第88話 自動販売機の世界 その2
転職したい……と思った時、まさか転職エージェント使ってないよね?
え?使ってるの?ダメダメそんなんじゃ!
時代は企業マッチングだよ!
あなたの転職活動をゼロからサポート!自動であなたに合う企業とマッチング!
気に入らなければスワイプして、気に入った企業のみと面接を組めます!
そんなこと言われても、履歴書の書き方も職務経歴書の書き方も分からないよ……。そんなあなたに朗報です!
履歴書も職務経歴書も真っ白で大丈夫!そのまま出しちゃいましょう!
するとどうでしょう?バンバン企業からいいねが来て、もう選ぶのに困っちゃう!
企業からの条件ももちろん真っ白です!
何も規定が無い企業と、何も経歴が無いあなた。ぴったりのマッチング転職をサポートします!
企業とマッチングして面接に合格したら……夢の転職成功!みなし残業が月80時間付いている最高の生活をあなたに!
元気な朝礼で始まり、夜は充実の泊まり勤務!夜が明けた頃には既にキーボードを叩いている、爽やかな朝を迎えましょう!
さあ、あなたも真っ白な履歴書を持って『ホワイトマッチング』に登録しよう!
真美は早速最初の自動販売機に
「おいこらこの野郎!!またやりやがったな!!」
またあなたですか?話の進行を妨げないで貰えます?
「妨げてるのはお前だろ!!なんだその適当な転職サイトは!?」
ホワイトマッチングですけど?知らないの?時代遅れだよ?
「俺まだ就職とかしてねえから知らねえけど、それでもこれがダメなのは分かるわ!!履歴書とか真っ白でいいわけねえだろ!!」
でもちゃんと企業側の条件も真っ白だよ?
「だからダメだっつってんだよ!!適当にもほどがあるわ!!」
企業とマッチングして充実の転職ライフを送りたくないの?
「充実も何も仕事尽くしで真っ黒じゃねえか!!なんだこのホワイトを名乗ったブラックマッチングサイトは!?」
どこがブラックなの?みなし残業が月80時間なところ?
「全部だよ!!みなし残業もだし元気な朝礼もブラックくさいし残業し過ぎて泊まってんじゃねえか!!何が爽やかな朝だよ!!」
もー、そんなこと言って将来ホワイトマッチングを使えなくなっても知らないよ?
「使わねえから安心しろ!!転職したくてもこのサイトだけは手出さねえから!!」
で?そろそろ本筋に戻れとか言い出すんでしょ?毎回こうなんだから。
「分かってんなら最初から本筋スタートにしろよ!!何ちょくちょく要らねえボケぶっ込んでんだよ!!」
仕方ないなあ。じゃあここから本編スタートです!
真美は早速最初の自動販売機にお金を入れ、ボタンを押した。
「先輩は何買ったんですか?」
「え?家だけど?」
「家!?家!?家ってあの家ですか!?ハウス!?」
「うんそうだよ?家はタガログ語でbahayだよ!」
「それは知らねえけど!!え、一括で買ったんですか!?」
「うん!3LDKの二階建て!風呂トイレウォシュレット別!」
「なんでウォシュレットまで別なんですか!!下半身丸出しで移動するんですか!?」
ガコンと音がして真美の目の前に家が転がり落ちて来る。レンガ造りの立派な家が取り出し口から顔を出し、真美は当たり前のように家を取り出して中に入った。
「……いやいや入らないで!?ミッションやりましょうよ!!」
「瞬よ、せっかく真美が帰宅したのに理不尽なことを言うでないぞ」
「なんでこの世界に家買ったんだよ!!住むな!!」
城田も同じく自動販売機の前に立ち、10バーツを入れた。
「お前も買うのかよ!!」
「うむ。我の家を見て驚くであろう。舌が引っこ抜けるぞ」
「何そのセルフ閻魔大王!?」
ガコンと音がして城田の家が取り出し口に現れる。城田が家を取り出すと、それは木でできた三角屋根の家。
入口はドーム型の穴で、サイズは城田が抱えられるくらいだ。
「いや犬小屋じゃねえか!!スケールちっさ!!」
「これを真美の家の庭に置いて暮らすぞ」
「飼われるなよ神が!!情けねえな!!」
「我は犬で言うと六歳だからな」
「5歳じゃなかった!?何いつの間にか誕生日迎えてんだよ!!あとお前だけ漢数字使うちっちゃいボケやめろ!?」
城田が犬小屋に入って伏せをしたのを見て、瞬はため息をつきながらミッションに戻る。
「はあ……。こんなんじゃこの世界から出られねえぞ?とりあえず適当にジュースでも買って飲むか」
瞬は近くにあった普通の自動販売機に歩み寄り、お金を入れてコーラのボタンを押した。
ガコンと音がしてコーラの缶が出て来る。瞬が缶を開けようとしたその時、物凄いスピードで21022が転がって来た。
「うわあああ!!お前なんで転がって来るんだよ!!怖えよ!!」
「走るより転がった方が早いんです!それより瞬さん!それは何ですか!?」
「何ってコーラだけど……」
それを聞いた21022は目をキラキラと輝かせた。
「そんなもの初めて見ました!自動販売機の世界にそんな飲みものがあるなんて!」
「お前コーラ知らねえの!?自動販売機の世界の管理人なのに!?」
「今まで平屋とか三階建てとか地下室付きばかり見てきたので、こんな飲みものは見たことがありません!」
「えここの自動販売機って家売ってるのがデフォルトなの!?」
21022はスクワットを始め、瞬に頼み込んだ。
「お願いです!そのコーラとやらをボクに譲ってくれませんか?この通りです!」
「頼みごとする時は頭下げんだよ!!なんでスクワットなんだよ!!……まあ別にいいけど……。ほい」
瞬が21022にコーラの缶を手渡すと、21022は感動の涙を流した。
「ありがとうございます!この恩は一生忘れません!この世界をクリアとしましょう!」
「ええ……。なんかクリアしたんだけど……」
すると目の前の家から真美とリードで繋がれた城田が現れ、瞬の元へやって来た。
「情けねえな神!!完全にペットじゃねえか!!」
「城田さんお座り!お手!おかわり!風変わり!」
「最後ちょっとディスってませんでした!?」
「瞬くんやったね!ミッションクリアしたんだね!」
「ええまあ一応……。おい城田、次は何の世界なんだ?」
「次は夏休みの世界だワン。真っ白な宿題が待ってるワン」
「ダメだこいつもう犬になりかけてる!!」
「こら城田さん!鳴き声はバウでしょ!」
「なんでアメリカの吠え方なんだよ!!」
こうして三人は、自動販売機の世界を後にしたのだった。




