第6話 水族館の世界 その2
「二つめのスタンプはここだ」
城田に案内された場所では、数匹のペンギンたちがくつろいでいた。
その光景に、思わず瞬と真美の口元が緩む。
ちなみに、真美は元の姿に戻っている。
「癒されるねー。ペンギンってなんでこんなにかわいいんだろ?飼ってみたいなあ」
「それはちょっと分かります。家にペンギンがいたら良いですよね」
「うん!水が無いと早い動きもできないから、解剖もしやすいしね!」
「発想が怖ぇ!それより城田、今回は何をすればスタンプを押せるんだ?」
相変わらずの発言をする真美にドン引きながら、瞬は城田に今回のミッションを尋ねる。
「今回はもはやご褒美と言ってもいい。このペンギンたちと仲良くなれば、スタンプを押すことができるぞ」
「ほんと!?よーし、お姉さん張り切っちゃうぞー!」
デレデレとした表情を浮かべ、真美は早速ペンギンたちに近づく。
するとペンギンたちは真美の方によちよちと歩いて近づいて来た。
「ペンギンさんたち、お姉さんと遊ぼー!」
真美が両手を広げ、ペンギンたちに話しかける。
すると驚いたことに、一羽のペンギンがそれに答えるように口を開いた。
「うっせえな!!てめえはだまって飯だけくれりゃいいんだよ!!」
「うえ!?」
「鳥だからって舐めてんじゃねえぞ人間が!!かわいいだけでやってきてんじゃねえんだよこっちはよお!!」
「ちょっと城田さん!どうなってんのこれ!?」
ペンギンたちから思わぬ口撃を受けた真美が涙目で振り返ると、城田はやれやれと首を振っていた。
「まだ説明は終わっていないというのに、せっかちだなお前は。今回のミッションはこのペンギンたちと仲良くなること。だが、猛烈に口が悪いのだ」
「早く言ってよ!!」
「数多くいるペンギンの群れで人気を得るのに疲れ果てた彼らは、反動でこうなってしまったのだ。優しい目で見てやれ」
「誰目線なんだよ!カウンセラーかお前は!」
城田の説明が終わると、ペンギンたちは更にこちらに近づいて来る。
「なんなんだてめえらはよお!勝手に俺たちのナワバリに入って来て、遊ぼうだと?」
「上等じゃねえか!!たーっぷり遊んでやるよ。ただし、かわいがるのはこっち側だけどな!!」
「私の分析では、この者たちはかわいい動物に口撃を受けるとより大きく凹む性質があります。我々の口撃で撃退してやりましょう」
「おい一羽だけメガネかけてそうな奴いるぞ!?」
じわり、じわりとペンギンたちが近づいて来る。対して三人はじりじりと後退するばかりだ。
謎の緊張感が走り、瞬と真美の額には汗が浮かび始めた。
「先輩、この状況どうします?」
「仲良くならなきゃだから、警戒心を解いてあげないとね……。またタイキックとかしたら余計怒らせそうだし……」
「絶対やめてくださいね!?」
「やはり、お前たちだけでは対処できないか。仕方ない、我が力を貸してやろう」
「「待ってました!!」」
二人の反応に小さくため息を着きながら、城田は右手を上げる。
ぼわっと煙が上がり、積み上げられた札束が出現した。
「ペンギン様、どうかこれで我々と仲良くしていただければ……」
「ペンギンがそんなんで喜ぶか!!お前前回から相手を人間だと思ってないか!?」
瞬がツッコミを入れるも、ペンギンたちは札束に向かって猛ダッシュしていた。
「うおおおお金だ金だあああ!!」
「これがあれば、俺たちも好きに暮らせるぜえ!!」
「俺、前から株をやってみたかったんだよ!これで手を出せるぞ!」
「私のメガネも新調したいところだったので、これは助かりますね。いいでしょう、仲良くしてやりましょう。ほら、スタンプ台です」
「喜んじゃったよ!!誰だ株に手出した奴!?ていうか本当にメガネかけてたのなあいつ!?」
まさかのペンギンたちの反応に瞬は戸惑うが、差し出されたスタンプ台を恐る恐る受け取る。
「やったー!これで二つめのミッションクリアだね!」
「めちゃくちゃもやもやしてますけど……まあ脱出する為だから仕方ないか」
「我に感謝するのだぞ」
「今までで一番情けない解決法だったけども!?お前プライドとか無いのな!?」
ペンギンたちを買収(そのままの意味)した三人は、次なるスタンプ台の元へ向かった。
三人が着いた先では、鼻先にボールを乗せたアシカが待っていた。
「さて、次はアシカショーだ。そこにいるアシカと、三回キャッチボールをすればクリアとなるぞ」
「またえらく平和なミッションだけど……これも裏があるんじゃないだごっほあ!!」
「ただし、返ってくるボールは豪速球だ。気をつけるのだぞ」
「もう遅せぇよ!!めちゃくちゃ痛いんだが!?」
「球の威力はドッヂボール日本代表と同じぐらいだ」
「強ぇな!?」
心做しか先程までより鋭い目をしたアシカは、ポンポンと鼻先でリフティングをしている。
「あんなのどうやって捕ればいいんだ……」
瞬が絶望していると、真美がスっと前に出た。
「あ、先輩!!危ないですって!!」
止める瞬の声が聞こえていないかのように、真美はどんどんアシカに近づいて行く。
そのただならぬ雰囲気にアシカは警戒を強め、真美を睨みつけた。
そして真美とアシカの距離が残り三歩ほどになった瞬間、アシカは豪速球を投げた。
「はいっ!はいっ!はいいいっ!!」
だが真美はそのボールを弾き返し、アシカにぶつけることで三回それを繰り返した。
「ええ……。ええ……?」
困惑する瞬を気にすることなく、真美はノビているアシカの後ろからスタンプ台を取ってくる。
「はい、これでスタンプはゲット!水族館の世界、クリアだね!」
「いや先輩、なんであんなことできるんですか……?」
「ああ、私中学の時強豪バレー部にいたんだよね。チームのエースで、アウトサイドヒッターだったんだよ」
「だとしてもだよ!アシカによくあんなに容赦なくいけますね!?」
「いやいや、それほどでも〜」
「褒めてねえが!?」
「まあいいだろう。一応クリアしたのだ。次の世界に行くぞ。次はロックンロールの世界だ」
「ずっと思ってたけど異世界が意味不明だな!?」
こうして三人は、水族館の世界から脱出することに成功した。




