第92話 電気の世界 その2
蓮司が先導し、雷雲の上を三人が歩いて行く。バチバチと雷が迸り、時折落雷の音も聞こえる。そんな物騒な雰囲気の中、城田と真美は言い合いをしていた。
「だーかーらー!夏はうちわ!これ以外認めないから!」
「いや、扇子だな。やはり風情が違う」
「何言ってるの!うちわだと自分で扇ぐ強さとか調整できるでしょ!」
「扇子を広げる時のあの快感を知らないのか?」
「うちわだったら取り出してすぐ使えるじゃん!」
「お前ら何言ってんださっきから!!どっちでもいいわ!!」
耐えきれず瞬が会話に入って来る。今まで黙って聞いていたが、そろそろ我慢の限界が来たようだ。
「瞬くんはうちわ派か扇子派かどっち?最近の暑い夏を乗り切るのに欠かせないのはうちわだよね?」
「いや扇子だな。見た目にも扇子の方が涼しいではないか」
「うるせえよさっきから!!クーラー使え!!」
すると前を行く蓮司が何かを発見したようで、三人に声をかける。
「あれを見るでマイクロウエーブ!あれは最新のクーラーだマイクロウエーブ!」
「ほらこのタイミングでクーラー見つけたってことはクーラー使えってことですよ!さ、家電キングに見せられるかもしれないから行きますよ!」
「城田さん、クーラーって何?」
「我も知らぬな。野菜などの皮を剥く道具ではないか?」
「それピーラー!!え、今までクーラーに出会わずに生きて来たんですか!?」
三人と蓮司が最新のクーラーまで近寄ると、どうやらこのクーラーも自我を持っているようだった。
「おー!どーもどーも!おらクーラーって言うだす!」
「田舎もんの喋り方!!最新のクーラーなのに!?」
「いやーそれにしても今日暑いだすね!ちょっと腕生やして手持ち扇風機使うだす」
「扇風機使うなクーラーが!!自力で涼しくなれよ!!」
「いやークーラーって自分は暑いんだすよ?頑張ってお部屋を涼しくしてる分、自分の温度は上がってるだす」
「そういうもんなのか……?ていうか蓮司!!お前手足生えてる家電は自分だけみたいなこと言ってたけど、こいつ腕生えてるじゃねえか!!」
「そうでマイクロウエーブよ?ほら実際こいつは足が生えてないマイクロウエーブ」
「やっぱお前嫌なやつだろ!!」
手持ち扇風機で涼み始めたクーラーを置いて、三人は更に前に進む。すると様々な家電が三人の前に現れた。
まずは冷蔵庫だ。
「やっほー!僕ちんは冷蔵庫!とっても重いから引越しの時は気をつけるんだぜ!」
「その割に口調は軽いな!!」
「でもでも、瞬くんだって口調まで重い冷蔵庫は嫌じゃない?」
「冷蔵庫が喋るのが嫌です」
次に現れたのはブラウン管テレビ。厚みのあるボディで、画面には砂嵐が流れている。
「ども、テレビっす。いやまじで最近思うことがあるんすけどね?いやーでも共感して貰えるかなー。あんまり思ってる人いないと思うんすよ。まあでも一応言いますね?塩ってしょっぱくないすか?」
「うっす!!体の厚みすげえのに話の内容薄過ぎてびっくりしたわ!!」
「うむ。本当だな。食パン一斤のように薄い」
「じゃあ厚いじゃねえか!!」
次に現れたのは掃除機。ゴミを吸いながらごちゃごちゃと何か話している。
「いやまじ片付けって意味無くね?自分がそれで快適なら散らかってても良くね?」
「お前だけはそれ言っちゃいけねえだろ!!」
「でもでも、私の部屋も散らかってるけど快適だよ?触ると一生髪が伸びない呪いにかかるスイッチとか置いてあるけど」
「すぐしまって貰えます!?」
「おおちょうど良い。我は散髪が面倒でな、ぜひそのボタンを押しに行きたいものだ。お前たちの世界に行ったら、そのボタンを押しても良いか?」
「うーんでも女の子の部屋に急に男の人が来るのってダメじゃない?女の子には秘密がいっぱいあるし」
「先輩にどんな秘密があるって言うんですか?」
「例えば普段テレビで相撲見ながらリズム四股踏みしてるとか」
「めちゃくちゃどうでも良かった!!意外でもねえし!!久しぶりに出てきたなリズム四股踏み!!」
その後も様々な家電が出てきたが、遂に城田と真美が家電キングにお披露目できる家電を見つけたようだ。瞬は自分が目を離した隙に見つけたらしいので不安に思っていたが、自信満々なのでとりあえず持って行くことにしたらしい。
そのまま三人と蓮司は、家電を持って家電キングのいる城へと向かった。
「俺はどんなやつにも媚びねえ。誰が相手でも気合いと家電愛でぶっちぎる。それが俺、家電キング様だ!」
「なんか男前ヤンキーみたいなやつ出て来た!!」
「わー!かっこいい!私後で署名貰おーっと!」
「サインじゃなく!?何の署名ですか!!」
「え?そりゃうちの学校に大相撲を誘致するための署名だよ」
「誰が署名すんだよ!!」
「で?おめえらはこの俺に何を見せようってんだ?」
「うむ。我々はお前が見たことの無い家電を持って来てやったぞ。見たら涙を流してくしゃみをするであろう」
「何お前花粉症とか持って来た!?」
城田が合図すると、蓮司が恭しく何かを持って来た。蓮司はそれを恭しく家電キングに差し出すと、恭しく礼をした。恭しいことこの上ない。
「うるせえな!!恭しいって言葉覚えたてか!!」
「なんだぁ?これは?」
「これは私たちが見つけた家電!その名も全自動うちわ扇ぎマシーンだよ!」
「何持って来てんですか!!もうほぼ扇風機じゃねえか!!」
「全自動うちわ扇ぎマシーン……?」
家電キングは全自動うちわ扇ぎマシーンを上から下まで舐めるように見て、近寄ってペタペタと触り始めた。
「ああ絶対ダメだこれ……。存在意義がねえもんこの家電……」
「気に入った!確かにこれぁ見たことねえ!」
「なんで!?扇風機の下位互換だよ!?」
「これでくだらねえ家電持って来たらそのままの意味で雷落とすとこだったけどな。ちゃんと見たことねえ家電持って来たからおめえらはクリアだ。さっさと土産持ってこの世界から出てけ」
「わーい!クリアだー!さっすが私たち!」
「うむ。華麗なクリアだったな。まるでサモエドの赤ちゃんのようだ」
「またどんくせえもん例えに出したな!!どこが華麗なんだよ!!」
蓮司と家電キングに見送られて城を出た三人は、雷雲の上を歩きながら次の世界へ向かう。
「城田さん、次はどんな世界?」
「次はロボットの世界だ。それより、我にそろそろ白いものを恵んではくれぬか?モッツァレラチーズとかが良いぞ」
「贅沢言うな!!ティッシュでも食ってろ!!」
こうして三人は、電気の世界をクリアしたのだった。
「ずっと思ってたけどここ電気の世界っていうか家電の世界じゃね!?」




