第52話 アイドルの世界 その2
〜〜〜〜♪
白ラジオ体操第一〜!
まずは豆腐の角に頭をぶつける運動〜!
はい4694、4695、4696、4698!
次はホワイトボードをひっくり返す運動〜!
はい4694、4695、4696、4698!
雑巾がけをして床を綺麗にしましょう〜!
はい4694、4695、4696、4698!
あの雲までジャンプの運動〜!
はい4694、4695、4696、4698!
4694、4695、4696、4698!
最後にタバコで深呼吸〜!
4694、4695、4696、4698!
4694、4695、4696、4698〜!
白い煙を存分に吸ったら、今日も元気に行ってらっしゃい〜!
タレント名鑑を広げた城田は
「おい何してくれてんだこの野郎!!」
え?何が?
「何が?じゃねえよ!!なんだ今の謎のラジオ体操は!?」
そりゃ白の世界で流行ってる白ラジオ体操だよ。
「知らねえし白の世界城田一人しかいねえだろ!!あいつのマイブームじゃねえか!!」
白ラジオ体操に文句でもあるって言うの?
「ありまくるわ!!豆腐の角とかホワイトボードとか雑巾がけとかジャンプはまあまだ運動してるから百歩譲って許すけども!!最後何タバコ吸ってんだよ!!」
だってずっと運動しっぱなしじゃ疲れるでしょ?休憩も挟まないと。
「誰がラジオ体操の休憩でタバコ入れんだよ!!会社かここは!!」
ちゃんとアメスピのレギュラー吸ってね?
「銘柄知らねえって!!俺高校生だから!!」
買ってくる時に間違えないでね?レギュラーは黄色い箱だけど6mmが金の箱でややこしいから。
「だから知らねえって!!そもそも買えねえわ!!」
そんなこと言わずに瞬も白ラジオ体操しよう?はい、4694、4695、4696、4698!
「ずっと気になってたけどなんでカウントが4694スタートなんだよ!?囚人番号か!!」
そうだよ?白の世界で罪を犯した人間の番号を使ってるからね。奴らはもう二度と白の世界から出られない。
「急に怖いけど4697いないのはなんで!?一人出所してんじゃねえか!!」
いや、彼は脱獄の方だよ。
「もっとダメだった!!簡単に逃げられんなよ!!」
もう、全部文句言うじゃん!何がそんなに不満なの?
「本編を始めねえところだよ!!早く始めろ!!」
仕方ないなあ。じゃああと一本だけ吸わせて?
「ヘビースモーカーじゃねえか!!早く始めろって!!」
この話が終わったら絶対吸ってやるんだから……!
タレント名鑑を広げた城田は、そのまま右手を上げた。
するとタレント名鑑はまるで鳥のように羽ばたき始め、そのまま窓から飛び去ってしまった。
真美は目を潤ませながら飛んで行くタレント名鑑の背中を見送る。
「……いや何してんだ!!名鑑どっか行っちゃったぞ!?」
「タレント名鑑が飛び立ちたいような顔をしていたから、我が命を吹き込んでやったぞ」
「やってくれたな!!どうすんだよ!あれ無いとアイドル候補選べねえだろ!!」
「もうタレント名鑑も独り立ちなんだね……。ここまで育ててきたから、なんだかちょっと寂しいな」
「先輩も気持ち入れない!!なんだタレント名鑑育てるって!?」
ツッコミを入れながら慌てふためく瞬。
そんな瞬に、第票がタブレットを持って来る。
「はは、タレント名鑑はデータでも見られますので、こちらからどうぞ」
「うむ。このタブレットも深海に潜りたそうにしているぞ」
「潜った瞬間水没するからやめてあげて!?」
「もー、二人ともちゃんとやろーよ!やっぱりプロデュースなら私がやらなきゃなのかな?」
真美が自信ありげにタブレットをスワイプする。
「え、先輩そういう経験あるんですか?」
「あるじゃん!ほら、去年の文化祭の時に瞬くんをプロデュースして会場を大爆笑させたことあるでしょ?」
「ああ、あのアメリカンジョークしか言えなくされたやつですか。嫌すぎて記憶から消してましたよ。あとあれめっちゃスベってましたからね?」
「そうだっけ?まあプロデュース経験があるってことで!私に任せてよ!」
「嫌な予感しかしないけど……」
それから真美は黙々とタブレットと向き合い、何人かのタレントをピックアップした。
城田と瞬が神経衰弱で時間を潰している間に、数日間のレッスンも終え、いよいよデビューの日だ。
「さあ!私が作った最強のアイドルグループのお披露目だよ!必ず大成功に導くからね!」
「本当に大丈夫なのだろうな?ところで瞬よ、スペードの8がどこだったか覚えているか?」
「お前そろそろ神経衰弱やめろよ!!もう本番だから!!あと俺に聞くな!!」
「遂にこの日が来ましたね皆さん……!アイドルたちはスタンバイできてるみたいですよ!様子を見に行きますか?」
第票が三人に尋ねる。だが、真美は真剣な顔で首を横に振った。
「ううん!集中してるのを邪魔したくないからね!あと今ちゃんこ食べてるから」
「何してんだ!!置いとけそんなもん!!」
「お、ステージが始まるようだぞ。オペラグラス越しに見るのだ」
「誰がアイドルのライブでそんなもん使うんだよ!!せめて双眼鏡だろ!!」
満員の観客で埋め尽くされたライブ会場。
照明が暗くなり、三人の男性のシルエットが映し出される。
そして幕が上がり、真美プロデュースのアイドルたちが走り出て来た。
「イェェエエイ!!お前ら、盛り上がってるかあああ!?」
「……ん?なんかあいつら見たことある気が……」
瞬は目を凝らしてステージを見る。
「イカれたメンバーを紹介するぜえええ!ギターのYOSHIMUNE、ドラムのTSUNAYOSHI、そしてこの俺が、ボーカルのIEYASUだああああ!!」
「おいあれ『BLACK ROSE』じゃねえか!!ロックンロールの世界の!!」
「そうだよ?良いタレントがいるなーと思ったら彼らだったんだよね!知り合いがいて良かったー!」
「アイドルじゃなくないですか!?いけますあれ!?」
「いいからいいから、見てなよ!」
BLACK ROSEの面々は各々楽器を手に取り、激しい演奏を始めた。
「君と出会ったのは満点の星空の下♪
君は寂しい目をしてたね♪
僕はそっと君を抱き締め♪
淡い口付けを交わした♪」
「おい何も変わってねえぞ!!せめてバラード調の歌詞は変えとけよ!!」
「もし君を世界中が敵と呼んでも♪
僕だけは君の味方でいよう♪
約束するよマイガール♪
世界が終わるその日まで♪」
演奏が終わると観客は大歓声。メンバーたちは気持ちを入れ過ぎたのか、その場で泣き崩れてしまった。
「だから何にも変わってねえって!!見たわこれ一回!!」
「でもでも、めっちゃ盛り上がったよね?えっへん!」
胸を張る真美のところへ、第票が拍手をしながら近づいて来た。
「素晴らしいです!!ビジュアル系ロックンロールアイドルとは、斬新でした!」
「アイドルじゃねえだろ!!」
「演奏と歌詞も今までのアイドルに無かったようなもので、とても感動しましたよ!」
「だからアイドルじゃねえって!!」
「私もこんなアイドルを生み出せるように頑張ります!この世界はクリアです!」
「聞けよ!!」
真美はふんぞり返り、ドヤ顔で瞬の方を見る。
「えっへっへー!どうだい瞬くん?先輩を見直したかい?」
「いや見直してはないですけど……。こんなんで良かったんですかね?」
「瞬よ、ダイヤの3をどこかで見なかったか?」
「お前はそろそろ神経衰弱やめろ!!」
「ではダイヤの3を見つけたら次の世界に行くぞ。次は昔話の世界だ」
「ああもうめんどくせえな、全部めくれよ!!」
こうして三人は、アイドルの世界をクリアすることに成功したのだった。




