第80話 クリスマスの世界 その2
シャンシャンと鈴の音が夜空に響き、月に照らされて赤い服の三人組の姿が浮かび上がる。
そのうちの二人は、肩車をしていた。
「……いや何してんだ!!危ないですって!!」
「だいじょーぶだよ!落ちないって聞いてるよ?」
「今回もそうなの!?前回だけじゃなく!?」
真美を肩車していた城田が上を見上げて口を開く。
「真美よ、次はサボテンをするのはどうだ?」
「してどうなるんだよ!!意味だけ教えて!?」
「いいねー!じゃ、私が下ね?」
「やるんかい!!せめて先輩が上であれよ!!」
真美が城田を上にしてサボテンをしていると、ソリを引いていたトナカイが急に立ち止まった。
「おやー?何かトラブルかな?配送指定時間から遅れたとか?」
「そんな宅急便みたいなシステムなんですか!?」
「いや違うぞ。前のソリで起きた人身事故だ」
「電車か!!空飛んでてどうやって人轢くんだよ!!」
「それは鳥人間コンテストの入賞者がいたからだ」
「だとしてもだよ!!クリスマスの夜に空飛ぶなややこしい!!」
するとトナカイが三人の方へ顔を向け、口を開いた。
「ごみんごみん、びっくりしたっしょ?」
「喋んのかよ!!軽いな口調が!!」
「もう上がりの時間なんで、帰ってもいい?」
「お前バイトなの!?いやクリスマスの夜に働かないでいつ働くんだよ!!」
「僕ちん今日早上がりなのよねー。クロちゃんにも伝えたはずなんだけど」
「苦労酢のことクロちゃんって呼ぶな!!」
「じゃ、そゆことで〜!また来年〜!」
「おい待てお前!!苦労酢に報告するぞ!!」
「あ、どーぞどーぞ。僕ちん早上がりしたいって伝えてるから。クリスマスだからって残業させられちゃ敵わないよね〜」
「なんだこいつ!!令和の学生か!!」
結局トナカイは空中にソリを置いて帰って行ってしまった。残された三人は、途方に暮れてとりあえずUNOを始める。
「始めねえわ!!呑気か!!」
「でもどうしよーね?トナカイさんどっか行っちゃったら、私たちソリ動かせないよ!」
「我に任せておけ。名案がある」
城田はそう言うと、ソリの前方に向かって右手を上げた。
するとさっきまでトナカイがいたところに、細長い四本足が生え、長めの首を持った動物が出現した。ちょろっと生えた耳と長く伸びた口。牛と鹿の中間のような動物だ。
「……いやジュレヌクじゃねえか!!」
「違うぞ瞬よ。これはインパラのメスだ」
「またかよ!!俺何回ジュレヌクガチャ外すんだよ!!……なんだジュレヌクガチャって!!」
「よし、ではインパラのメスよ。トナカイの代わりに夜空を駆けろ」
「合点承知之助ザマス!!」
「語尾ザマスなのかよ!!嫌味金持ちババアか!!」
とりあえずインパラのメスにソリを引かせた三人は、子どもたちにプレゼントを届けに向かった。
「よーし!最初のお家はここだね!プレゼントは……さきいか!」
「おっさんか!!子どもが喜ぶかそんなもん!!」
「次は自分の部屋が欲しいと書いてあるぞ。ボツワナ共和国のタワマンでもあげるか」
「せめて行けるところにしてあげて!?あとリフォームしたら済む話だと思うぞ!?」
「次のお家のプレゼントは……しゃもじだって!」
「買え!!それぐらい買え!!逆に今まで何使って米よそってたんだよ!!」
「次は土地が欲しいと書いてあるな。ちょうど冥王星が余っていたからあげようではないか」
「冥王星って余るもんなの!?だからせめて行けるとこにしろって!!」
順調にプレゼントを配っていく三人。そして遂に最後のプレゼントだ。
「これで最後だね!プレゼントは……妹が欲しいって!」
「あーそういうこと書く子どもいますよね。両親に頼めって話ですけど」
「大丈夫だ。我に任せておけ」
「あ!おいちょっと城田待てって!お前何する気だよ?」
「カヌーに乗ったつもりで任せておけ」
「結構な確率で転覆しそうだけど!?」
城田は煙突に回転しながら飛び込み、家の中へと入って行った。
「城田のやつ……何するつもりなんですかね?」
「わかんないけど、神話だと神様が人間と交わっちゃうこと結構あるよね?」
「え、そんな生々しい方法で妹作ろうとしてるんですか!?」
「きゃーーー!!!」
その時、家の中から甲高い叫び声がした。
「なんだ!?何があった!?まさか本当に母親を襲ったとか!?」
「瞬くん!私たちも入ろう!待ってね、今チャットに招待するから」
「グループチャット入ってどうするんですか!!家入りますよ!!」
瞬、真美の順で煙突から家に入る。するとそこには、黒髪で三つ編みおさげのカツラを被った城田が、ミニスカート姿で子どもに迫っていた。
「おい城田てめえ何してんだ!!」
「うん?妹が欲しいと言うから、我がなってやろうと思ったのだが?」
「思ったのだが?じゃねえよ!!気持ち悪い発想だな!!」
「ちょっと城田さんそういうことなら私に言ってよ!私が妹になったのに!」
「対抗すんな!!なれて姉だわ!!」
すると子どもは涙目で三人を見て、か細い声を発した。
「私のプレゼントって……これ?」
「ほら見てみろよ!!めちゃくちゃ嫌がってるだろ!!」
「うん……私、これはちょっと……」
「あちゃー!完全に引いてるね!こういう時はさ、ちゃんと代わりのプレゼントがあるんだよねー!」
そう言うと真美が取り出したのは、インパラのメスのぬいぐるみだ。
「はいお嬢ちゃん!これあげるから、妹みたいに可愛がってね?」
「わー!おねーちゃんありがとー!」
子どもが笑顔になったところで、夜空に浮かぶ星が動き、文字を作り始める。
「えーっと?『おめでとう この世界から 出られるよ 私はいつも 出られないけど』……また短歌詠んでるよ苦労酢!!嫌な公家!!」
「わーい!これでクリアってことだよね?やったー!」
「しかし今回はちゃんといい話で締めましたね。珍しい」
「うん!そのためのインパラのメスだったからね!美術館の世界の時からこのオチは決まってたよ!」
「嘘つけ思いつきだろ!!まあいいや。城田、次は何の世界だ?」
「うむ。次はハロウィンの世界だ。白い南瓜があるか楽しみだな」
「ねえよ!!カボチャ漢字で書くな!!」
こうして三人は、クリスマスの世界から脱出することに成功したのだった。




