第42話 電車の世界 その2
ある日、少年は一匹のカニと出会った。
「こんな道端に、なんでカニが?」
そしてそのカニは……
「おいどんは栄吾郎でごわす。よろしくでごわす!」
話せるカニだった!
「栄吾郎はどうしてダンボールに入れられてたの?」
「おいどんが自分で入ったんでごわすよ。見たことの無い岩穴があると思って」
平和に過ごしていた二人の元に、ある日突然危機が訪れる!
「そのカニは食用だ!出荷しなければならない!」
「嫌だ!僕はまだ栄吾郎と暮らすんだ!」
「おいどんは鍋になる覚悟はできてるでごわすよ」
引き裂かれそうな二人は、逃亡劇を開始!果たして二人の友情は、このまま続いていくのか?
「栄吾郎は僕が守るからね」
「だからおいどんは鍋になる準備ができてるでごわす」
「いたぞ!捕まえろ!」
「逃げるよ!栄吾郎!」
「カニ鍋は美味しいでごわすよ?」
「そいつは鍋じゃなくカニ汁にするから!」
これは、少年とカニの友情の物語。
「捕まえたぞ!覚悟しろ!」
「覚悟ならとっくにできてるでごわす」
「栄吾郎ーーー!!!」
『EIGORO』
2025年7月21日 全国上映
前売り券を買うと、カニカマの詰め合わせが付いてくる!映画館へ横歩きで急げ!
電車から降りた真美は
「おいこらいい加減にしろよ!!」
はい?なんですか?
「なんでまだとぼけられるんだよ!!なんだ今の変な映画の予告!?」
何って、『EIGORO』ですけど。
「カニの名前渋いな!!喋り方にクセあり過ぎてなんも入って来なかったわ!!」
子どもと動物の友情物語は映画の題材にしやすいでしょ?定番だよ?
「そうだけどカニは見たことねえぞ!?なんだ最後の「横歩きで急げ!」って!?」
いやそれはカニだから。
「分かってるわ!!なんで観に行く人も横歩きで行かなきゃいけねえんだよ!!「あ、この人これから『EIGORO』観に行くんだな」ってすぐバレるだろ!!」
バレたら何か都合の悪いことでも?
「バレる以前にその謎予告をぶっ込んで来たのが都合悪いわ!!本編早く始めてくれる!?」
ワガママだな。なんでもっと素直に映画の予告を楽しめないの?
「この無駄なやり取りが挟まるからだよ!!ちょくちょく冒頭に関係ないボケぶっ込むのそろそろやめろよ!!」
前向きに検討します。
「しねえ言い方じゃねえか!!早く始められる!?」
はいはい、じゃあ始めますよー。
電車から降りた真美は、早速乗り換えのホームを探し始めた。
「ここが品川駅だから……次は東海道本線だね!何番ホームかな?」
「我は0番ホームだと思うぞ」
「京都駅か!!品川に無いだろ!!」
「サンダーバードに乗ってみたいぞ」
「知らねえよ!!お前なんで特急とか新幹線好きなの!?」
大騒ぎの三人は、周りを歩く人から迷惑そうに見られている。
「ほらめっちゃ見られてるじゃないですか!早くホーム行きましょうよ!」
「じゃあ行こー!T-モバイル・パークだっけ?」
「マリナーズのホーム行ってどうするんですか!電車のホーム行ってくださいよ!!」
「ところでホームとはなんだ?塩味の大福のことか?」
「塩大福じゃねえか!!せめてホームに掛かったこと言えよ!!」
どうにかこうにか東海道本線のホームに辿り着いた三人。熱海行きの電車がやって来て、いそいそと乗り込んだ。
「ふう〜!ここからはしばらく乗りっぱなしだね!暇だから大玉転がしでもする?」
「迷惑極まりないな!!どこにそんなスペースあるんですか!!」
「我はこういう時のためにゲームを持って来たぞ。麻雀なのだが」
「麻雀じゃねえか!!おいこら雀卓出そうとすんな!!」
結局三人はこんな調子で熱海まで喋り続け、熱海駅で浜松行きに乗り換える。
「このまま乗ってれば豊橋まで着くね!じゃあ電車あるあるでも言う?せーの、長い!」
「薄いあるあるだった!!ティッシュくらい薄いな!!」
「ティッシュと言えば白いな。そう言えば白いもの不足でそろそろ消えかかっているのだが」
「ああもう面倒くせえなお前!ティッシュでも食ってろ!!」
「神が紙を食べる、か。共食いにはならぬか?」
「いいからさっさと食え!!」
更に喋り倒した三人は、結局そのまま豊橋駅まで着いてしまった。
「わーい!着いたよー!」
「着きましたけど……なんかなんも無かったですね」
「うむ。もう少し何か起こるのかと思っていたぞ」
不思議そうな三人の元に、高輪ゲートウェイにいるはずの哲堂がやって来た。
「皆様、長距離のご移動お疲れ様です。電車の旅はいかがでしたか?」
「哲堂!なんでいんだよ!」
「はい。私は新幹線で名古屋まで行きましたので」
「ずるいなお前!!」
文句を言う瞬を黙らせ、哲堂は口を開いた。
「さて皆様、この電車の旅の間、皆様はずっと喋っていたのではないですか?」
「え?まあそうだけど……」
「我は喋りながらエア麻雀をしていたぞ」
「何してんだ!!だからずっと手動いてたのかよ!!」
「私はエア大玉転がししてたよ!」
「ほんと迷惑なんでやめてくださいね!?」
まだ喋る三人の様子を見て、無表情だった哲堂は微笑む。
「この電車の旅の目的は、皆様の絆を深めることです。長い長い電車の旅でずっと喋り続けていた皆様は、前より少し仲良くなったのではありませんか?皆様の様子を見ていると、それが感じられます。電車とは、人の思いが飛び交う乗り物。長く一緒に乗ることで、絆が深まるのです」
「絆とはなんだ?アブラナ科の葉野菜のことか?」
「それミズナだろ!!せっかくいい話だったのに!!」
「でもでも、仲良くなったのは本当じゃない?ほら、私たちってもっと睨み合ったり掴み合ったり相撲取ったりしてたじゃん?」
「してねえよ!!相撲は先輩だけでしょ!!」
そのやり取りを見て、哲堂はクスッと笑う。
「やはり少し仲良くなられたようですね。この世界はクリアです。おめでとうございます」
「なんか知らないけどクリアした……。まあクリアならいいか」
「よし。では次の世界へ向かうぞ。次はCDショップの世界だ」
「なんかだんだん規模がしょぼくなってない!?」
こうして三人は、電車の世界を後にしたのだった。
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