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27.トラウマ克服への道

「店長、月光蝶(げっこうちょう)って…カルムでしたっけ?」


 その日の夜。

 お馴染みの顔ぶれで夕飯を囲みながら、俺は店長に確認する。


「あぁ。月光蝶はカルム、無光蝶(むこうちょう)はネブラだね。」


 店長が頷いた。


「……ですよね。」


 ちなみに今日のメニューはハンバーグステーキだ。

 猪肉と熊肉の合挽きを使用しているらしいが、どう下処理をしているのか臭みは全く無くジューシーだ。

 それにポテトとサラダが添えられ、スープは卵入りのコンソメ味。今日も最高に美味い。


 昼食までは子供の姿で過ごしていたが、子供の姿だと食べられる量も減って損をした気分になるため昼食時に元の姿に戻し、そこからは今日は縮んでいない。

 せっかく美味い店長の料理をたくさん食べられないなんて勿体ないからな…勿論今日もおかわりコースだ。


 俺が狩った獣の肉は店長が部位ごとに切り分け、必要に応じて冷凍。状態が良い場合は食品店に売ることもあるようだ。

 先日のルナジェネットは毛皮を武器屋に売り、割と良い値が付いたと聞いた。


 正直、これで俺も少しはドラセナショップに貢献が出来るようになった…と安堵している。

 バイト代もらって衣食住保証してもらって、島についてのあれこれも教えてもらって…と店長には世話になりっぱなしだからな…少しくらいは恩返しをしたい。


「カルムならば、月光蝶は俺が採って来よう」


 スープを飲んでいた手を止め、崇影(たかかげ)がそう申し出る。

 確かに崇影は毎日修行のためにカルムの森へ行く。都合は良いかもしれない。


「まぁ、無駄が無くて丁度いいだろ」


 そう答えたトーキスさんは、豪快にハンバーグをパンで挟んで手掴みで食べている。


「ネブラの方は俺が明日にでも…」

「トーキスさん、俺も連れてって下さい!」


 言葉を続けるトーキスさんを遮り、俺は手を挙げた。


「……あぁ?」

 

 ジロリと睨まれる。安定の柄の悪さだ。

 ……けど、それにも大分慣れた。


「もう一人で無茶はしません。でもリベンジはしたいです!」


 俺の発言に、店長と崇影も動きを止めた。

 全員の視線が俺に集まる。


「危険な場所ってことはよく分かったし、魔力の無い俺には向かない場所ってことも理解してます。けど……」


「あぁ……いいぜ」


「へ?」


 …カシャン。


 何とかトーキスさんを説得しようと頭をフル回転させようとした所で、あっさり許可が出た。

 俺は拍子抜けして思わずスプーンを皿の上に取り落とす。


七戸(ななと)、落ちたぞ」

「あ、あぁ…」


 崇影に言われ、俺は慌ててスプーンを拾い上げた。

 皿の上で良かった……


 にしても


「いいんですか?」

「行きたいんだろ? いいんじゃねーの?」


 トーキスさんは軽く答える。


 俺は真意を汲み取れず、思わず店長を見る。

 俺と目が合うと店長は微笑んだ。 


「トーキスがそう言うのだから大丈夫だろう……それだけ君が成長したということだよ。」

「あ…ありがとうございます!」


 予想外の2人の言葉に胸が熱くなる。


「今の特訓もそろそろ次の段階に入ろうと思ってた所だしな…丁度いい、明日からはネブラ行くか。最終特訓にしちゃ、お(あつら)え向きな場所だしな」

「毎日ですか!?」

「んだよ、行きたいんだろ?」

「でも遠いんじゃ……」

「あぁ、そうか…オマエの足じゃキツイかもな…」


 そこまで言ってトーキスさんは食べる手を止める。

 何か方法を画策しているようだ。


「俺が運ぼう。必要ならネブラの中も同行する」


 崇影がそう申し出るが「ヤメロ、過保護野郎」と身も蓋も無くトーキスさんに一蹴された。


「オマエはまだセイロンの課題をクリアしてねぇんだろ。幸木(さちのき)のことよりテメェのことだけ考えろ」

「……承知した。」


 崇影は一言そう答え、止めていた手を再び動かしてハンバーグを食べ始めた。

 表情の変化はほとんど見られないが、ちょっとがっかりしてるな、多分……。


 崇影はいつも俺の身を一番に案じてくれる。

 有り難いことこの上ないが、俺は守られるだけの立場から脱却しなければいけない。

 だから今回も崇影に甘えるつもりは無い。

 こいつの修行の邪魔もしたくないしな……


 ちなみに、崇影は俺と同じライス派だ。

 ハンバーグを頬張り、ライスもかき込んでいる。


 トーキスさんは一つ溜息をついて、俺の方へ視線を向けた。


「しゃーねぇ、不本意だが俺が運んでやるよ。但し、運ばれる間は縮んどけよ。」

「えぇ!? 運ぶって…どうやって…」

「んなもん肩に担いで行くに決まってんだろ」


 マジで!?

 ちょっとそれは…想像しただけで結構な屈辱なんだけど…


「トーキス、せめて背負ってあげたらどうだい?」


 店長がそう助け舟を出してくれる。

 背負う、つまりおんぶだ……それも恥ずかしいけどな。


「あぁ? 自力で行けねぇ奴が贅沢言うんじゃねぇ」

 

 それは、御尤もなんだけど…


 俺は返答に困ってトーキスさんをじっと見る。

 トーキスさんは決まり悪そうに俺に視線を返し…面倒そうに溜息を吐きながらぐしゃぐしゃと頭を掻いた。


「くっそ、世話のかかる奴だなテメェは。おぶりゃいいんだろ…背中に乗せてやるから、あとは自力でしがみつきやがれ」


 なるほど。トーキスさんらしい妥協案だ…


「わ、分かりました! ありがとうございます!」


 俺は慌てて頭を下げる。

 これ以上の対応を求めれば洞窟に行くこと自体を中止にされかねない。それは困る。


 正直、筋トレと訓練をしながらずっと考えていたことだ。戦闘力がついたら、もう一度ネブラに挑んでみたいと…


 無知で無力なあの時の自分を乗り越えたい。あの時感じた恐怖を…トラウマを、自力で打破したい。

 そうしなければ俺はこの島で自信を持って生活をしていけない気がしている。

 だから、これはチャンスだ。

 

 今回はベテランの師匠…トーキスさんがいる。

 俺がもし間違った行動を取ればその場でにべもなく叱責されるだろう。

 叱責は怖いが、トーキスさんは信頼できる人だ。


 指定された最終試験まで残り一ヶ月。

 俺はその一ヶ月で、自分の失敗とトラウマを乗り越えるんだ。

 

 

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