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25.俺だけの強み③

 思わずごくり、と生唾を飲み込む。


 先程トーキスさんの狩りと血抜きの作業を見たおかげか、動物に銃口を向けることに対する抵抗感は大分和らいでいた。


 俺は音を立てぬよう慎重にハンマーを下ろす。

 もし急所を外した場合、あのルナジェレットという動物を苦しませることになるだろう。それは極力避けたい…


 俺はそう思い、氷結石をセットした。

 凍らせれば…万一急所を外してもその後近距離から撃ち直すことが出来る。


 俺のその判断に対してトーキスさんは何も言わない。


 視線の先のルナジェネットは、どうやら水浴びを終えた所らしい。

 体をぶるぶると震って水分を飛ばしている。

 今なら、当たる…!

 

 そう判断した俺はトリガーを引いた。


 キィィン…!


 甲高い音が響き、ルナジェネットはその場に凍り付いた。


「よし!」

「…オイ、この後どうする気だ?」

「へ?」


 トーキスさんにそう突っ込まれ、冷静になる。


「死体なら、引っかけるなり何なりで回収するけどな、あの状態じゃキツイぜ?」


 ……確かに。

 ルナジェネットは凍りついていて表面がツルツルだ。

 しかも、急所に当たった確証が無いため、近づいて確認、もしくはもう一発打ち込む必要がある。


「えっと……」


 俺は改めて凍っているルナジェネットまでの道程を確認した。


 岩場を降りていけば接近も回収も可能だ。

 ただ、足を置ける面積が少ないため、割と条件は厳しい。

 万一落ちたとしてもそこまで高くない上に下は細い川…死ぬほどの事にはならない気もする。


 降りていくしかないよな、やっぱ……

 せめてもう少し足場がデカければ……


 そこまで考え、はたと気付いた。

 それぞれの岩の大きさは一メートル前後。

 この足場ならもしかして……


 俺は服の中にしまってあった魔鏡を取り出した。

 足場が小さいなら、俺が小さくなればいい。


 トーキスさんは無言で…少し口の端を上げて、俺を試すかのように見守っている。

 どこか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか…


 万一の時はトーキスさんが何とかしてくれるだろう、多分!!

 そう覚悟を決め、俺は鏡を覗き込んだ。


 ぎゅっと体が押しつぶされ、俺の全身が縮む。


「これで、回収してきます!」

「いいんじゃねぇの?」


 俺の報告に笑うトーキスさん。

 悪くない判断ってことでいいんだろうか…


 俺は子どもの姿で慎重に足場を確認しながら岩を降りていく。

 崇影のトレーニングで鍛えた筋力と柔軟性は縮んでいても勿論有効だ。

 …と言っても当然縮む前と比べれば格段に落ちるけどな。

 

 何とか目標物まで辿り着き、ルナジェネットの状態を確認する。


 氷が少しづつ溶け始めていた。

 今なら確実にとどめを刺せる…

 俺は近距離から念の為通常弾をもう一発撃ち込むことにした。


 子どもの姿だと銃の勢いに飲まれかねないからな…岩から落ちないようにしっかりとバランスを取って両手でしっかりとグリップを握り…


 パァン!!


 氷が解け、ルナジェネットの体がぐにゃり、と歪んでその場に倒れ…動かなくなった。

 ……仕留めた。


 初めての俺の獲物だ! そう思うと、達成感と今までの緊張感で妙に嬉しくなってきた。

 いや、ここで終わりじゃない。まずコイツをトーキスさんの所まで運ばないとだな。


 俺は倒したルナジェネットをそっと持ち上げる。

 小柄な猫程度の大きさ…ジェネットという動物に馴染みは無いが、響きからしてフェレットの仲間だったりするのだろうか? 割と可愛い顔をしている。

 俺が凍らせたせいで、死んだばかりだが既に驚くほど冷たかった。


「…ごめんな。」


 俺は腕の中のルナジェネットに小さく声を掛けた。

 これが自然界の姿だと分かっているが、やはり心苦しい…そんなことを言ったらトーキスさんにまた笑われるだろうか…


「オイ、仕留めたならさっさと戻れ!」


 上から容赦ないトーキスさんの声が聞こえた。


「はい! 今戻ります!!」


 俺はルナジェネットを落とさないように革紐でベルトに括り付け、子どもの姿のまま元来た岩場をよじ登る。

 これも多分トレーニングをしていなければ苦戦したのだろう。

 あと一歩の所まで来ると、目の前に手が差し出された。

 驚いて見上げると、珍しくいつもより幾分か優しい表情のトーキスさんがいた。

 俺が伸ばした手を取り、力強く引き上げてくれる。


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