第65話 広告の世界 その2
三人と大城は広告の打ち合わせをするため、近くのカフェに移動していた。
「よし、ではこの壺の広告を作るぞ」
そう言いながら城田は床に布団を敷き、寝転がって掛け布団を被る。
「起きろ!!なんで今寝る体勢に入った!?」
「この体勢だと思考が冴え渡るのだ。おかげで夜眠れていない」
「不安症か!!お前神なんだからそれくらいなんとかしろよ!!」
瞬が城田を布団から引きずり出す中、真美は大城と壺について話している。
「この壺ってどんな特徴があるの?料金プランとかは?」
「はい、かなり格安になっております。本体代、通信料、通話料込で月々7980円です」
「なるほどー!初期設定とかはどうするの?」
「初期設定もこちらで料金プランのご用意があります。5000円で各SNSや決済アプリの設定までできますよ」
「いいじゃん!私契約しよっかなー!」
「さっきから壺のことスマホだと思ってます!?」
会話に割って入って来た瞬を、驚きの表情で見る真美と大城。信じられないものを見るような目で、瞬を頭からつま先まで余すことなく見る。
「え?え、俺なんか変なこと言いました?」
「言ったよ!オオサンショウウオの追っかけをしてない人間は精々弁護士くらいにしかなれないって!」
「そこまで変なこと言った覚えはねえわ!!弁護士なら十分だろ!!」
反発する瞬に対し、大城が呆れたように首を振りながら口を開く。
「あのですね、この壺はかの有名な渋柿社が最先端の技術を駆使して作ったスマートポットなんですよ?」
「なんだスマートポットって!!あと渋柿社のネーミングセンス無さすぎるだろ!!じじいばっか働いてそう!!」
「通話の音質もかなり良くなっているんですよ?」
「壺で通話してるやつ見たことねえわ!!何喋んだよ!!」
「それはもちろん、『王様の耳はロバの耳』って」
「ああその壺なの!?だとしたらそれ通話で言うと牢屋行きじゃねえか!!」
「とにかく、この壺はとても高度な精密機械なんです!機能は申し分無いので、あとは宣伝さえ上手く行けば……!」
「ごめん壺って何だったか教えてくれる!?」
責められている瞬を見て、城田は寝返りを打つ。壁の方を向いた城田は、瞬に助け舟を出した。
「真美に大城よ、壺というのは本来そのような使い方をするものではない。瞬のツッコミは真っ当だぞ」
「お前せめてこっち向いて言えよ!!なんで壁の方向いてんだ!!」
「壺というのは本来夫の不倫相手が通った時にその頭に向けて落とすもの。通信機能など無い」
「えげつない昼ドラしか見なかった人生!?」
「しかしその壺の性能は悪くない。意外性もある。とにかく今は、その壺を如何に売るか、どう広告を打つかを考える時ではないか?あと看板メニューのカルボナーラが食べたい」
「カルボナーラは勝手に食え!!真面目な話を期待した俺がバカだったわ!!」
城田は布団のままもぞもぞとレジの方へ向かい、カルボナーラを注文しに行った。
「おい布団から出ろ!!ものぐさにもほどがあるだろ!!」
「でもでも、城田さんの言うことは尤もじゃない?私たちは一丸となってこの壺の広告を考えないと!そう!まるで方向性の違いで解散したバンドのように!」
「バラバラじゃねえか!!ダメ過ぎる例え!!」
城田がカルボナーラを持って戻って来ると、大城が立ち上がって仕切り始めた。
「とりあえず、広告の形を決めましょう!紙のチラシなのか、Webチラシなのか、それともCMなのか……」
「そこはDMが良いんじゃない?」
「スパムになるでしょ!!でもやっぱり今の時代は動画じゃないですか?やっぱり目に留まりやすいですし」
「うむ。我もそう思うぞ。動画の方がもみょりゃじょりょじょりょ」
「食ってから喋れ!!どう喋ったらそんな音になんだよ!?」
「ではCMですね!これは腕がなりますね……」
「よーし!私とりあえず出演してくれる思想が強そうなおばあさんを探して来るね!」
「うさんくさ過ぎるからやめてくださいね!?」
三人と大城は、CM作りに取り掛かった。
そして数日後、フラフラになった大城が三人の元へやって来た。
「み、皆さん……!完成しましたよ!」
「ほんと?やったー!あ、ちょっと城田さんUNOって言ってないでしょ!」
「なんでUNOしてんですか!!手伝ってあげてくださいよ!!」
「瞬よ、我々の仕事はただ大城を手伝うことではない。より良い方向へ導くことだ」
「うんだから手伝えっつってんだよ!!サボってるだけじゃねえか!!」
「今日から例の交差点でCMが放映されます!皆さん、見に行きましょう!」
三人は大城の後ろに着いて、スクランブル交差点へ向かった。
交差点は相変わらず人がごった返しており、CMもかなり見て貰いやすい状況だ。
「もうすぐだね!緊張でつるつるしちゃう!」
「急にスケートリンク現れました!?」
「見ろ、始まるぞ。この日食グラスをかけるのだ」
「なんも見えねえだろ!!」
すると三人がこの世界に来た時と同じように空中にモニターが現れ、CMが流れ始めた。
『渋柿社が送る、最先端スマートポットが遂に登場!通話や通信、生け花などの基本機能はもちろん、車輪を付けて走らせることまでできます!』
「なんか余計な機能が追加されてる!!」
『夫の動きが怪しい……そんな奥さん必見!不倫相手の頭にこの壺を落としちゃいましょう!』
「その使い方採用されたのかよ!!」
『そしてそして、音声認識機能も完備!何かやって欲しいことがあれば、壺にお願いしてください!そうこうやって……。ヘイ壺、明日の天気を教えて!』
『知らねえよ!てめえで調べろ!』
『ほら!このように答えてくれますよ!』
「反抗期!!嫌だわそんな壺いるの!!」
『さあ、皆さんもこのスマートポットを手に取り、新しい世界へ!近くの骨董店へ急げ!』
「売ってるところはちゃんと壺っぽいのな!!いやこんなんで売れるわけねえだろ……」
瞬が呆れ果てていると、交差点にいた人々が一斉に同じ方向へ走り出した。
「うおおおお!!俺が!俺が最初にあの壺を!」
「邪魔だお前どけ!俺が最初だ!」
「私が先に行くの!もう壺が無いと生きていけない!」
「ええ……?なんで……?」
瞬は困惑するが、既に何人か壺を手にして骨董店から出て来ている。
「おお……!広告効果は素晴らしかったですね!ありがとうございます!これであなたたちはこの世界をクリアしたことになります!」
「ええ……。ええ……?」
瞬とは対照的に、城田と真美は大喜びだ。
「やったー!流石私たち!最強だね!今ならボールペンも1万円で売れそう!」
「就職の面接か!!売らないでくださいそんなもん!!」
「うむ。満足であるぞ。夕飯が白玉だった時ぐらい満足だ」
「それで満足すんのお前だけだろ!!」
大城は三人に近づき、握手を求める。
「本当にありがとうございます!これで沖縄にプロセパタクローチームを誘致できます!」
「カバディどこ行ったんだよ!!そろそろ思い出してやれ!?」
「よし、次は演劇の世界だ。瞬がどんな魔法の絨毯を演じてくれるのか楽しみだな」
「演目はアラジンで決定なの!?」
こうして三人は広告の世界を後にした。




