第66話 演劇の世界 その1
城田が白いドアを開けると、三人の視界は真っ暗になった。
城田、瞬、真美の順で前の人の肩を持ち、恐る恐る進む。
すると突然スポットライトで一点が照らされた。その光の中に真美が躍り出る。
「私は!20歳までに!ナップサックになりたい!」
「ええ!?ちょ、何言ってるんですか先輩!!」
「え?将来の夢を発表するスポットライトじゃないの?」
「将来の夢ナップサックなんですか!?せめて人であれよ!!」
「いやだってサンドイッチとバナナ詰めたお弁当箱とか入れて欲しいでしょ?」
「アメリカの弁当!!どこ行く予定なんですか!!」
「多分横浜中華街とか?」
「じゃあ弁当要らねえだろ!!中華楽しめよ!!」
突然夢を語り出した真美の肩に、城田がそっと右手を置く。
「真美よ。ナップサックになるには大卒であること、そして普通自動車の運転免許が必要だ。まずは大学に行くことを目指すのだ」
「ナップサックのこと営業だと思ってる!?」
「えー、でも私中型二輪免許しか持ってないよ!お父さんから貰ったバイクがあってね、車体に『悪い子はいねぇかー』って書いてあるんだけど」
「お父さん秋田で暴走族されてました!?」
「ううん!埼玉で漁師してたよ!」
「内陸じゃねえか!!どうやって漁業やってたんだよ!!」
「我も少し前に真美の父親について聞いたぞ。その時は『まさかな』と思ったものだ」
「やかましいわ!!上手いこと言うな!!」
スポットライトが当たる中で大騒ぎする三人の元に、軽い足音が近づいて来る。
瞬が目を凝らして見ると、暗闇の中に人影が見えた。ベストにアラビアパンツというアラビア風の男で、どうやら主役のアラジン役のようだ。男はスポットライトの中まで歩き、三人に話しかける。
「君たちがランプの魔神かい?」
「うむ。我こそが陳腐な暇人だ」
「なんかしろよ!!お前神の仕事いっぱい残ってんだろ!!」
「いや、そんなには残っていない。我が本気を出せば提出日には間に合う計算だ」
「夏休みの宿題か!!神の仕事ってそんな感じなの!?」
「瞬くん、そこは夏休みじゃなくてホリデー休暇じゃない?」
「冬休みでいいでしょ!!え今日アメリカから戻って来ました!?」
男は三人のやり取りを気にすることなく話を続ける。
「僕の願いを叶えてくれ!まずは、僕をお金持ちに!」
「うむ。叶えよう。今和同開珎を出すぞ」
「使えねえだろ!!もうちょい最近の出してやれ!?」
「じゃー私が夜の港でアタッシュケースを渡すだけのバイト紹介してあげる!」
「闇バイト!!何渡そうとしてんですか!!」
「え?マカロニチーズとか?」
「平和だった!!だからアメリカかって!!」
男は三人のやり取りを全く意に介さず、そのまま願いを言い続ける。
「次の願いだ!僕を王子に!」
「おっけー!えーっと、王子なら田端から京浜東北線で行けるよ!」
「どうやって今の流れで地名の話だと思ったんですか!?」
「では我が叶えてやろう。葬式で読む別れの言葉だったか?」
「それ弔辞!!お前分かりにくいボケすんなよ!!」
「すまぬ。間違えてしまった。発酵食品の原料だな?」
「それ麹!!アラジン発酵させてどうすんだよ!!」
男は三人のやり取りが聞こえていないのか、まだ願いを続けた。
「最後の願いだ!機種変更のデータ移行を手伝ってくれ!」
「じじいか!!自分でやれ!!」
「なーんだ、そんなことか!私がやってあげるよ!ついでにサブスク登録してあげるからクレジットカード貸して!」
「おいカード騙し取ろうとすんな!!」
「もしもし、我だよ我。ちょっと事故っちゃってさ、200万振り込んでくれない?」
「我我詐欺すんな!!詐欺に便乗してどうすんだよ!!……なんだ我我詐欺って!!」
瞬のツッコミが響くと同時に、明かりがついて周りの状況が見えてくる。
どうやら彼らはステージの真ん中にいたようだ。
「ふう……。まずはこのくらいかな。お疲れ様。僕はこの演劇の世界の管理人、薬舎だよ。この舞台『アラジン』では商人T役を務めることになってる」
「お前アラジン役じゃなかったのかよ!!商人役でよくあんな願い言えたな!?」
「君、商人Tを甘く見て貰っちゃ困るよ。セリフが2つもあるんだからね?」
「2つしかねえのかよ!!めちゃくちゃチョイ役だろそれ!!」
「商人Tに何か文句があるのかい?」
「ずっと思ってたけど商人多すぎない!?20人くらいいる計算になるぞ!?」
「いや、合計で35000人いるよ」
「多過ぎるわ!!観客より多いだろもう!!」
「瞬よ。35000人はほっともっとフィールド神戸の収容人数と同じだ」
「知らねえわ!!だから何なんだよ!!」
薬舎はペットボトルの水を飲み、手で口を拭ってからまた話し始めた。
「とりあえず抜き打ちで君たちの演技力をテストしてみたけど……。どうやら君たちの演劇には問題が山積みだ」
「演技以前に思考に問題あるって!!俺ナップサック目指してる人とか聞いたことねえもん!!」
「とにかく!君たちはこの世界で演技力を磨き、その演技で観客を感動させるんだ。それができれば、この世界をクリアにしてあげよう」
薬舎が話し終わると同時に、真美が自信ありげに腕を組む。
「演技なら自信あるよ!私テストで4点取った時、お母さんに見られないようにジュレヌクの演技で乗り切ったことあるもん!なんかその後病院連れて行かれたけど」
「頭おかしくなったと思われてるんでしょ!!ていうかまだジュレヌク出てくるんですかしつこいな!!」
「我は演技などやったことがないぞ。演技とはなんだ?北海道名物だったりするか?」
「それザンギ!!誰がこのタイミングで唐揚げの話すんだよ!!」
「さあ、僕と一緒に演技力を磨くんだ!」
「うん!磨くよ!泥団子のように!」
「相変わらず例えが酷いな!!」
こうして三人は、薬舎と共に演技レッスンに向かった。
大変お待たせしました!これから今まで通りどんどん更新しますので、ぜひよろしくお願いします!




