第62話 警察の世界 その1
城田が白いドアを開けると、そこは灰色のデスクが置いてある狭い空間。
デスクには古い卓上ライトが置いてあり、コートの襟を立てた強面の刑事風の男が、腕を組んで座っている。
「ふむ。なるほど。どうやらダンスホールのようだな」
「目腐ってんのか!!取調室だろどう見ても!!」
「だがあの机にミラーボールが乗っているぞ」
「お前あのライトのことミラーボールだと思ってんの!?」
城田と瞬がいつも通りのペースに入る中、真美だけはスっと刑事風の男の向かいに座った。
「……ええ!?先輩何してんですか!!」
「何って、取調べでしょ?もしかして経験無いの?」
「ねえよ!!ある方が珍しいだろ!!」
「そんなことないよ!瞬くんが未経験のチェリーボーイなだ・け♡」
「取調べ童貞は卒業したくねえわ!!」
すると真美に向かって険しい顔をしていた刑事風の男が立ち上がり、バンッと両手でデスクを叩いた。
「お前がやったんだろ!!」
「うんそーだよ!」
「認めんの早えな!!ちょっと先輩何やらかしたんですか!!」
「え?サグラダファミリアを完成させただけだよ?」
「歴史的偉業じゃねえか!!なんでそれで取調べ受けるんですか!!」
「いやー勝手にスイートルーム作って宿泊料取ってたからかなー?」
「そりゃ捕まるわ!!何やってんですか!!」
「ちゃんと宿泊税も取ってたよ?」
「京都の宿か!!セコい商売すんな!!」
瞬と真美のやり取りが聞こえていないかのように、刑事風の男は取調べを続ける。
「お前がやったってことは分かってるんだよ。証拠はいくつも上がってる」
「いやだから認めてただろ!!証拠とかもう要らねえよ!!」
「ほらよ、こいつを見てみな。これはどう見てもお前さんだろ?」
刑事風の男が写真を何枚かデスクに投げる。
城田がその写真を拾い上げ、まじまじと見つめた。
「ふむ。これは確かに真美だな。ステージ上で踊っているところをファンに撮られ、一躍スターになるきっかけとなった写真だ」
「橋本〇奈か!!そんな奇跡の一枚先輩にねえだろ!!」
「ちょっと瞬くん失礼ー!私だって奇跡の一枚ぐらいあるよ!ほら見てこっちの写真!私がエアコンに向かってあーってやってる写真!」
「奇跡でもなんでもねえわ!!それ扇風機でやるやつだろ!!」
「見ろ、こっちの写真はインパラのメスの写真だ」
「インパラはもういいわ!!引っ張り過ぎだろ!!」
刑事風の男は一度取調室を出て、すぐに何かどんぶりのようなものを持って戻って来た。
「ほら食え。ばくだん丼だ」
「なんでそんな健康に良さそうなもん持って来たんだよ!!相場カツ丼だろ!!」
「えー、私スイーツビュッフェが良かったー!」
「求め過ぎだわ!!もう歓迎してんじゃねえか!!」
「ちょっと刑事さん、甘だれが無いよ!」
「穴子か!!醤油で食え!!」
刑事風の男が持って来た甘だれをかけ、真美はばくだん丼をかき込む。
そんな様子を見て、刑事風の男は再び口を開いた。
「なあ、もしかしてお前さんは犯人じゃないのか?」
「え?犯人だよ?はい早く懲役何年か言う!」
「なんでずっと捕まりたがってるんですか!!」
刑事風の男は組んでいた腕をほどき、真美の顔をまじまじと見つめた。
「なるほど、お前さんじゃないようだな。失礼した。俺はこの世界の管理人、KEIJIだ」
「刑事じゃねえのかよ!!なんだそのダンサーみたいな名前!!」
「ここで会ったのも何かの縁。良ければ、ちっと捜査に協力しちゃあくれないか?」
「捜査?元カブスのスラッガーの?」
「それサミー・ソーサ!!誰が知ってんですか!!」
KEIJIはボケる真美を無視し、内ポケットから一枚の手紙のようなものを取り出す。
「これが今朝届いたんだ。中身を読んでみてくれないか?」
「これはなんだ?我へのファンレターか?」
「んなわけあるか!!大体このタイミングの手紙っつったら予告状だろ!!」
「私が読むー!えーなになに?ラジオネーム電源ボタン別売りノートパソコンさんからのお便りです」
「電源ボタンは標準装備であれよ!!なんでオプションなんだよ!!」
「じゃー改めて読むよ!『今日の夕方16時、三丁目のコンビニでポテトチップスのり塩味を頂戴する』だって!」
「万引きじゃねえか!!軽犯罪で予告すんな!!」
予告状を読み終えた真美は、深刻そうな顔でKEIJIに尋ねる。
「これって……まさかあの怪盗?」
「そうだ。かの有名な大泥棒、アルセーヌ・ショパンの予告状だ」
「惜しい!!惜しいけど音楽家みたいになってる!!」
「して、そのラパンとは何者なのだ?」
「それ車!!お前ちゃんと名前覚えろよ!!」
KEIJIはホワイトボードの前に立ち、怪盗アルセーヌ・ショパンの説明を始めた。
「ショパンはこれまで数多くの罪を犯してきた大犯罪者だ」
「誤解されそう!!」
「今までに虚偽の通報やゴミのポイ捨て、無断での張り紙など数え切れないほどの罪を犯してきた。立ちションは何度注意したか分からない」
「全部軽犯罪じゃねえか!!怪盗ならなんか盗めよ!!いや盗んじゃダメだけども!!」
KEIJIはホワイトボードに拳を叩きつけ、悔しそうな顔で言った。
「今度こそ、ショパンのやつを捕まえて牢屋にぶち込んでやりたいんだ。手伝ってくれるか?」
「もちろん!私たちに任せて!」
「うむ。我の力をもってすれば簡単に捕まえられるであろう」
「なんで熱くなれんの!?」
城田と真美の言葉に、KEIJIは深く頭を下げた。
「協力感謝する。ショパンを捕まえた暁には、お前たちをこの世界から出すと約束しよう」
「ふう〜!ばくだん丼おかわり!」
「割と今大事なシーンでしたよ!?」
こうして三人とKEIJIは、怪盗アルセーヌ・ショパンを捕まえるために計画を練り始めた。




