18.気持ち新たに②
「そんな生地があるんですか!?」
正直それはめちゃくちゃ助かる!
今までは縮んだ際になるべく邪魔にならないようTシャツと短パンばかりで過ごしていたが、好き好んでそんな格好をしていた訳じゃ無いからな…
「勿論、靴も用意してあるよ。こちらが先に出来上がっていたのだが、せっかくなら揃えて渡したくてね。」
そう言って店長が取り出したのは、見た目は革製のショートブーツ。おまけに革のレッグホルスターまで用意されている。
ヤバイ。これは俺…ゲームの主人公みたいじゃないか!? カッコいいんじゃないだろうか!?
俺のテンションは一気に爆上がりする。
早速ブーツに足を収め、腿にレッグホルダーを巻く。
そしてそこには、ちゃっかり三口魔銃。
……これだけで強くなれたような気がしてきてしまう。
なんせ見た目だけは立派なガンナーだ!
我ながら俺って単純だ……と思うが、仕方無い。
カッコイイもんはカッコイイし、嬉しいもんは嬉しいんだ!!
「それからこれも…返しておこう。」
そう言って店長がポケットから取り出したのは……
「これ、壊れてたんじゃ……!?」
見覚えのある、コンパクト型のペンダント…魔鏡だった。
俺を洞窟で守ってくれた…俺が身に付けていた唯一の魔道具だ。
けど…確かにあの時、蓋が割れ、チェーンも切れたはず……
俺は店長の手から恐る恐る魔鏡を受け取る。
元に戻ってる…? なんでだ?
「トーキスが直してくれていたんだ。『幸木にはコレが必要だろうから、もう壊すなと伝えろ』と言っていたよ」
ふふ、と笑いながら店長がそう教えてくれた。
トーキスさんの『いいか、大事に扱えよ!』と念を押す声が聞こえた気がした。
何だかんだトーキスさんも俺を見捨てたりはしないんだよな…口は悪いけど。マジで。
先程の崇影との喧嘩を見た直後だからこそ余計にそう思う。
にしても…あの状態から直せる物なのか!?
俺がじっと魔鏡を見つめていると、店長が「全く元の通りには戻らなかったようだけどね。」と補足するように言った。
「どうやって修理したんですか?」
「店に余っていた別の部品をあれこれと物色していたようだよ。頑丈な素材を選んで壊れにくくする、とも言っていたね……トーキスはああ見えて手先が器用なんだ。壊れた物を直すのは得意分野だよ。」
い、意外……。
正直、トーキスさんはいつもダルそうな顔してるし面倒くさがりだから物にも執着しないのかと思ってた…
俺は改めて手の中の魔鏡を見つめた。
頑丈になるよう修理をし、その上で恐らく丁寧に磨いてくれたのだろう。
一見すると新品になったように綺麗だ。
「大事にします!」
「あぁ、そうしてもらえると私としても嬉しいね。」
次に会ったら、忘れずにトーキスさんにお礼を言わないとな…
そう思いながら、俺は改めて魔鏡を首に掛けた。
「七戸、一度その服の機能性を確認してはどうだ?」
崇影にそう言われ、確かに…と思った。
体に合わせて変化する服だと説明だけされても、実際どのように変化するのかは非常に気になる所だ。
「うん、是非試してみて欲しいね。」
店長にもそう言われ、俺は頷いて魔鏡の蓋を開けた。
やはり中の鏡も完璧に磨かれている。一点の曇りもない鏡面に、俺の顔が映り…俺の体は見えない何かに押し潰されて、圧縮された。
もはや見慣れた、子どもの自分の視界。
だがいつもとは明らかに違う。
「この服、マジですごいですね……」
俺は思わずそう呟きながら自分の体を改めて眺めた。
いつもなら、体だけが縮んで服はブカブカだったのだが、店長から貰った服の全てが、見事に俺の体の変化に対応して縮んだのだ。つまり、子どもの姿でもピッタリ。唯一サイズ変化の無い三口銃だけがデカく感じるけど、それは仕方が無い。
「良かった、機能性は問題なさそうだね。念の為、戻った際も支障無いか、確認をしてもらえるかな?」
そう言って店長が差し出した小瓶を受け取る。
先日の胡椒的なやつだ。
あまり好きでは無いが、致し方ない。
俺は瓶の蓋を開ける。それだけでふわっと鼻の奥を擽ってくる香辛料の香り…
「…っくしゅん!!」
まだ治りかけの傷が痛む。
それでも、随分マシにはなった。
俺の体は元のサイズに戻り、身に付けている衣類もブーツも全て、元のサイズへと戻った。
これはめちゃくちゃ快適だ!!
すごい技術だ。こんな生地が存在していたのか…
「うん、どちらも問題は無さそうだね。良かった。」
「はい、ありがとうございます、店長!! 助かります!」
「可能であればその体質に合う物を用意するのではなく、早くその体質自体を何とかしてあげたいのだけどね…なかなか糸口が掴めず、この程度のサポートですまないが……また引き続き調査は行っていくよ。」
「何から何までありがとうございます、店長。俺も動けるようになったので、今日からまた自分で色々試したり調べたり努力します!」
「俺も出来ることは少ないが、協力はする。」
「サンキュー、崇影!」
そう、装いも新たに今日から俺は再出発だ。
気持ちを入れ替えて自分を鍛えて…こうしてサポートをしてくれる人達にもう迷惑ばかり掛けないように『強い俺』になるんだ。
トーキスさんや崇影のようになれるとは思っていない。だけど努力で出来る範囲のことは全てやる。
目指すのは、この島で一人でも生きられる、胸を張って崇影と肩を並べられる自分。
うん、頑張ろう。今の俺でも出来ることは山程あるはずだ。
先日の洞窟で痛い目を見たが、だからこそ学べたことは多い。経験は全て糧にしていこう。
前向きに、ポジティブに。多分、俺に誇れることがあるとすれば、唯一それくらいのハズだから。




