第74話 忍者の世界 その1
城田が白いドアを開けると、そこは小さな和室。誰もいないが、怪しい掛け軸や回転しそうな壁があり、分かりやすい忍者屋敷だ。
「わお!これ絶対なんか出て来るやつだよね!これっくらいのお弁当箱とか!」
「なんでそんなもん出て来るんですか!!何詰めるんだよ!!」
「そりゃ歌にあるでしょ?これっくらいの♪お弁当に♪お茶菓子お茶菓子ちょいと詰めて♪」
「おにぎり詰めてくださいよ!!なんでお茶請けだけ入れてんだよ!!」
「だってお弁当と一緒に飲みもの飲むでしょ?スポーツドリンクとか」
「せめてお茶飲んで貰えます!?」
城田は騒ぐ二人を手で制し、真面目な顔で口を開く。
「真美よ、そこはお茶菓子ではないぞ。正しい歌詞はこうだ。小樽市小樽市ちょいと詰めて♪」
「北海道の!?どんだけでかい弁当箱持ってんだよ!!」
「そんなに大きくはないぞ。六段あるだけだ」
「小樽市を切り分けんな!!せめて一段に入れてやれ!?」
「ちゃんと台形の箱を六段積んでいるぞ」
「跳び箱みたいになってんじゃねえか!!弁当どこ行ったんだよ!!」
瞬が城田の相手をしていると、ガラガラと正面扉を開け、黒装束に忍び頭巾を被った忍者風の男が入って来た。
「おいこんだけ仕掛けありそうなんだからどれかから来いよ!!何普通に正面から入って来てんだ!!」
「ちょっと瞬くん!忍者は予想外のところから来るのが常識でしょ!」
「確かに予想外だったけども!!すぐ捕まるじゃねえか!!」
入り方に散々ダメ出しをされている忍者風の男は、気にする様子も無く三人に話しかけた。
「そんなところで集まって何してるんだい?まるで今からダンスパーティーでも始まるみたいじゃないか」
「アメリカのホームドラマみたいな喋り方してる!!」
「おいおい、そこで突っ立ってたら出来たてのアップルパイが冷めちゃうぜ?……おっとすまない、君はりんごアレルギーだったなマイケル」
「誰がマイケルだよ!!りんごアレルギーでもねえわ!!」
「そんなにカリカリするでない妹蹴よ。こういう忍者もいても良いではないか」
「勝手に漢字にすんな!!なんだその妹虐めてそうな当て字は!?」
「え?瞬くん妹いるの?ハイブランドのゴルフウェアとか着てる?」
「叶美香か!!そんなファビュラスな妹いねえわ!!」
忍者風の男は、三人にアップルパイを手渡しながら再び話し始める。
「僕はこの世界の管理人、服部ステイサムだ。よろしく!……おっと、アップルパイを持ったままじゃ握手ができないね。この場で食べ切ってくれないかい?アップルパイの分体重は増えるけどね」
「うるせえなこいつ!!なんだステイサムって!!」
「してハッサムよ。この世界でのミッションを教えてくれぬか?」
「ポ〇モンみたいな略し方すんな!!」
服部ステイサムは両手を上げ、大きく目を見開いて言った。
「それはとっても良い質問だね!いいだろう、ミッションを教えよう。この世界での君たちのミッションは、忍術をマスターすることだ!」
「マスター?ああ、化粧品とかのお試しできるやつだよね!」
「それテスター!マスターぐらい分かってくださいよ!!」
「真美よ、違うぞ。折りたたみ式の屋根を持つ二人乗りのオープンカーだ」
「それロードスター!!もう全然違うぞ!?」
服部ステイサムは新たにアップルパイを焼き始めつつ、ミッションについて詳しく説明を始めた。
「おいもうアップルパイ要らねえよ!!そろそろ忍者らしいことしろ!!」
「忍術って言っても色々あるよね。今回は君たちに何かひとつを選んで貰うよ!」
「じゃー私ピンクのワンピースかな!」
「勝負服選んでどうするんですか!!忍術選んでくださいよ!!」
「我は鉄色のワンピースの方が良いと思うぞ」
「忍術選べっつってんだろ!!」
服部ステイサムは騒ぐ三人を気にすること無く、スペアリブをオーブンに入れる。
「おいそろそろアメリカ料理やめろ!!忍者のプライドどこ置いて来たんだよ!!」
「んー!このアップルパイ美味しいよ!すっごい甘い!」
「うむ。まるで高級ティッシュのように甘いな」
「ティッシュより甘いもんいくらでもあるだろ!!てか食うのやめろ!!」
「瞬よ。高級なティッシュは甘いものだぞ」
「そんな常識みたいに言われても!!」
服部ステイサムは焼きあがったスペアリブをオーブンから取り出し、背中の刀で三人に切り分けた。
「おいこら刀そんなことに使うな!!」
「とりあえず今日は一旦ホームパーティーだ!ピザも頼んであるから、みんなで盛り上がろう!」
「わーい!私ピザの具はパンが好きなんだー!」
「なんも乗ってないのと一緒ですよ!?」
「我はピザの具は高級ティッシュが」
「ティッシュはもういいわ!!オーブンで燃え尽きるだろ!!」
「そんなに興奮しないでジョン!まだまだ夜はこれからだぜ?」
「誰がジョンだよ!!マイケルだわ!!……誰がマイケルだ!!」
こうして三人は、服部ステイサムと一緒に忍者屋敷でアメリカ式のホームパーティーを始めた。
そして次回、忍術を学ぶ三人にまさかの展開が!絶対に見逃すな!
次回『七面鳥の丸焼き』
乞うご期待!
「まだホームパーティー続くのかよ!!さては忍術学ばせる気ねえな!?」




