第76話 妖精の世界 その1
城田が白いドアを開けると、そこは木々が生い茂る森の中。
枝葉の隙間から日が差し込み、地面に金色のヒョウ柄模様が浮かび上がっている。
幻想的なその光景を見て、真美は目を輝かせた。
「わお!凄い光り輝いてるね!まるでおっさんのハゲ頭を集めて作ったミラーボールみたい!」
「ハゲ頭だけじゃダメでした!?なんだその地獄みたいなミラーボールは!?」
「禿げ頭にも色々あるものだ。つるっパゲにてっぺんハゲ、M字ハゲなど色々あるが、お前はどの禿げ頭が好きだ瞬よ?」
「知らねえよ!!どれも好きじゃねえわ!!あとハゲ頭漢字で書くな!!」
「あと若くしてハゲてる人もいるよね!私の中学の同級生もちょっとハゲてたから、芝刈り機で坊主にしてあげたことあるんだよねー!」
「人の心無いタイプの人ですか!?」
話しながら三人は森の奥へ進む。森の中は日が差し込んで明るいが、どこに向かっているのかも分からない状況だ。
「これ大丈夫ですかね?迷子になってません?」
「だいじょーぶだよ!いざとなったら正明叔父さん呼べば助けてくれるし」
「久しぶりに聞いたその名前!!第2話以来だな!!なんなんですかそのややこしそうな人!!」
「ぶっちゃけ正明叔父さん呼べば今すぐ家に帰れるんだけどね!」
「早く呼んで貰ってもいいですか?」
三人は更に前に進むが、一向に景色が変わらない。どうやら瞬の言った通り、迷子になってしまっているようだ。
「ダメだこりゃ!絶対迷ってますって!そもそもこれどこに行こうとしてるんですか?」
「そりゃあそこじゃない?ら〇ぽーと海老名!」
「なんで今海老名まで行くんですか!!森なのに!?」
「真美よ、違うぞ。我々が行こうとしているのは、ら〇ぽーと豊洲だ」
「どっちだっていいわ!!商業施設には変わりねえじゃねえか!!」
「だがら〇ぽーと豊洲はアーバンドックというタウンネームが付いていて、東京湾岸エリア最大級の商業施設なのだぞ」
「だから何なんだよ!!ここ森だし!!湾岸エリアじゃねえし!!」
気づくと三人は、ぐるぐると同じ場所を回っているようだ。
「どうしましょう、これじゃただの遭難ですよ!!」
「うん、そうなんだね!」
「やかましいわ!!呑気か!!」
真美は落ちていた小石を拾い上げ、近くの木に打ち付け始めた。
「先輩?何してるんですか?」
「これで目印付けとこーと思って!一回来たかどうか分かるじゃん?」
「おお!ナイスアイデア!流石先輩!」
「えへへー、そーでしょ?今ここに目印としてバラの絵を描くから待っててね!」
「なんでそんな凝ったもん描くんですか!!✕とかでいいでしょ!!」
「瞬よ。それでは自然にできた傷と見分けが付かない可能性があるぞ。真美が凝った絵を描くのも納得だ。だから我も目印を付けておこう。この木の下に菊の花を……」
「おい葬式か!!長々喋って不謹慎なボケすんなよ!!」
三人がそんな会話を繰り広げていると、木の陰からクスクスと笑い声が聞こえた。
「今誰か笑ったよ!誰ー?生徒指導の竹山先生?」
「なんで竹山いるんですか!!あの人そうそう笑うキャラじゃないでしょ!!」
「いや、今笑ったのはナンパ学の岸本先生だ」
「そんな教科ねえわ!!適当に喋んな!!」
「女性への声のかけ方を教えてくれる教科らしいぞ。『Kitacaチャージしてる?』とか」
「なんで北海道の女にしか声かけねえんだよ!!地域が限定的過ぎるわ!!」
結局笑い声を無視して騒ぎ始めた三人の前に、小さな光りが躍り出た。
「なんだ!?……いや待てよ、ここ確か妖精の世界とか言ってたな。てことはこいつが妖精!?」
「YO!SAY !お前らなかなかおもしれえ!でももうちょい気にしてくれてもいいぜ!クスッと笑った俺の存在!見えてるかこの光る天才!」
「めっちゃラップ調だった!!なんだこの陽気な妖精は!?」
「俺は妖精!鋭い感性!無いとこの姿は透明!見えるお前ら超新星!だけど崩壊する理性!」
「うるせえなこいつ!!普通に喋れねえのかよ!!」
「ふむ。妖精だからYO!SAY!と始めたのだな。見事なダジャレだ」
「お前このタイミングでそこ分析すんのやめろ!?ボケ解説されることほど恥ずかしいことねえから!!」
妖精は瞬の鼻先に来ると、軽く一礼して話し始めた。改めて見るとその姿はいかにも妖精という感じで、緑のシャツに緑の半ズボンを履き、金色の髪と背中に生えた半透明の羽が幻想的な雰囲気を醸し出している。
「あ、どもっす。オイラ妖精っす。」
「普通に喋れんのかよ!!軽いな喋り方が!!」
「いやーあんまりあんたらが迷ってるもんで、笑っちゃいましたよー!でもあんたら、会話おもろいっすね!」
「嬉しくねえ!!で、お前がここの管理人ってことか?」
「そっす!オイラの名前は田吾作っていうっす!よろしくっす!」
「お前田吾作っていうの!?その感じで!?」
「こら瞬くん!名前差別は良くないよ!私のお母さんだって純日本人なのに名前バナフシェだからね!」
「アラブ人か!!え、名前バナフシェで語尾熊本ってキャラ濃すぎません!?」
田吾作は真美が名前をフォローしてくれたのが少し嬉しかったのか、はにかみながら話を続けた。
「この世界は妖精の世界っす。この世界における妖精っつーのは、何か自然的なものに宿っている魂みたいな存在っす。あんたらで言うところの精霊が近いっすかね。なんで、その妖精たちの誰かと仲良くなれれば、この世界はクリアっす」
「うむ。それがこの世界のミッションなのだな。して田吾作よ、お前は何の妖精なのだ?」
「オイラは厚底スニーカーの妖精っす!」
「えらく現代的な妖精だな!!だからそんな軽い感じなのかよ!!」
「まーまー、何にでも妖精がいるってことだよ!私が大事に育ててたルームフレグランスも魂があるのかなー?」
「消耗品なんで多分無いですね」
こうして三人は、田吾作とともに仲良くなれる妖精を探しに向かった。




