第56話 祭りの世界 その2
「よーし、じゃあ気を取り直して屋台を回ろー!」
さっきまでの気まずさが無かったかのように、真美が仕切り出す。
「うむ。しかし祭りというものには初めて来たぞ。我の初めてを奪うとは、罪な男だ瞬よ」
「奪ってねえよ!!奪ってねえし!!奪ってねえからな!!」
全力で否定する瞬を真美が宥める。
「もー必死なんだから瞬くんったら!おねーさんは後輩くんを応援するよ!例えそれがどんな形の恋愛でもね?」
「こいつと恋愛させるのやめて貰えます!?俺はちゃんと彼女募集中ですから!!」
「我を振るというのか……?これほどまでに想っているのにか?我の愛は重いぞ。まるでヘリウムガスのように」
「バカ軽いじゃねえか!!いや軽くていいけども!!なんなら無くていいわ!!」
三人が言い合いながら道を歩いていると、様々な屋台が現れる。
呼び込みの若い男たちは、三人に向かって声を張り上げ始めた。
「いらっしゃいいらっしゃい!!うちのトルネード焼きそばはどうだい?」
「なんだトルネード焼きそばって!!こんがらがってるだけじゃねえか!!」
「兄ちゃんこっちはどうだい?世にも珍しい串たこ焼きだよ!」
「団子か!!柔らかすぎてたこ焼き落ちて行くだろ!!」
「兄ちゃん兄ちゃん!射的やってるよ!今ならバズーカも選べるよ!」
「店吹き飛ぶだろ!!景品も跡形も無くなるわ!!」
「こっちはどうだい!ボウリングのボールすくいだよ!」
「おい全部沈んでんじゃねえか!!ポイ如きじゃすくえねえよそんなの!!」
変わり種しかない屋台に全てツッコミを入れていく瞬。
数メートル歩いただけで、彼は既に疲れ始めていた。
「はあ……はあ……。なんだここの屋台?めちゃくちゃだな!」
「そー?楽しそうだけどね!私も屋台出してみたいなー!」
「ちょっと待て真美よ。それはもしかしたら良い考えかもしれぬぞ?」
珍しく城田が真面目なトーンで真美の何気ない発言を拾う。
城田は左足の薬指に手を置いて考えるポーズを取った。
「どこに手置いてんだ!!触りにくいだろ!!」
「ふむ。屋台を出してみるのはやはり良い考えかもしれぬ。瞬に真美よ。首を貸せ」
「嫌だわ!!なんで理由無く生首にさせられんだよ!!」
「ああすまぬ間違えてしまった。耳を貸せ」
「ちょっと待ってね!今左耳レンタルしててあと3日帰ってこないから」
「そんな耳をDVDみたいに!!」
城田は瞬と真美に何かを耳打ちし、それから右手を上げた。
「よし、ではいくぞ。まずはこの屋台だ」
ボワっと煙が上がり、おとぎ話のような景観の小さな街が出現した。
クリスマスマーケットのような会場やカラフルな家屋、大聖堂などのミニチュアが並んでいる。
「城田さん、これは?」
「フランクフルトの屋台だ」
「フランクフルト違いだろ!!ドイツの街出してどうすんだ!!」
「だが祭りではフランクフルトが人気と聞いたぞ」
「だからそっちじゃねえって!!前回からお前のドイツ推し何なの!?」
「うーむ仕方ない。これは消すか」
城田が左手を上げて屋台を消すと、今度は真美が張り切って杖を取り出した。
「よーし、じゃあ私の番だね!臨兵闘者皆陣烈在前!」
「忍者か!!呪文それで合ってます!?」
キラキラと光り輝く何かが立ち上り、屋台の姿が現れる。
どうやら飴の屋台のようで、棒に刺してある飴らしきものが見えてきた。
「どー?これなら売れそうじゃない?」
「りんご飴とかですか……?」
「ううん!靴飴!」
「聞いたことねえ飴来た!!なんだその強制靴舐めさせ装置は!?」
「這いつくばって舐めるのがオススメだよ!」
「急に女王様に目覚めました!?」
その後も城田と真美が交互に屋台を出現させていく。
「これはどうだ?スーパーヨーヨーすくいだ」
「なんだスーパーヨーヨーって!?ハイパーなら聞いたことあるぞ!!」
「これならどう?福引きだよ!1等はペルー旅行!」
「商店街の催し物か!!そのタイプで南米行くことあります!?」
「我の番だな。駐輪場だ」
「要るけど!!要るけど屋台ではなくね!?」
「はいはーい!これでどう?ATMだよ!」
「だから屋台じゃねえって!!要るのは要るけども!!」
「ではこれでどうだ?かき氷だ」
「おおナイス!!珍しくマトモじゃん!」
「味はシーザードレッシングだけだ」
「この野郎結局ふざけてんのかよ!!」
三人が屋台に四苦八苦していると、一人の男が近づいて来た。
頭にハチマキを巻き、水色のハッピを着た小柄な男だ。
「どうしたんでい?屋台を出そうとしてるのかい?」
「おお、まさにその通りだ。我はこのクレジットカードコーナーが良いと思うのだが」
「ショッピングモールにあるやつ!!誰が祭りでカード作るんだよ!!」
すると男は鼻をこすり、自信ありげに声を上げた。
「へへっ!オイラに任せな!最高の屋台を用意してやるぜい!」
「ほんと?わーいありがとう!お礼に私お手製のスープあげる!ちょっと紫でドロドロだけど」
「魔女のスープ出すのやめてあげてくださいね!?」
「ふむ。屋台を用意してくれるというか。して、お前の名はなんというのだ?」
「オイラはこの世界の管理人、矢田井でい!……あっ」
その言葉を聞いた瞬間、三人は一斉に矢田井を指差した。
「ビンゴ!!城田さんの作戦が当たったね!」
「たまにはやるじゃねえか城田!見直したぞ!」
「うむ。我にかかればこのくらい、プロレスラーの手を捻るようなものだ」
「めっちゃ苦戦してんじゃねえか!!」
そう、三人は矢田井を誘き出す為に屋台作りに四苦八苦していたのだ。
祭りに対してやる気のある者にお節介を焼きたくなるのが矢田井の性分。そこに賭けた城田の作戦が、見事に当たったようだ。
「これでこの世界はクリアだよね!やったー!嬉しすぎて道行く人を櫓投げしそう!」
「絶対やめてくださいね!?」
「よし、次はホテルの世界だ。だが何やら良からぬものが出ると噂が……」
「大丈夫だよお前の方がよっぽど良からぬものだから!!」
こうして三人は、祭りの世界を後にしたのだった。




