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18.気持ち新たに①

 

 開店前に少しばかり揉め事があり、開店時間が少々遅れたものの、今日もドラセナショップは平和だ。

 まるで何事も無かったかのように。

 崇影(たかかげ)はいつもと変わらず無表情で淡々と仕事をこなしている。

 トーキスさんは、また仕入れのためにステルラに帰るエレナちゃんと一緒に店を出て行ったため不在だ。


 『戦闘訓練は来週から始める。それまでにちったぁ体鍛えて体力付けとけよ!』と言い残して出て行った。


 崇影がコーチに着いてくれるとはいえ、1週間で鍛えられるんだろうか、俺……

 

 カランカラン……


 来店を知らせるベルが鳴った。


「はい、いらっしゃいませ〜!」


 声を掛けつつ振り向くと、カペロ御者の装いをした獣人男性が立っていた。


「ドラセナさん、宅配です〜!」

「荷物ですか! ありがとうございます!」


 俺は急いで駆け寄り、御者の男性から箱を受け取った。引き換えに、小銭数枚…500リノ程度を渡す。

 御者の男性はニコッと笑い、それをポケットへしまった。

 所謂チップというやつだ。


 たまにこうして宅配便が届くのだが、基本的に宅配便はカペロの運行に合わせて動いているらしく、日本のネット便のような迅速さからは懸け離れている。

 カペロの利用の無い日は動かない、該当の場所付近への便が出なければ動かない。言うならば『ついでがある時に荷物を運ぶサービス』だ。

 そのため、急ぎの荷物はとても頼めない。


 荷物の宅配は、カペロ管轄の案内所が管理をしている訳では無く、御者のサービスの一環なのだそうだ。

 そのため送料は無料だが、受け取った側がチップを渡す、というのが常識となっている。

 (ただし、図書館等公共施設への便は案内所の管轄にあり、サービスではなく御者の給料に含まれているらしい。)


 当たり前のように御者へチップを渡した自分に、俺もようやくこの島の常識や文化に馴染んで来たよな…と感じる。

 普段の生活での違和感や不便さはほとんど無くなった。


 今回届いたのは30センチ四方、高さが20センチ程度の箱だ。

 大きさの割に軽い。

 御者の獣人男性はペコリとお辞儀をし、門の向こうに待つカペロの元へと駆けていった。


「お疲れ様です!」


 俺はその背中にそう声を掛け、荷物を店長の元へと運んだ。


「店長、荷物が届きました!」

「あぁ、やっと届いたね。」


 店長は嬉しそうに頷いた。

 よっぽど待ち望んでいた物なのだろうか?

 だが、店長は箱を俺から受け取ろうとはせず「七戸(ななと)くん、開けてごらん」と言った。


「俺が開けていいんですか?」

「あぁ。これは君のために注文してあった商品だからね。気に入ってもらえると良いのだが……」

「俺のために……?」


 一体何だろう? 

 中身に心当たりは無い。


 宅配で注文をしてあったということは、恐らく注文をしたのは随分前のことだろう。

不思議に思いながら箱を開けると、綺麗に畳まれた布製の何かが見えた。

 これは…服……?

 そっと取り出して広げてみる。


「似合いそうだな、七戸。」


 いつの間にか隣に来ていた崇影が俺の手元を見てそう言った。

 それは、不思議な手触りの素材で作られた服だった。 


 トップスはシンプルなウイングカラーのシャツと防弾機能付と思しき薄手のベスト。くすみブルーのフード付きジャケットがセットになっている。

 ボトムスはシンプルな茶のパンツだが、ふくらはぎあたりで締まっており、動き易そうだ。


 島の雰囲気によく馴染んですげぇカッコいいし、有り難いんだけど……


「あの店長……俺、縮むと服がブカブカになっちゃうので、普通の服はあまり着れなくて…」


 せっかくの好意を断るのは忍びない。俺が遠慮がちにそう言うと、店長は笑った。


「無論、分かっているよ。だからこそ仕立て屋に相談して特注で作って貰ったんだ。まぁ、着てみたまえ。」


 特注? どういうことだ? 普通の服じゃ無いってことなのか??

 言葉の意図が分からないまま、俺は店長に促され人目の無いカウンター奥で試着をすることになった。


 …あれ?

 着替えの最中に違和感を覚えた。

 これは何かが違う…()()()()()()()じゃない。

 いや、形は間違い無く服だし問題なく着られる。

 サイズも合わせたようにピッタリだ。

 違和感の正体は…着心地だ。

 生地が妙にフィットして、ピッタリ体に張り付いている訳では無いのに、まるで自分の体の一部かと思える程馴染む…初めての感覚だ。


 俺が着替えを終えて戻ると、店長は満足そうに頷いた。


「イメージ通りだ。よく似合っているよ、七戸くん。」

「あぁ、七戸…よく似合っている。」


 崇影もそう褒めてくれた。


「ありがとうございます。」


 俺は一先ずそう礼を告げてから、改めて服の一部を引っ張ってみた。とても良く伸びる。

 柔らかいのに頑丈という、一見相反する特徴を併せ持つ不思議な生地。


「店長…この服、今まで着た服と着心地が全然違うんですけど…」


俺の疑問に、店長は微笑む。


「体が縮んだ際、それに合わせてサイズが変化する特別な生地で仕立てた服だよ。勿論元の姿に戻った時は服のサイズも元に戻る。」

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