第82話 ハロウィンの世界 その2
「よーし!じゃあお菓子を集めに行こー!」
「本当にウミウシにされちまった……俺はもう終わりだ……」
張り切る真美に対し、瞬は下半身をウミウシにされたことに相当落ち込んでいる。
「どうしたのだ瞬よ。まるで下半身をウミウシにされたかのようだぞ」
「その通りだよ!!見て分かれよ!!」
「もー瞬くん、そろそろ落ち込むのやめよ?落ち込んでたら斜め上に進めないよ?」
「なんでちょっとズレた!?前で良いでしょ前で!!」
すると給水器の仮装をした加藤が、カゴを四つ持って現れた。
「皆さん、このカゴにお菓子を集めていってくださいね!30人から集めるんですからね!分かってますか?分かった方は右脇を上げて教えてください」
「どうやるんだよ!!人体の構造無視すんな!!」
「うむ。これで良いか?」
「なんでできんだよ!!……ああお前人間じゃねえもんな!!神だもんな!!」
「では皆さん、行きますよ!」
「わーい!私バイクで行くー!」
「バイクでお菓子集めたらひったくりみたいになるでしょ!!」
三人は加藤の先導で、並んでいる家を順番に訪ねて行く。
「さあ皆さん、こうやるんですよ!トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!家の前で三時間ぐらいソーラン節踊っちゃうぞ!」
「イタズラっていうか嫌がらせだろ!!そんなんでお菓子貰えるか!!」
「ひいいいい!ソ、ソーラン節だけはご勘弁を!この飴あげますから!」
「貰えた!!新手のカツアゲじゃねえか!!」
加藤が見本を見せた後、三人は順番に先頭に立って家の住人たちに声をかけていく。
「次は私の番だねー!トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ逆立ちするぞ!」
「勝手にしろ!!だからそんなんでお菓子貰えるかって!!」
「すまんがワシ逆立ちアレルギーなんじゃ。このお饅頭をあげるから勘弁してくれんかのう」
「逆立ちアレルギーだった!!渋いなお菓子が!!」
老人からお饅頭を貰うと、次は城田が先頭だ。
「我の番だな。トリックオアトリート。菓子を食らわば皿まで」
「どういう意味!?多分皿に乗ってるタイプのお菓子出て来ねえと思うけど!?」
「あら歯間ブラシの仮装なんて珍しいわね!サービスでチーズケーキあげちゃうわよ!」
「皿に乗ってるタイプだった!!」
次は順番的に瞬の番だが、城田は先頭を動こうとしない。
「どうしたんだ城田?次俺の番だろ?」
「いや、少し物足りなくてな。もう一度先頭に立っても良いか?」
「まあ別に良いけど……」
「感謝する。この恩は我の目が白くなるまで忘れぬぞ」
「じゃあもう忘れてんじゃねえか!!」
城田は再び先頭に立ち、次の家の扉をノックした。
「あなたは神を信じますか?」
「おいこらこら!!宗教勧誘すんな!!」
「ははあーっ!あなた様は神様ですね!貢物の干し芋をどうぞ」
「信じた!!あと干し芋はお菓子にカウントしていいのか!?」
満足そうな城田は調子に乗り、先頭でどんどんお菓子を集めていった。
「うむ。これで29個目だな。最後ぐらいは瞬に先頭を譲ってやろう」
「いや別にもういいけどな……。そもそも俺今化け物みたいな姿だし……」
「何言ってるの瞬くん!元々ツッコミモンスターなんだから多少化け物になっても変わんないよ!」
「がっつり失礼!!誰がモンスターだ!!……まあいいや、じゃあ先頭行きますね」
瞬は下半身を引きずり、最後の家の前に立った。
最後の家はかなり古いアパートで、壁の塗装がハゲている。
「ん?なんか見たことあるようなアパートだな……」
「瞬くん!早くインターホン押して!」
「ああはいはい。インターホン押して、トリックオアトリーt」
「なんの騒ぎでやんすか!?おらっちに何か用でやんすか!?」
「おいスティーブンソンじゃねえか!!お菓子の世界の!!」
なんと間髪入れず扉を開けて出て来たのは、お菓子の世界の管理人組合「樫本」の一人、スティーブンソンだった。
「お久しぶりでやんす!元気だったでやんすか?」
「お前なんでここにいんだよ!!お菓子の世界にいたんじゃなかったのかよ!?」
「おらっちの好きな言葉は、『石橋を叩く』でやんす」
「渡れ!!聞いてねえし!!」
スティーブンソンは瞬のツッコミを全く聞かず、家の奥からゴソゴソと何かを引っ張り出して来た。
「おらっちからのお菓子はこれでやんす!」
そう言ってスティーブンソンが三人に手渡したのは、魚の骨せんべいだ。
「なんでお前カルシウム取れるもんばっかり好きなの!?虫歯だらけなのに!!」
「これを食べて、甘くてふわふわなお菓子の世界を思い出すでやんす!」
「1ミリも思い出せねえわ!!硬えししょっぺえし!!」
スティーブンソンは三人にサムズアップし、そのまま家の中へ戻って行った。
「まさかのスティーブンソンさんだったね!虫歯3本増えてたね!」
「なんでこの一瞬でそれに気づけるんですか!!」
「だがとりあえずこれで三十人からお菓子を集めたぞ。加藤よ、これでミッションはクリアで良いのか?」
最後尾で骨せんべいを貪っていた加藤は、せんべいかすを口の周りに付けて顔を上げた。
「何してんだお前!!骨せんべい好物なのかよ!!」
「あ、クリアですよ。どうぞ次の世界へ」
「終わり方あっさりしてんな!!お前ハロウィンへの熱意どこやったんだよ!!」
「わーい!とりあえずクリアだね!城田さん、次の世界はどんな世界?」
「うむ。次はおもちゃの世界だ。白いぬり絵などがあるぞ」
「塗る前は大体白いだろ!!」
こうして三人は、ハロウィンの世界を後にしたのだった。




