第48話 不動産屋の世界 その2
「では、まずはこの物件です」
佛健が案内したのは、オーソドックスなマンションの一室。1DKで一人暮らしには十分な広さだ。
「風呂トイレ別、空調とインターネット完備、家具付きのお部屋になっております!」
「うーん、なんかインパクトが足りないよね。浴槽にヒラメとか住んでたりしないの?」
「住んでてたまるか!!風呂入れねえじゃねえか!!」
「我にはこの部屋は少し狭いな。もう少し広い部屋は無いのか?」
城田は特に不満そうで、珍しくマトモな要望を出しているようだ。
「具体的にどのくらいの広さがご希望ですか?」
「最低でも御堂筋線の梅田駅くらいだ」
「お前広さの基準駅なの!?あそこ色々繋がってるから広さ分かんねえだろ!!」
「谷町線の東梅田駅でも良いぞ」
「だからそこ繋がってて分かんねえよ!!これ大阪行ったこと無い人に伝わらねえだろ!!」
「もー瞬くんは文句ばっかり!じゃあ瞬くんはどんな部屋に住みたいの?」
真美が呆れ気味に瞬に問いかける。瞬は話の進行に目が行きがちで、あまり自分で決断をして来なかった。地の文としてはありがたいことだが、キャラクターとしてはもっと自我を持って欲しいところだ。
「おい地の文がリアルなダメ出しすんな!!俺の住みたい部屋ですよね?そうだなあ、一人暮らしには憧れがあるから、落ち着いて暮らせる部屋ならなんでも……」
「ぬるい!!ぬるいよ瞬くん!!ナムルぐらいぬるい!!」
「その例え合ってます!?」
「今どきツッコミ役でもボケられないと、笑いの天下は取れないよ?」
「取ろうとしてねえんだよ!!」
「こだわりが無いなら、そこをもっと強調しないと!例えば「トイレがあればそれで良いです」とか!」
「じゃあトイレじゃねえか!!嫌ですよ俺便所に住むの!」
「ふむ。では間を取ってトイレ付きの水星はどうだ?」
「間からロケットでも打ち上げたのお前!?」
「いや、打ち上げたのはスペースシャトルだ」
「どっちだって良いわ!!なんだ間からスペースシャトルって!!」
「あの……皆さん……お部屋の感想は……」
相変わらず涙目の佛健が恐る恐る話を遮る。
「うるせえな!!今ツッコんでんだから大人しく待ってろ!!」
「ええ!?」
「そうだよ!これ以上話遮ると、私の魔法で目の小じわ取るよ?」
「美容施術じゃねえか!!何ちょっと綺麗にしてんだ!!」
「全く同感だ。これ以上我々の邪魔をするのなら、神の力でその腹の脂肪を取るぞ?」
「脂肪吸引じゃねえか!!なんでさっきから佛健を垢抜けさせようとしてんの!?」
「では次の物件に行きますね」
「お前時々すげえ根性してんな!!」
強引に進む佛健に連れられて、三人は次の物件に向かった。
「しかしこう歩いていると暇に感じるぞ。神スタグラムでライブ配信でもするか?」
「なんだその知らないSNS!!どんな写真が載ってんだよ!?」
「我はその日食べた豆腐をアップで撮っているぞ」
「真っ白じゃねえか!!なんも上げてないのと一緒だろ!!」
「神専用メッセージアプリのKAMINEというのもあるが、見るか?」
「ネーミングセンスが終わってんな!!寝てるみたいになってんじゃねえか!!」
「スタンプだけが送れるシステムになっていてな。五十音が一文字ずつ用意してあるぞ」
「なんだその強制スタ連アプリ!?」
三人が歩いていると、だんだん景色が変わっていく。少しずつ建物や舗装された道路が無くなっていき、気づけばそこは砂だけの世界。そう、砂漠になっていた。
「わお!気づいたら砂漠なんてワクワクだね!ここなら私も砂かけばばあになれるかな?」
「なろうとしなくて良いですからね?」
「それにしても暑いね!ダウン着てこたつ入ってるからかな?」
「ダウンを脱いでこたつから出ろ!!何やってんですか!!」
「我はこたつで丸くなる〜♪」
「歌うな!!お前最近歌ネタ多くない!?」
「さあ皆さん、着きましたよ!」
佛健が指差した先には、大きな三角形の建物がある。砂漠に建つ三角形の建物と言えば……。
「ピラミッドじゃねえか!!墓だろあれ!!」
「わお!これこそ私が望んでた家だよ!早く内見行こー!」
「うむ。一反木綿が出ると良いが」
「出ねえから安心しろ!?」
佛健に連れられてピラミッドの中に入ると、やけに現代的なエントランスが三人を出迎える。
大理石でできた床に、オートロックの自動ドア。佛健は合鍵を出し、自動ドアから中に入った。
「皆さんもどうぞ!」
「なんで中普通のマンションみたいになってんだよ!?」
「わーい!楽しみー!このエレベーターに乗るの?」
真美はそう言いながら勝手にエレベーターのボタンを押す。だが、エレベーターには下方向のボタンしか付いておらず、真美は自動的に下へ行くボタンを押す形になった。
「わお!もうエレベーター来たよ!乗ろー!」
「ちょ、先輩突っ走らないで!」
「我はエレベーターのことを昇降機だと思っていたぞ」
「安心しろ間違ってねえから!!」
「皆さん、地下962階に着きましたよ!」
「深すぎるわ!!え、1階1階が2mmぐらいだったりする!?」
エレベーターの扉が開き、三人はフロアに降り立った。
真ん中に棺のようなものが置いてあり、それ以外は何も無い異様な景色だ。
「わーい!棺開けちゃおー!」
「あ!ちょっとそんな引き出しみたいに!!」
瞬が止めようとするも間に合わず、真美は勢い良く棺を開ける。
するとゆっくりと白い人影が起き上がり、ギギギ……とこちらを向いた。
「ミイラだー!そう!こういうのを求めてたんだよ!」
「うむ。包帯が白くて親近感が湧くぞ」
「もうちょっとビビれよ!!ペットみたいなノリでミイラ扱うなよ!!」
「ご所望の事故物件を用意いたしましたよ!」
「何千年前のだよ!!丁寧に埋葬されてんじゃねえか!!」
ミイラと戯れる真美と城田に笑顔を向け、佛健が話し始める。
「住まいというのは、毎日帰って来る場所。人によって求めることが違います。あなたたちが住まいに求めているのは、エキサイティングな体験だと私は認識しました!人生楽しくないといけませんよね。それは家の中でも同じ!素晴らしい考えです!不動産屋の世界をクリアとしましょう!」
「ええなんか勝手に解釈されて勝手にクリアになったんだけど……」
「住まいとは何だ?秘密裏に敵の情報を得る者のことか?」
「それスパイだろ!!何お前良い話風の時ぶち壊すのが趣味なの!?」
「ねえねえ瞬くん、私このミイラに名前つけたの!ゾンビって!」
「ややこしいわ!!ちょっと飼う前提でいるのやめてくださいね!?」
「我の非常食にもなり得るから連れて行くのはありだと思うぞ。さて、次の世界はカフェの世界だ。ホイップクリームが思う存分食べられるぞ」
「もう食うことしか考えてねえじゃねえか!!」
「さ、行くよゾンビ!」
「置いていけそんなやつ!!」
こうして三人は、不動産屋の世界をクリアしたのだった。




