第60話 美術館の世界 その1
城田が白いドアを開けると、そこはいくつも壁に絵画が掛けられた空間。
それだけでなく像も飾られており、まさに美術館という場所だ。
「わお!美術館って初めて来たかも!私が描いた煮卵の絵も飾ってあるかなー?」
「なんでそんなもん描いたんですか!!画家志望だけど実家がラーメン屋の人!?」
「我は神様学校にいる時一度絵のコンクールで賞を貰ったことがあるぞ。まるで写真のようだと好評だったな。実際写真なのだが」
「写真じゃねえか!!お前なんでも不正すんのな!?」
三人が静かな館内で騒いでいると、カツカツと足音が聞こえて来る。
足音の主は、小太りで眼鏡をかけた壮年の男だった。
「皆さん、ようこそお越しくださいました。私はこの美術館の世界の管理人、漢朝です」
「館長じゃねえのかよ!!めっちゃ偉そうな名前してんな!!」
「この世界では美しいとされるものは全て美術品として扱っております。奥に進めばたくさんの美術品と出会えることでしょう」
「なるほどー!じゃあ歯磨き粉とかもあるのかな?」
「歯磨き粉のこと美しいと思ってたんですか!?」
漢朝は二人のやり取りを気にすることなく、説明を続ける。
「そして皆さんには、新たにここに飾る美術品を生み出して貰います。私が見極め、しっかりとここに飾る資格があると判断すれば、この世界から出ることができますよ」
「うむ。そういうことなら話が早い。我に任せておけ。3Dプリンターはどこだ?」
「不正までの最短距離!!とりあえず不正から始めんのやめねえ!?」
「私も美的感覚には自信があるよ!もんじゃ焼きとか作るの上手いし!」
「多分関係ないですね」
「では皆さん、まずは参考にこの自慢の美術品たちを見て回ってくださいね。それでは、ごゆっくり」
そう言うと漢朝はまたカツカツと足音を響かせて去って行った。
残された三人は、言われた通りまずは美術品を見て回ることにした。
「わーい!じゃあ絵から見よー!私でも知ってるのあるかなー?」
「美術館の世界って言っても一応異世界ですからね。全く知らない絵かもですよ」
「見て瞬くん!ツ〇ッターの青い鳥が飾ってある!」
「もう知ってるの出てきた!!なんで飾ってあんだよ!!」
「今なかなか見られないからね!歴史的価値があるんじゃない?」
「確かにアップデートしたら消えちゃったけども!!もうそういう扱いになってんの!?」
二人がツ〇ッターの青い鳥に夢中になっている中、城田はひたすらじっと何かを見つめている。
「おい城田、お前何見てんだ?」
「我はこの絵と絵の間の壁を見ていたぞ」
「なんで!?絵見ろよ!!」
「いや、絵の間の壁さえ真っ白で美しいのだ。美術館というのは壁ですら美術品として扱うのだなと思ってな」
「多分そう思ってるのお前だけだよ!!美の基準が白しかねえのかお前は!?」
「壁も美しいと思ったのだが……。仕方ない、絵も見てやろう」
そう言うと城田は近くの絵画まで移動する。そこには丁寧に陰影が入れられたクオリティの高い煮卵の絵が飾ってあった。
「……いやこれ先輩の絵でしょ!?本当に飾ってあんのかよ!!」
「おお、これは素晴らしい。見事な煮卵だ。我もこんな卵を産みたいぞ」
「食えよ!!なんで産む側なんだよ!!」
城田と瞬の声を聞いて、真美が二人のところへ駆け寄って来る。
「わお!私の絵あるじゃん!やっぱり私には絵の才能まであったかー!」
「先輩何気に多才ですよね。なんか他にも隠してる特技とかあります?」
真美は魔法が使えることはもちろん、運動神経も抜群。これまでバレーのアタックを披露したり、ロンダートバク転を決めたりしていた。さらっと外国語を読んだりすることもあり、多芸多才だ。
そんな真美にまだ隠された才能があるかふと気になった瞬は、その疑問をぶつける。
「あるよ!ジュレヌクのモノマネ!」
「知らねえモノマネ!!なんて言いました!?」
「ジュレヌクだよ!アフリカ大陸の砂漠とかサバンナにいる牛の仲間!」
「なんでそんなレアアニマルのモノマネしようと思ったんですか!?どっかで見ました!?」
「ううん!日本で飼育してる動物園は無いよ!ふとモノマネが降りてきたんだよねー!」
「そんな神様みたいにモノマネは降りて来ないですよ!!」
「うん?我を呼んだか?」
「お前は黙ってろ!!」
「我も白玉のモノマネならできるぞ」
「もう一回言うけど黙ってろお前!!丸まるだけだろ!!」
その場で丸まり始めた城田を無視して、瞬と真美は奥に進む。
絵画コーナーは終わり、今度は像や彫刻のコーナーだ。
「やっぱり立体は迫力あるねー!私このジュレヌクの彫刻が気になるかも!」
「もう出てきたジュレヌク!!え、実はメジャーなの!?」
すると城田がゴロゴロと転がってこちらに向かって来る。
「もう〜、我を置いて行かないでよ〜」
「普通に歩けお前!!なんで転がってんだよ!!」
「どこかにピンは無いか?今ならどうやってもストライクを取れる気がするぞ」
「自分でボウリングすんな!!何ポンドのボールだよ!!」
「イギリスポンドだ」
「通貨じゃねえか!!嫌だわお前を財布から出すの!!」
「もー二人とも!ちゃんとジュレヌク見るよ?」
「ジュレヌクしつこいな!!もう逆に興味出てきたわ!!」
三人はそのまま美術館の中を回り、インスピレーションを深めていった。
そして次回、遂に城田の美的センスが開花する!果たして三人が作り上げる美術品とは?
次回『ジュレヌクのメス』
乞うご期待!!
「結局ジュレヌクじゃねえか!!今回の話に引っ張られ過ぎだろ!!」




