第72話 化石の世界 その1
「よし、では化石の世界へ向かうぞ」
城田はヘッドホンとマイクを持ち、白いドアノブに手をかける。
「いや待て待て!!お前ヘッドホンとマイク持っていくの!?」
「うん?何か問題があるのか?」
「化石の世界に要らねえだろ!!なんで持ってくんだよ!!」
「化石を食べる音のASMRを配信するためだぞ」
「食うなそんなもん!!あと化石のASMRはただうるせえだけだろ!!」
その後ろで真美は椅子に座っており、こちらもヘッドホンを付けてマイクに向かっている。
「さー時刻は酉の刻!始まりました!真美ちゃんの『色んな叫び声ラジオ』!今回は喧嘩っ早いネコに出会った時の叫び声からスタートです!シャアアアアアアア!!!」
「もうダメだあの人!!正常な思考を遥か彼方に捨てて来てる!!」
「次にシャワーのお湯が熱かった時の叫び声です!シャワアアアアアアア!!!」
「そのままじゃねえか!!いやちょっと先輩!次の世界行きますよ!」
真美は振り向きざまに瞬に向かって口を開いた。
「シャアアアアアアア!!!」
「おい誰が喧嘩っ早いネコだ!!ちょ、行きますよ!」
「えー!もっとラジオ放送したーい!ラジオ体操第1.5とか」
「なんでラジオ体操第1にスピンオフできてんですか!!」
「我はラジオ体操第0の方が良いと思うぞ」
「前日譚とか要らねえって!!ラジオ体操の何が語られんだよ!!」
「体を横に曲げる運動で魔王を倒す勇者の物語だ」
「……それはちょっと興味あるけど!!今は化石の世界に行くんだろ!!」
「おおそうであったな。では化石の世界へ向かうか」
城田は右足で白いドアを押し開け、化石の世界への扉を開いた。ドアを潜って見渡すと、広大な博物館のような空間だ。
「おい雑に開けんな!!そこだけはちゃんとやれ!?」
「そんなことより瞬くん見て!凄いよ!!」
真美が指差した先には、巨大な恐竜の化石があった。肉食恐竜のようで、鋭い歯と長いしっぽを持っている。短い手には何か細長いものを持っているようだ。
「おお……!ちゃんと恐竜の化石ですね!でも何ザウルスなんだ?」
「あれはフルートザウルスだよ!手に持ったフルートで2000年代のK-POPを吹くんだって!」
「なんだその陽気な恐竜は!?時代設定がむちゃくちゃだな!!」
瞬と真美が騒いでいる中、城田は別方向を指差している。
「見ろ瞬よ。あっちの恐竜は首を傾げているぞ」
「おお本当だ……あれは普通なんだよな?」
「うむ。『あれ?』と色んなことを不思議がる好奇心の強い恐竜、アレックスだ」
「やかましいわ!!アメリカ人みたいな名前だな!!」
「アレックス・カブレラだ」
「じゃあベネズエラ人じゃねえか!!今カブレラ知ってる人いる!?」
アレックス・カブレラはベネズエラ出身の元プロ野球選手で、日本では3球団を渡り歩き、パ・リーグのシーズン本塁打数最多記録を持っている。
主に一塁手として活躍した選手で、守備範囲は狭いが捕球能力には定評があり、ザ・ホームランバッターという見た目の割に守備の上手い選手として知られている。
カブレラの日本時代の背番号は、3球団全てにおいて『42』だった。
カブレラは
「カブレラはもういいわ!!どんだけ詳しく紹介すんだよ!!」
「だがカブレラのキャリアについて興味があるであろう?」
「別にねえよ!!逆になんであると思ったんだ!?」
「いつもアレックス・カブレっていたからだ」
「その言葉の意味だけ教えて貰える!?」
城田たちがアレックスの化石を見ていると、カツカツと足音が響いて来た。
三人がバアーンと振り向くと、そこにはシャツにカーディガンを羽織り、タイトスカートを履いて丸メガネをかけた女が近づいて来た。
「そんな劇画調の振り向き方してねえわ!!もっとマイルドに振り向いたぞ!?」
「そーだね!ねろーんって振り向いたよね!」
「そんなソースが垂れた時みたいに振り向いた覚え無いですけれども!?」
女は三人の元へやって来ると、静かにマスクを付けながら三人に話しかけた。
「はじめまして。私はこの世界の管理人、岳鯨院です」
「学芸員じゃねえのかよ!!っていうかなんでマスクした?」
「あなた方のような汚らわしい空気を持った人間とは、なるべく接したくありませんので。あまりあなた方に接すると、肺がんになってしまうかもしれませんし」
「失礼過ぎるだろ!!俺たちは副流煙か!!」
「瞬よ、そこは動物園ではないか?」
「そんな平和なもんじゃねえわ!!」
岳鯨院は瞬のツッコミを無視し、淡々と説明を続ける。
「早速ですが、あなた方にこの世界でのミッションをお伝えします。この世界のミッションは、まだここに無い新たな化石を見つけて来ることです」
「新たな化石だって!何の化石見つけたい?私はカーゴデニムかな!」
「なんですかそのファッショナブルな化石は!?まだなってないでしょ!!」
「我は炭酸水の化石を見つけたいぞ」
「化石になる前に吸収されてるだろ!!見つけてどうすんだそんなもん!!」
岳鯨院はため息をつきながら、改めて口を開いた。
「とにかく、ここに無い化石であれば何でも構いません。さっさとクリアして出て行ってくださいね。この有毒物が」
「ちょっと口悪過ぎない!?」
岳鯨院に外につまみ出された三人は、新たな化石を探すことになったのだった。




