第96話 動物園の世界 その2
「さあ、背中に乗れる動物を探しに行きましょう!」
気田のかけ声で、三人は動物園を回り始めた。最初の動物はシロオリックスだ。
「シロオリックス初手かよ!!伏線回収が早えな!!」
シロオリックスはウシ科オリックス属に分類される哺乳類。体長は175cmほどで体重は120〜220kg。砂漠やサヘルに生息していた動物で、小規模な群れを形成して生活する。
主に草を食べるが、果実なども食べる。寿命は15年前後で、野生では絶滅している。絶滅の原因としては乱獲、家畜との競合により生息数が激減した。シロオリックスは
「詳しいな説明が!!そんな希少な動物初手で出して良いのか!?」
「どうですか?乗ってみますか?」
「乗りづらいわ!!その説明されて背中に乗って良いですか?って言えねえだろ!!」
「はいはーい!私乗って良いー?」
「すげえなメンタルが!!」
真美はシロオリックスのオスに近寄り、尻を撫でて首筋を摩り、顎に指を添えて顔を近付けた。
「私とイイコトしてみる?」
「シロオリックスと何しようとしてんだ!!ちょ、やめてくださいね!?」
「え?ブラッシングだけど?」
「じゃあややこしい言い方すな!!びっくりするわ!!」
真美はシロオリックスの背中に跨り、腹を思い切り蹴って駆け出した。
「わーい!速い速ーい!そのまま元の世界まで行っちゃえー!」
「そんな戻り方できます!?ちょ、先輩どこ行くんですか!!」
「多分ボリビアのウユニ塩湖とかー?また戻って来るねー!」
「あちょっと先輩!!……行っちゃった……。まああれはあれでクリアなのか……?」
取り残された城田と瞬は、自分たちが背中に乗れる動物を再び探し始めた。
気田と三人でしばらく歩いていると、城田がとある檻の前で立ち止まった。
「うん?これは何の動物だ?」
「これはエゾサンショウウオですよ!体の色が暗いサンショウウオで、北海道にしか生息しない固有種です!」
「じゃあなんでここにいんだよ!!え、ここ北海道なの!?」
「いえ、ここは北海道ではないですよ?南陸壁です」
「無理に反対語作んな!!今考えたろそれ!!」
「そそそそんなことないでででですよ?」
「分かりやすい動揺!!」
気田が分かりやすい嘘をついている中、城田はエゾサンショウウオに引き寄せられている。
「これはどこか魅力的だな。エゾサンショウウオは何を食べるのだ?チャパティか?」
「パキスタン人か!!北海道の固有種って話だっただろ!!」
「ではここで我がナンを食べさせてみるか」
「なんでカレーに合わせるもんに拘んの!?」
「エゾサンショウウオは昆虫や蜘蛛を食べますよ!あとチャパティ」
「チャパティ食べんのかよ!!嘘つけお前!!」
城田はエゾサンショウウオに近寄ってしゃがみ込み、背中に跨った。
「さあ行くのだ、エゾサンショウウオのウウよ」
「どこ切り取ってんだ名前!!ネーミングセンスゼロか!!」
「しかしこのままでは小さいな。15cmほどしかないぞ。仕方ない、我の力で大きくしてやろう」
城田はエゾサンショウウオのウウに向かって右手を上げた。するとウウの体はどんどん大きくなっていき、体は流線型で白に青いラインが入った機械的なものに変わった。その姿はどんどん長くなり、体の下には線路が出来ていく。
「よし、これで良い具合の新幹線になったぞ」
「なんでお前新幹線にしちゃったの!?新幹線好き過ぎるだろ!!」
「これは博多行きだな。では博多まで行ってくるぞ」
「え、待ってお前まじで行くの!?バカじゃねえの!?」
「うむ。また戻って来るぞ。土産は期待していろ」
そう言うと城田が乗った新幹線は博多に向かって去って行った。
気田と共に残された瞬は、動物園の中で途方に暮れた。
「おいまじか……。また俺残されるパターンか……」
「まあまあ、ちゃんと乗れる動物探しましょう?瞬さんが見つければこの世界出られますから!」
「まあそうだな……。とりあえずオススメの動物とかいねえの?」
瞬が尋ねると、気田は少し考えてから案内図を指し示した。
「この辺にいるアジアアフリカインドゾウっていうのが乗りやすいですよ!」
「なんでゾウだけ種類混じってんだよ!!見たことねえわゾウオンリーキメラ!!」
「まあまあ、とりあえず行ってみましょう?」
気田に文字通り背中を押され、瞬は渋々アジアアフリカインドゾウの檻まで歩いて行った。
「……分かってたけど普通のゾウだな!!」
「ゾウもゾウも!ゾウと申しますゾウ!」
「ゾウゾウうるせえな!!1行に4つ入ってたぞ!?なんだその聞いたことねえフォーカードは!!」
「ゾウもゾウも、そんなのは良いので背中に乗るゾウ!」
「え、良いのか?俺まだなんもお前と喋ってねえけど……」
アジアアフリカインドゾウは目を細め、耳をパタパタと動かして言った。
「ゾウにツッコミを入れてくれる優しい人だって一瞬で分かったゾウ!今までもちゃんとボケに乗っかりながらツッコミ役をしてきたんだゾウね。ゾウには分かるゾウよ」
「お前……なんか良いやつだな」
「さあ!背中に乗って友達を追いかけるゾウ!行くゾウよ!」
「いや多分新幹線には追いつけねえよ!?」
アジアアフリカインドゾウは鼻で瞬を持ち上げ、そのまま背中に放り投げた。
するとそれを見ていた気田は、アジアアフリカインドゾウの背中に乗った瞬に拍手をした。
「おめでとうございます!この世界はこれでクリアです!」
「うん……なんかちょっと温かい気持ちになったな」
「さて、では次の世界へ向かって貰いましょうか!」
「……は?なんでお前が?」
瞬の理解が追いつかないうちに、気田は左手を上げた。すると世界は真っ黒に染まり、瞬の視界は奪われた。
「ゾウゾウ!真っ暗だゾウ!暗くて誰も何も見えないから、練習中のロボットダンスをしても良いゾウ?」
「お前この珍しいシリアスよくぶち壊せたな!?」




