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19.加減は出来るっつったじゃん…①

 『自分を鍛える』と決意をした翌日から、俺は崇影(たかかげ)の指導の元、早速早朝のランニングと筋トレを始めることにした。

 店長はアルバイトの時間を減らしてトレーニングの時間を作っても良いと言ってくれたのだが、それは断った。

 正直、ネブラの洞窟での一件で、俺は自分の甘さと無力さにうんざりしている。

 今までいかにぬるま湯に浸かっていたのかを自覚せざるを得なかった。


 この島に来る前も……面倒なことは避け、何となくで学生生活を過ごしていた。部活も帰宅部。成績も普通。

 つまり……俺には何の取り柄も長所も無い。別にそれで構わないと思っていた。特に困ることも無かったから。


 だが、この島ではそれは通用しない。

 ただでさえ多種族が共生しているこの環境では、『人間』であるというだけで、俺は()()()()らしい。

 だからせめて、少しでも体を鍛えることで『守られるだけ』の立場から脱したい。

 そしてそのための時間は、あくまで自力で捻出しなければならない。今まで自分が怠けていた代償を払うのに、バイト先に迷惑をかけるなんて言語道断だ。


「よし!」


 俺は軽く準備運動をしてから気合いを入れた。

 店長が用意してくれた衣服のおかげで、今までとは比べ物にならない程動きやすい。


七戸(ななと)、準備はいいか?」


 崇影の言葉に俺は頷いた。

 今日から、崇影は俺のコーチだ。

 しっかり(しご)いて貰わねばならない。


「七戸、一先ず基本的な筋力トレーニングからだ。走り込みと筋トレは毎日行う。当然不随してストレッチも必要だ。」

「おう! ランニングだな! どの程度走ればいい?」

「軽く5キロだ。」

「……5キロか…時間内に戻れる自信ないけど…」

「15分もあれば戻れるだろう?」


 崇影がさも当然のように言う。

 いやいや、5キロだろ? 

 結構長いぞ…ぶっちゃけそんなに継続して走り続けられる自信も無い。


 これってやっぱ、途中で歩くとか許されない感じ…?


「行くぞ、七戸。」


 崇影は俺の心配をよそに、さっさと外へ飛び出して行く。


「崇影、待ってくれ…!」


 俺は慌てて後を追う形でランニングを開始したのだが…


 平然と走る崇影のスピードは、とても長距離向けのそれでは無かった。

 俺からしたら100メートル走の速度だ。このペースでは1キロも持たない。

 当然、俺と崇影の距離がどんどん離れていく…

 振り向いた崇影がそれに気付きペースを落とした。


「七戸、その速度では時間をロスする。もう少しペースをあげろ。」

「…った、崇影…っ、それは、無理、だって…」


 もはや息が上がりきってとても会話も出来ない状態の俺を見て、崇影は少し目を丸くした。


「……大丈夫か? まだ1キロ程度だが…」

「だいっ…じょぶ、じゃ…ない…かもっ…」


 ぜぇぜぇと荒い息が口元から溢れ、肺が悲鳴を上げているのを感じる。

 足も次第に思うように前に運べなくなって来た。

 無理も無い。安静にと言われてしばらくまともに体を動かしてすらいなかったのだから…

 まぁ…それでなくても元々俺は体力もスタミナも大して持ち合わせていないけどな。


「…七戸、今日はランニングはここまでにするか。店へ戻り次のメニューへ移ろう。」

「わ、わかっ…た…」


 俺は途切れ途切れの呼吸で何とか頷き、ドラセナショップへと戻った。


 崇影は相変わらず涼しい顔をしている。息1つ乱れていない…。

 俺も継続すればここまでになれるのだろうか?


「2人とも、朝からご苦労さま。頑張っているね。」


 開店前の店のソファで寛いでいた店長がそう迎えてくれたが、俺は息がなかなか整わず答えることも出来ない。


「今ので2キロ程度だ。七戸、毎日続けて5キロを15分以内で走れるようにするといい。」

「ま、マジで……」


 つまり、今より速度を上げた状態で15分間走り続けなければならないということだ。

 ちょっとキツすぎないか!?


 だが崇影は容赦無く「次は筋トレだな」と告げた。


「でももうちょっと、休憩を…」


 俺はそう懇願してみるが「時間が無い」と一蹴されてしまった。

 うう…厳しい……

 俺は仕方なく崇影に着いて先日トーキスさんと崇影が対決をしていた場所…店の裏にある広場へと移動した。

 さすがに店内で筋トレをするわけにもいかないからな。ただでさえドラセナは物が多くて狭いし。


 筋トレについても、崇影の指導の厳しさは半端無かった。


「初日は内容を軽くしよう。」


 そう宣言した崇影だが、先程の例があるため俺はある程度の覚悟を持って頷く。


「腹筋100回、スクワット50回、腕立て50回、背筋50回程度でどうだ?」

「…………。」


 俺は言葉を失う。

「加減は出来る」っつったじゃん……

 加減してコレなんだとしたら、鬼教官すぎるだろ…


「七戸?」


 全く悪びれない様子の崇影。

 コイツの中ではこれが「軽い筋トレ」のレベルってことだよな…そりゃムキムキにもなるだろ。

 てか、コイツ、前の主は人間だって言ってたよな…一体どんな屈強な奴に飼われてたんだよ…感覚が普通とズレすぎてないか!?


 俺だって、自分を鍛えるって決めた以上、泣き言は言いたくない。努力はする。

 けど、残念なことに初日からそんなアスリートみたいなメニューを指定されてこなせるほど強靭な体は持ち合わせていない。

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筋トレ地獄かわいそうに、頑張れななと!
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