影の腹部が地面を擦り、崇影と俺は一緒に団子になって地面を転がる。
「うわっ!!!」
「っ!!」
「た、崇影!! 大丈夫か!?」
俺は慌てて体を起こすと、隣でうつ伏せに倒れている崇影を確認した。
地面を転がる際に俺を庇おうと人の姿に戻ったのだろう。
肩や腕に無数の切り傷を負った崇影が、ゆっくりと起き上がった。
良かった、動けるみたいだ…
俺は一先ず安堵する。
「急に振り落としてすまなかった。」
「いや、むしろ…助かった。崇影…ありがとう。」
俺は上空を見上げて言葉を続ける。
「さっきの、あの攻撃って…」
「あぁ、恐らく師匠の仕業だ。七戸…師匠に風来弾を吸収されただろう?」
「!!」
崇影の言葉に俺は息を呑んだ。
脳裏にセイロンさんの微笑みが蘇る。
あの時、確かに俺の放ったカマイタチはセイロンさんの掌に取り込まれた。
弾丸以外の全てを。
「師匠は、魔力による攻撃ならカウンターが可能だ。それも、一度体内に吸収して留め好きなタイミングで跳ね返せる。」
崇影が悔しそうに顔を顰めた。
魔力攻撃を吸収してカウンター!?
そんなんアリかよ!?
「そう。僕への『魔法攻撃』は場合によってはご自分の首を絞めます…気を付けて下さいね?」
「!!!」
セイロンさんの声が聞こえた、と認識した瞬間…俺と崇影は纏めて地面から突き出した太く捻れた幹に上空へと突き飛ばされた。
もはやどこを打ち付けたかさえ分からない。あまりに突然の攻撃と衝撃で体中が軋んだ。
痛みと動揺で混乱しかける。
「七戸! 掴め!!」
俺の意識を正常に呼び戻したのは崇影の声だった。
目の前に鷹の足。
子供の姿のままだったのが幸いだ。俺は咄嗟にそれを両手で掴む。
突き上げる幹で強打した体は痛むが、俺よりも崇影の方が重症なはずだ…それでも崇影は弱みを見せない。
怪我をした状態で俺を運ぶのはキツイだろうに…
「崇影、このまま一旦逃げて…」
そう言いかけた俺の目の前に、再び捻じれた蔦が伸びてきた。
「っ!!」
直撃は免れたがやっぱり逃がしてはもらえないか…!
「常識に囚われずルールの抜け道を見つけたことは褒めてやるよ…けどせっかくやるならもうちっと上手くやらねぇと、この程度じゃクリアは出来ねぇな」
トーキスさんの声がする。一体どこから…!?
崇影にぶら下がったまま顔だけ巡らせると、トーキスさんはセイロンさんが操る蔦の上を走ってこちらへ向かっていた。
恐らく、風の精霊を足に纏っているのだろう…じゃなきゃあんな垂直に延びた蔦を両足のみで走り上がれる筈がない。
それも、あんな猛スピードで。
「っヤバい…!!」
俺は慌てて片手を離し、三口銃を取り出すが、とても間に合わない。
「やられた分はキッチリお返ししてやるから、有り難く受け取れよ」
俺が銃を構えようとする一瞬の間に、目の前に迫るトーキスさんの拳。
ドゴッ!!!
飛び込みざま思い切り右頬を殴り飛ばされた。
勢いと共にトーキスさんの体重が加算され、脳まで衝撃が届く。
「っああぁぁ!!!」
あまりの衝撃と痛みで両手の力が抜け、崇影の足を掴んでいた手がズルリと外れる。
俺は真っ逆さまに地面へと落下した。
「七戸!!」
崇影の声が遠くで響く。
「オマエもだよ、タカ。仲良くくたばれ!!」
「っ!!」
ゴッ!! という鈍い音。そして息を呑む崇影の声。
落ちていく俺の視界の端に、同じく無残に落下する鷹の姿が映った。
─あぁ、まただ。
またあっという間にゲームオーバーだ……
これで何度目になるのだろうか…
今の俺ではどう足掻いてもトーキスさんには敵わない。
薄れゆく意識の中で、俺は絶望を感じていた。




