21.戦闘訓練開始①
ドラセナショップ閉店後、俺はトーキスさんとの約束通り、店の裏側にある広場へやって来た。
先日は何も無い、ただっ広いだけの場所だったが今日は藁で作られたカカシのような物が5体ほど立てられていた。
トーキスさんが準備をしたのだろうか?
手先が器用だっていう話だったしな…
あぁそうだ、ペンダント修理のお礼も伝えないといけない!そんなことを考えながら広場へと足を踏み入れると…
ヒュンッ!!
風を切る小気味の良い音が響き、一瞬にして5体全ての真ん中に飛んできた矢が吸い込まれた。
ドスドスッ!!
と矢が刺さる。
矢の飛んできた方へ視線を向けると…トーキスさんが弓を構えていた。
先に来て鍛錬してたのか……トーキスさん程の腕前でも練習はするんだな…
俺が数歩近付くと、トーキスさんは構えていた弓を下げ、こちらへ体を向けた。
「あぁ来たか。幸木……と、タカ。オマエも来たのか……」
ため息を吐く様にして俺の背後へと視線を投げたトーキスさん。
へ? 崇影?
俺は慌てて背後を振り返った。
崇影がゆっくりとこちらへ近付いて来ているのが見える。
いつの間に着いて来てたんだ、あいつ……
「何で崇影まで…」
崇影は俺の問い掛けに答える代わりにトーキスさんへと鋭い視線を向けた。
え、まさかまた喧嘩とかしないだろうな!?
崇影、まだトーキスさんのこと怒ってんのか?
だが、ハラハラしている俺を他所に、崇影は躊躇いなくトーキスさんへと近づいていく。
トーキスさんは腰に手を当てたまま動じない。
攻撃を仕掛ける様子は今のところ無さそうだけど…
「トーキス、俺にも稽古をつけてくれ。」
そう言って、崇影がトーキスさんへ頭を下げた。
あ、そういう展開?
…正直、これは予想外だ。まさか崇影がトーキスさんに頭を下げるなんて…
トーキスさんは「あぁ!?」と面倒そうに頭を掻いている。
「オイ、とりあえず頭下げんのは止めろ。気持ち悪ィ。言っとくけど別にオマエは弱かねーよ。あんだけ動けりゃ上等だ。」
「それでも、トーキスに全く敵わなかったのは事実だ。」
「あ〜…マジかよ…オマエ真面目だな……」
はぁ、と再び小さくため息を吐くトーキスさん。
顔を上げた崇影の表情は真剣そのものだ。
「っつってもな、目下優先は幸木の特訓だからな…ある程度上がったら2人まとめて扱くか…」
腕を組み、ブツブツと呟いていたかと思うと、「あぁ、そうか」と突如顔を上げた。
「イイ案があんぜ、タカ。」
不敵な笑みを浮かべるトーキスさん。
何か良からぬことを企んでいる顔だ……
崇影は僅かに首を傾げて次の言葉を待っている。
こういうところはものすごく鷹っぽいんだよな……
忠実な賢い鷹だったんだろうな…
場違いにもそんなことを考えてしまう。
「オマエはカルムの森へ行け。」
「カルムの森へ……何故?」
「俺とセイロンは同じ師に鍛えられてんだ。っつーことは、オマエの訓練の相手はセイロンでも問題ねーだろ?」
マジか。
トーキスさん、この場にいないセイロンさんに勝手に仕事押し付けようとしてる…!!
てかカルムの森って遠いじゃん…行くのにも一苦労なのに…
と思ったが、いや待て。崇影は鷹だ。距離は問題じゃないかもしれない。
さすがのトーキスさんも、俺に毎日カルムまで通えとは言わないわけだし…
いや、それ以前にセイロンさんの意見は? ガン無視? そんで丸投げ?
まかり通るのか? それ…
ソラちゃんが『もー!!!』と頬を膨らます姿が目に浮かぶようだ……
「……俺としては有り難いが、森の主がそれを受け入れるのか?」
崇影も尋ねる。
そりゃそうだ。
行き当たりばったりで断られたら無駄足もいいとこだろ…
トーキスさんは「問題ねぇよ」と軽く言い、ズボンのポケットから羊皮紙を1枚取り出すと、スラスラと何かを書き綴った。
そしてそれをクルクルと丸めて紐で結ぶ。
「ほらよ。」
その紙を徐ろに崇影に渡した。
「これは何だ?」
「一筆書いといてやったから、これ持ってセイロンに会いに行け。俺がいくよりオマエが直接行く方がアイツは素直に姿を現すだろうしな。」
……強引だ。
セイロンさんとトーキスさんは古い仲のようだし、セイロンさんはよく分かっているのだろうけど、こういう強引なところを見るとトーキスさんはやっぱりトーキスさんだな…などと妙に関心してしまう。
「タカの鎖分銅、ありゃ拘束がメインだろ? だったら俺よりセイロンの方が師匠に向いてるだろうよ。アイツも拘束が常套手段だからな。しかもすげー厄介だぜ…一回手合わせしてみろよ。戦術を盗むにゃちょうどいいだろ? 適所適材ってやつだ。しっかり扱かれて来いよ。」
何だ、ただ責任を押し付けただけじゃないのか。
何となくホッとする。
ただの後付けの理由のような気がしないでもないが、戦闘スタイルが合うのなら、それは最適な判断なのだろう。
崇影もその内容に納得したのか、トーキスさんの目を見て「承知した」と頷いた。




