第71話 ラジオの世界 その2
「よーし!じゃあラジオ番組放送開始だよー!」
真美がヘッドホンを付け、マイクに向かう。
「いや待って待って先輩!まだ何も決めてないじゃないですか!!」
「え?決めたじゃん!タイトル!」
「本気で言ってます!?『魔法少女真美ちゃんのおはようオカルト相撲部屋』を!?」
「もちろん!それでいくつもりだよ!」
「なんで朝なんだよ!!せめて夜だろ!!」
「早朝4時から16時間放送だよ!」
「結果的に夜になった!!そんな長いこと何喋るんですか!!」
「え?そりゃエアコンの整備について」
「それで16時間いけます!?あとタイトルのワードはどれか入れてくださいね!?」
いきなり番組を始めようとする真美を瞬が必死で止めていると、城田がお腹を摩りながら戻って来た。
「あ!おかえり城田さん!ご飯にする?お風呂にする?それともわ・だ・ち?」
「なんで最後の選択肢で車輪の跡出てくるんですか!!」
「うむ。では風呂で頼む。25mでいいぞ」
「プールか!!長いって!!」
そんなことを言いながら、城田は椅子に腰かける。
「ところで城田さん、トイレ長かったね?小中高専どれ出したの?」
「なんで学校みたいになってんだよ!!専門学校行くのは確定なの!?」
「我はタクシーを出していたぞ」
「交通の便!!そんなやついねえわ!!」
「ちゃんと流したから、流しのタクシーだな」
「やかましいわ!!上手いこと言うな!!」
三人が言い合っていると、番組を終えたズデ林が髪をかき上げながら入って来た。
「皆さん、どうですか?番組作りは順調ですか?」
「うむ。もう放送できるぞ」
「できねえよ!!まだ何も決まってねえって!!」
「決めたであろう?『城田保和糸の真っ白ASMR』だ」
「嫌過ぎるだろ!!なんでお前に囁かれなきゃいけねえんだよ!!」
「我がマイクに向かってひたすら白いものを言っていくぞ」
「どこに需要あるかだけ教えて貰える!?」
「エゾオコジョ……豆腐……白玉……」
「エゾオコジョ!?初手エゾオコジョ!?」
ズデ林はそんな様子を見て、優しく微笑みながら口を開いた。
「皆さんにはそれぞれ強みがあるのではないですか?それをそのまま出してあげれば、良い番組になると思うんです」
「強み?あー、9月の夜にお団子食べながらするやつだよね?」
「それ月見!!そんな引っかかる言葉じゃなかったでしょ!!」
「してズデ囃子よ。強みをそのまま出すとはどういう意味だ?」
「お前略しても漢字間違えるのかよ!!」
ズデ林(本名チューズデー小林、36歳独身、趣味は盆栽と乾布摩擦、特技はベーゴマ、好きな食べものはお漬物)は、優しい笑みのまま答えた。
「要らないプロフィール入った!!じじいか!!」
「皆さんの個性は相当強いと思うんですね。その個性を全部合わせれば、他に無いラジオ番組ができる。好きな料理を三つ同時に食べているようなものです」
「ふむ。つまりご飯とライスとお米を食べているようなものか」
「全部一緒じゃねえか!!要するに白飯だろ!!」
「わーい!じゃーそれでやってみよー!」
「ほんとに大丈夫だろうな……?」
そのまま三人は番組を始めることとなり、いよいよ本番だ。
「さー時刻は午の刻!」
「数字で言えます!?」
「始まりました!『スリートリプルトリオ御三家』!」
「3の何乗だよ!!」
「パーソナリティは私、魔女っ子オカルトスモリストの真美ちゃんとー?」
「我だ」
「誰か言え!!簡潔過ぎるわ!!……あと俺は!?」
「いやーそれにしてもラジオ番組って緊張するね!固くなっちゃってまるで雷親父みたい!」
「頭だけ固くなってどうするんですか!!」
真美の軽快なトークを中心に話が回っていき、三人は常に喋っている状態だ。
「ところで瞬くんは最近春を感じたことある?私はね、お好み焼きが美味しいなーと思って春感じたよ!」
「お好み焼きは年中美味いわ!!どちらかと言えば夏の食いもんだろ!!」
「我はタケノコを食べて春を感じたぞ。カレーに入れて食べたのだが」
「なんで余計なことした!?」
一切台本無しのアドリブラジオ。三人はいつも通りの会話で進めていく。
「じゃー最初のお便りいこー!ラジオネームラジオネームさんからのお便りです!」
「ややこしいラジオネーム!!」
「私は大学生なのですが、休み時間にするドッジボールが下手でコンプレックスです。どうしたら上手くなれますか?」
「小学生みたいな悩みだな!!20歳とかでドッジボールしてんの!?」
「ふむ。我はドッジボールの時ボールをバズーカに入れて撃っていたな。誰も太刀打ちできなかった」
「不正アドバイスやめろ!?お前マトモにルール守ったことねえだろ!!」
「私はやっぱりボールをちゃんと見ることかなー!目で動きが追えてたらそんなに苦労はしないんだよね!だからまずはボールをしっかり見てみよー!」
「ここに来てマトモなアドバイス!!」
そのままラジオは進行し、リスナーからの政治お悩み相談に答えたり、アメリカ国歌を流したりした。
そしてあっという間にエンディングの時間だ。
「なんか政治的な番組になってない!?」
「さー時刻は未の刻」
「だから数字で言えっつってんだろ!!」
「やっという間にエンディングのお時間です!」
「なんか早く終わりたがってない!?」
「しかし早く感じたものだ。まるで新幹線のようだったぞ」
「お前なんでそんな新幹線好きなの!?」
「じゃー最後にこの言葉で締めてお別れです!せーの、『ガッルス・ガッルス・ドメスティクス』!」
「座右の銘じゃねえか!!誰がハモれるんだよ!!」
「それでは皆さん、よい最期を〜!」
「死なすな!!」
ここで放送が終わり、ズデ林が拍手しながら入って来た。
「素晴らしい!流石は皆さんですね!聞いていて飽きない番組でしたよ!この世界はクリアとしましょう!」
「好き勝手喋ってただけなんだけど……これで良かったのか……?」
「うむ。クリアはクリアだ。だがもう少し喋りたかったぞ。カレンダーを順番に読み上げたり」
「聞きたくねえわそんなもん!!」
「楽しかったー!城田さん、次はどんな世界?」
「次は化石の世界だ。珍しい化石を見つけたら『スリートリプルトリオ御三家』で発表せねばな」
「またラジオの世界来んの!?」
こうして三人は、ラジオの世界を後にしたのだった。




