第95話 動物園の世界 その1
城田が白いドアを開けると、ゾウやキリンなど様々な動物たち……が描かれたゲートの前に出た。
ゲートの横にはチケット売り場があり、どうやらちゃんとチケットを買って入園しなければならないようだ。
「わお!めっちゃ動物描いてあるね!私の小さい頃の絵は描いてあるかなー?」
「小さい頃人間じゃなかったとかあります!?」
「うん!4歳まではダイオウグソクムシだったよ!」
「だとしても水族館だろ!!動物園にはいねえわ!!」
「我が飼っていた缶コーヒーはいるだろうか」
「缶コーヒーは売られてるかもしれねえけど動物ではねえよ!!」
「名前はココアと付けたぞ。覚えているか?」
「覚えてるけどどうでもいいわ!!ややこしいし!!」
三人はとりあえずチケット売り場へ向かうと、城田が先頭でチケットを注文する。
「高校生二枚とシルバー一枚で」
「おいこら何シルバーで入ろうとしてんだ!!」
「だが見てみろ。ここには六十五歳以上はシルバー料金と書いてあるぞ。忘れたのか?我は八十八歳だぞ?」
「ああそうだった……。でも神がシルバーで入るのは許されるのか……?」
瞬が困惑していると、真美が会話に入って来る。
「だいじょーぶだよ瞬くん!城田さんちゃんと身分証持ってるよ?」
「え?そうなのか?」
「うむ。原付の免許証だ」
「なんでお前原付免許だけ持ってんだよ!!だから時々原付で移動しようとすんの!?」
結局城田が原付免許を見せ、高校生二枚とシルバー一枚でチケットを手に入れた三人は、動物園の中へ入って行った。
「わーい!久しぶりにデートっぽいところに来たね!瞬くん、楽しもうね!」
「勝手にデートにしないでくださいね?俺先輩とデートとか死んで転生して魔王倒してまた死んで冒険者になって成り上がっても嫌ですから」
「ちょっと輪廻転生繰り返し過ぎじゃない!?」
珍しく真美のツッコミが入る。どうもこの話題は真美には分が悪いようだ。
「よし、では早速動物園を見て回るぞ。瞬に真美よ、まずは何が見たいのだ?ショート動画か?」
「動物見ろよ!!俺はこれと言って特に……。先輩は?」
「私ハトが見たいなー!グレーのハト!」
「そこら中にいますよ!?飼育はされてねえけど!!」
「うむ。では鳩を見に行こうではないか。どの檻だ?」
「足下見ろ足下!!もういるから!!」
一旦しゃがんでハトを眺めた三人は、次に見る動物を決めることにした。
「いやーハト良かったねー!あの無機質な目がなんとも……」
「うむ。無機質な目が良かったぞ。無機質で無機質な無機質が無機質だ」
「お前無機質の意味分かってねえだろ!?ていうかそれより、こんなのんびりしてて良いのか!?今回のミッションは!?」
瞬が尋ねると、城田はゴンとつま先を叩いて声を発した。
「なんでつま先叩いた!?痛えだろ!!」
「ミッションのことを忘れていたぞ。それにしてもつま先が痛いな。何故だ?」
「お前が今全力で叩いたからだよ!!バカ過ぎるだろ!!」
「今回は管理人さんいないのー?どうせレースクィーンみたいな人でしょ?」
「動物園にそぐわねえ管理人!!どういう発想でそうなりました!?」
三人が騒ぐ中、カランカランと下駄の音が聞こえて来る。三人はその音に振り向くと、グレーのつなぎに帽子を被った飼育員風の男が、下駄を履いて歩いて来ていた。
「なんで下駄!?その感じで下駄!?」
「こんにちは!僕はこの世界の管理人、気田です」
「下駄の方に重きを置いたネーミング!!動物園要素どこだよ!?」
「皆さんにミッションを伝えに来ましたよ!この世界でのミッションは、この動物園にいる動物の中で背中に乗れる動物を見つけることです!」
「背中に……?頭に乗っちゃダメなの?」
「中国雑技団か!!首に負担かかり過ぎるでしょ!!」
「では我は左膝に乗るぞ」
「ずっと膝立てなきゃいけねえだろ!!素直に背中乗れ!!」
気田は三人の大騒ぎをスルーし、そのまま説明を続ける。
「背中に乗れる動物って限られてますよね。大きさももちろんなんですが、大人しかったりフレンドリーな動物を選ばないといけません。皆さんには、それぞれその動物を見極めて、背中に乗っていただきます!」
「なるほどー!じゃあ私は凶暴なリスとかに乗ろうかなー!」
「話聞いてました!?大人しくて大きい動物に乗れって話だったでしょ!!」
「我はまさかりを担いで白熊に乗るぞ」
「お前白金太郎!?……なんだ白金太郎って!!」
「ちゃんと『青銅』と書いた前掛けをしているぞ」
「せめて白金であれよ!!何太郎か分かんねえだろ!!」
気田はそんな三人の様子を見て微笑み、動物園のパンフレットを渡して来た。
「ここにこの『ジュレヌク動物園』の案内図があります!これを見て、気に入りそうな動物を見つけてみてくださいね!」
「ここジュレヌク動物園って言うの!?美術館の世界と同じじゃねえか!!あそこもジュレヌク美術館だったろ!!」
「ちなみに気田さん、ジュレヌクはいるの?」
「シロオリックスならいますよ」
「ジュレヌクいねえのかよ!!何のネーミング!?」
こうして三人は、背中に乗せてくれる動物を探しに向かった。




