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オルタンシア島滞在記〜特異体質の治し方〜  作者: 風見アシラ
第一章 オルタンシアへようこそ
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13.ネブラの洞窟①


「ここが、ネブラの洞窟……」


 図書館を出て、30分ほど歩いただろうか。

 俺はようやく目的地『ネブラの洞窟』らしき場所へと辿り着いた。

 図書館を出てしばらくは ぽつりぽつりと民家のような建物が見えたものの…10分も歩くと 建物はほとんど見えなくなり、さらに10分も歩くと、カペラも走れないような整備のされていない でこぼこ道を進むことになった。


 カルムの森の獣道と比べればまだ平坦だが、それでも歩きにくく、加えて進むにつれ周りの木々の背は高くなり…非常に視界の悪い景観がひたすら続いていた。

 歩道らしきルートがかろうじて確保してあるが、それを囲うように周りの木々がアーチ状になって陽の光を遮る。

 昼間だというのに薄暗く不気味な道だった。

 何度か引き返すことも脳裏に過ったが、ここまで来ておいて諦めるのも釈然としない。俺は覚悟を決めてひたすら洞窟へと歩き続け……ようやく見つけたのだ。


 けど……

 やっぱり止めておくべきだったかもしれない。

 俺はすでに心が折れかけていた。

 洞窟の中は暗く、入るのにかなりの勇気がいる。

 コウモリとかいそうだな……

 一先ず俺は鞄から懐中電灯とナイフ、収穫した物を入れるための袋を装備して、ゆっくりと入り口を見渡した。

 …湿気がすごい。

 どこからか水の流れるような音も微かに聞こえている。ぴちょん、ぴちょんと水滴が落ちる音が洞窟中に木霊している。 

 あまり進んで入りたい場所では無いが、ここまで来た以上行くしかない! 

 俺は自分を奮い立たせて、洞窟内へと足を進めた。

 ひた、ひた…と足元が湿った音を立てる。幽霊にでもなった気分だ。

 足元を照らすと、所々に苔が生えているのが確認出来た。ただ、先程図書館で調べた『炭苔(すみごけ)』…どころか、赤苔(あかごけ)も見当たらない。

 生えている苔は緑、もしくは青い物ばかりだ。

 もう少し奥へ進まないと採れないのだろうか……? なるべく早く採取を済ませてここを出たい所なのだが……

 と思いながら懐中電灯で周囲を照らしてみる。


「お!」


 俺は思わず声を上げ、足早に壁へと近づいた。

 懐中電灯の光を受けてキラキラとラメのように輝いている鉱石。天井から長く滴るような形をキープしている、それは紛れもなく……


鍾乳(しょうにゅう)石晶(せきしょう)だ!」


 図鑑で特徴や見つかりやすい場所についてもしっかり覚えてきたため間違いない。

 鍾乳石晶は幾重にも連なり、俺の身長でも何とか届く範囲まで伸びてきていた。

 よし、早速採取だ!!

 俺は手を伸ばして掴みやすい塊を握り、力をかけた。

 パキィィン……

 澄んだ音が洞窟内に響き渡り、鍾乳石晶の塊が俺の手の中へ収まった。

 良かった、思ったより簡単に割れるようだ。

 俺は収穫用に用意したジップ袋に鍾乳石晶を次々に割って入れる。

 この壁伝いに歩けば十分な量を収穫出来そうだ。

 そう思い前へと進もうとして…俺は盛大に足を滑らせた。


 ズルッ!!


 しまった、地面が濡れてて滑りやすいことは分かっていたはずなのに、鍾乳石晶を見つけた嬉しさで注意力が散漫になっていた……


 ドスンッ!!

 

「痛てて……」


 俺は盛大に尻もちを着いた。

 濡れた地面でズボンが染みて冷たい。

 後で温泉につかるつもりだったし、着替え持ってて良かった……

 そう思いながら、立ち上がろうとして…

 前方の大きな岩の奥に、黒い苔が生えているのが目に入った。

 炭苔(すみごけ)だ!!

 連続で目的の物に出会えるなんて、やっぱり今日はツイてるぞ!

 俺は転ばないよう慎重に炭苔の生えている岩へと向かう。足元は苔や泥、藻のような水草が所々覆っているため、滑りやすく歩き辛い。

 手で周囲の岩や壁を掴むようにして、何とか炭苔の元へと辿り着いた。


 赤苔が周囲に広がり、そのうちの一部が黒く炭化している。炭苔に間違いない。

 よし、これも採取だ!!


 持ってきたナイフで軽く削いでみると、炭苔は綺麗に剥がれた。

 鉱石の図鑑に載っていただけあり、苔だったとは思えないほどカチカチに硬化している。

 よしよし、どっちも簡単に集められそうだぞ。

 そう思い、次の炭苔に手を伸ばす。

 すると、炭苔の生えた石の下から何かがカサカサと這い出てきた。


「!!」


 何だ!? 虫!?


 思わず手を引っ込め、懐中電灯で照らしてみた。

 そこにいたのは……


「蟹……?」


 真っ黒な、炭苔と同じ色をした体を持ち、サイズは握りこぶし程度。動かなければ転がっている石と見分けがつかないが、左右それぞれに広がった複数の足の形状から、蟹の仲間のように見える。

 植物や鉱物だけじゃなくて、生物についても調べておいた方が良いのかもしれないな……

 そんなことを思いながら何となくその黒い蟹を眺めていると、突然、その背中の真ん中に亀裂が入り…ギョロッと大きな目玉が現れた。


 「っ!?」


 その不気味さに、思わず俺は後退る。

 1つ目だ…それも、小さなボディの大半を占める程のサイズ。ホラー映画にでも出てきそうなそのビジュアルに、ゾゾッと背筋に冷たい物が走る。

 モンスター……なのか?

 しかもその目玉はぐるり、と動き、俺を捕らえて動きを止めた。

 見られてる……!!

 俺は身の危険を感じ、その場を離れようと足を踏み出す。

 次の瞬間、蟹の腹部からぶくぶくと泡が放出されるのが見えた。

 何だか分からないが、触れたらヤバい気がする!! 

 俺の本能が逃げろと警鐘を鳴らしている。

 俺は泡に当たらないよう、大股で後ろへ飛び退いて距離を取った。

 泡は地面を這うように細く長く伸び…泡に触れた地面からは蒸気のような物が立ち昇っているのが見える。

 ……溶けてるのか?

 触れたら溶かされる? ヤバすぎだろ。


 蟹の目玉は離れてもまだ俺を見ている。

 どうする? 石でも投げたら、倒せるだろうか?

 逆上して襲ってくるだろうか?

 蟹は、左右の足をカサカサと動かし、少しづつこちらへ近づいて来る。動きは早くない。

 触れたら溶かされるかもしれない以上、近づくのは危険だ。

 俺は足元にあった、野球ボール程度の石を手に取った。

 球技は得意じゃないが、コントロールには少し自信がある。この距離なら当てることは出来るハズだ。

 あいつがそこにいる以上収穫も出来ない。

 ……やるしかないよな。

 俺は覚悟を決め、泡を放出しながらゆっくり近づいて来るデカ目玉の蟹目掛けて思い切り石を投げた。


 ぶんっ!!


 石は一直線に蟹の背中へと吸い込まれ……


 グシャッ。


 嫌な音が響いた。

 俺の投げた石は、見事背中の目玉に命中。

 蟹の目玉は潰れてえぐれ、その蟹は足を左右にピンと伸ばして、その場に動かなくなった。


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― 新着の感想 ―
どんどん冒険っぽくなってきてるからワクワクします。
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