16.魔石と三口銃①
医者であるアリエスさんの治療を受けてから、ようやく1週間が経過した。
無理をしなければ寝ている必要までは無いと言われたため、この1週間はレジ打ちのみ手伝う形で店に出ていたが…配達も買い出しも、開閉店準備すらさせてもらえず、正直退屈でたまらなかった。
店長と崇影は、店内だけでなく生活のあらゆる面でフォローをしてくれた。
正直、怪我をしているからって俺を甘やかしすぎだろ…と思うほどだった。
崇影に至っては食事の介助までしようとしたため、さすがにそこまでは必要無いと丁重にお断りした。要介護の老人じゃ無いんだし、出来ることは自分でやりたい。
けど、それも今日で終わりだ!
ようやく俺も今まで通りに働ける。
「店長、今日は俺が外の準備をしてきます!」
俺は張り切って店長に声を掛けた。
店長は苦笑し、頷く。
「よろしく頼むよ、七戸くん。張り切るのはいいが、無理をしないようにね。」
「はい!!」
俺は清々しい気分で、まだ開店していない店の扉を勢いよく開け放った。
元々そんなに外に出るのが好きなタイプでも無いが、自由に動けないというのはあまりに不便だ。
「七戸、俺も一緒に外の掃除をしよう。店内の準備は終わっている。」
後ろから崇影もやって来た。
「崇影、さんきゅ!」
「七戸、動けるようになって良かったな。」
「あぁ。今日からは俺もしっかり働くぞ!!」
俺は自分を奮い立たせるように右腕を上げた。
傷は正直まだ全然痛いけど。でもこのままだと体がますます鈍りそうだ。
それに…
俺は密かに隣に視線を送る。
コイツ程にはなれないとしても、俺ももう少し鍛えて体を強くしたいところだ。
俺達が店内へ戻ると、店長に手招きをされた。
「七戸くん、開店の前に、ちょっといいかな?」
俺はすぐにカウンターにいる店長の元へと近づく。
「どうしましたか?」
「君の服を洗濯する際に、こんな物がポケットから出てきたのだが…」
そう言って店長がカウンターへ置いたのは、俺が洞窟で拾った不思議な形の三口銃。
そうだった、拾ったことをすっかり忘れていた。
「これは、君の物かい?」
店長が不思議そうに俺の顔を見る。
「いえ、これ…洞窟で拾ったんです。モンスターが消えた後に出てきて…もしかして店の売り物に出来るんじゃないかと思って、ポケットにしまったのを忘れてました。」
「あぁ、なるほどね。」
店長が納得したように頷いた。
「売り物になりそうですか?」
俺がそう尋ねると、「七戸が使ったらどうだ?」と後ろから崇影の声が聞こえた。
「今回のように危ない目に遭わないとも限らないだろう。七戸には自衛のための武器が必要だ。」
「俺が!? いや、実は拾った時、一発だけ弾が入ってて洞窟で一回だけ使ったんだけど…思うように撃てなかったんだよな。」
自嘲気味に笑って答える。
一応狙った敵に当てることは出来たが、狙いは大分ズレたし……何より反動が予想以上に大きくて肩が痛かったのをよく覚えている。使いこなせる気がしない。
「なるほどね。しかし崇影君の言うことにも一理ある。」
店長はそこで言葉を一度切り、俺の顔を見た。
「七戸くん、練習をしてみる気は無いかい?」
「え、練習……って銃のですか?」
「あぁ。他に得意な武器があるというのならば話は別だが…何も無いのなら、せっかく自力で手に入れたのだから、これを使えるようにしてみてはどうかな?」
いや、そりゃ…得意な武器なんて無いけど。そもそも俺は崇影やトーキスさんと違って戦闘力なんて皆無だ。
練習したところで、扱えるのか?
「あの、売り物としては…価値が低いですか?」
俺としては、ドラセナショップに貢献したいという思いもある。念の為そこは聞いておきたい。
「とんでもない。これはれっきとした魔道具だよ。その上銃となれば武器としても貴重な部類だ。軽く見積もって100万リノにはなるだろう。造りとしてはかなり古いから、骨董品的な意味でも価値がある。」
「魔道具!?」
まさかの答えだった。
不思議な形をしているとは思ったが、まさか魔道具だったとは……
この島の物価は、俺の感覚的には日本と大きくは違わないことから、約100万円程度の価値があるということになる。マジか……
「ただ、残念ながら武器類はドラセナショップではなく武器屋で販売してもらう必要があるからね。七戸くんが使わないのであれば、武器屋に買ってもらえるよう交渉するよ。」
武器屋に売るにしても、かなりの値段になるってことだよな…ドラセナショップの儲けとしては大きい。
にしても偶然拾ったとはいえ100万…100万かぁ……学生の俺にはとても手が出せない代物だ。身の丈に合わない、とも思う。
そんな高価な物を、価値もよく分かっていない俺が使ってもいいんだろうか?
確かにこれは自分でゲットした武器。それも魔道具だと分かったからには、正直手元に置いておきたい気持ちもある。
これは難しい選択だぞ、俺……
「どうする、七戸。」
崇影が俺の顔を覗き込む。
「素人でも、使えるようになるんでしょうか?」
俺の質問に、店長は微笑んだ。
俺にこれを持つ資格がある、と店長が認めてくれれば決心が出来る。他力本願だが、それが正直な気持ちだ。何かしら決意をするキッカケが欲しい。
「それは、君の頑張り次第だろうね。勿論、それなりの指導者は必要だろうが……」
「指導者って…」
誰ですか? と聞こうとした所で、店のドアが開いた。
あれ? まだ開店前だよな……?
不思議に思って入り口へ視線を向けると、店長が「あぁ、ちょうど良い人材が来たようだね。」と笑った。
扉へと顔を向けると、そこに立っていたのは……
「トーキスさん、エレナちゃん!!」
いつも通り面倒そうな顔のトーキスさんと、ステルラの自称看板娘のエレナちゃんだった。
「悪ぃ、タウラス。商品だけ持ち帰るつもりだったんだが、余計な奴まで着いてきちまった。」
「ちょっと! 余計な奴とは何よ!! トーキスに任せたら大事な商品を雑に扱われそうだから責任持って着いてきたんじゃない」
エレナちゃんは不服そうにトーキスさんに文句を垂れている。随分遠慮の無い言いようだ。
この2人、仲良かったのか…意外だな。
エレナちゃんはこちらへ笑顔を向ける。
「こんにちは〜タウラスさん! 七戸と崇影も、ちょっと久しぶり!」
そして、軽い足取りで駆け寄って来た。
「頼まれてた魔石ってこれで良かったかな?」
言いながらエレナちゃんが分厚い布を開き、カウンターに石を2つ、そっと置いた。
大きさは卓球ボール大、形は…亀の甲羅のよう、と表現すれば伝わるだろうか? 半分は球型だが、裏側は緩い湾曲になっている。色は白と水色の斑模様の物と、黄緑色の物。
これは、何の魔石なのだろう…未だ知識不足の俺にはよく分からないが、魔道具に使う石という認識で間違ってはいないはずだ。
「あぁ、ありがとう、エレナちゃん。」
「一応、他の石も用意だけはしてあるけど…売るにしても、使うにしても、初心者向けなら多分その2つがベストかなって思うんだよね。」
「そうだね、良い判断だと思うよ。」
笑顔でそう言いながら店長は慣れた手つきで三口銃の窪みにその2つの石を嵌め込んだ。
「それって、石を嵌めるための凹みだったんですね!」
妙な形だとずっと気になってはいたが、確かに魔石をはめ込むと納得のいく見た目になる。っていうか、めっちゃカッコイイ。
俺の中の少年が、欲しい!! と脳内で叫んでいる。
そんな心中を知ってか知らずか、トーキスさんが三口銃を手に取り俺の目の前に差し出した。
俺は思わず受け取る。石が嵌め込まれたせいなのか、拾った時より随分と重く感じる。
いや、値段を聞いたせいかもしれないな……
「銃口が3つあんだろ。けど弾は同時には発射出来ねぇから、どの属性の弾を撃つかで、こう…使用する魔石を押し込んで切り替えんだ。魔石を使わなきゃ通常弾が撃てる。撃つ毎にバレルが回転して3発まではリロード無しで撃てる仕組みだ。」
そう説明をしつつ、トーキスさんは俺の手の中の三口銃の魔石部分をグッと押し込んで見せた。
押し込まれた魔石は、仄かに輝きを放つ。
魔力チャージ状態ということだろうか…?




