第37話 バイキングの世界 その1
城田がドアを開けると、そこはホテルのレストランのような空間。だが、とてつもなく広い。
所狭しと並べられた料理が、見渡す限りどこまでも広がっている。
「わお!まさにバイキング会場だね!早速ちゃんこ鍋を探そー!」
「ちゃんこスタートはやめといた方がいいと思いますよ!?」
「我はもうチャーハンで一皿埋めたぞ」
「じゃあチャーハンだけになるだろ!!計画性皆無かお前は!?」
いつもように騒ぎ倒す三人だが、誰もいない静かな空間でかなり浮いてしまっている。
そんな三人の元へ、コック帽を被ったシェフ風の男が近づいて来た。
「いらっしゃいませ。バイキングの世界へようこそ。私はこの世界の管理人、多部鵬大です」
「食べ放題じゃねえのかよ!!」
「いえ、これは全部食べ放題ですよ?」
「そうじゃねえよ!日本語って難しいな!!」
多部の天然ボケに、瞬は困ってしまっている。そんな中、城田と真美は既に料理を取り始めていた。いや、城田は既にチャーハンで一皿埋まっている状態ではあるが。
「わーい!これ全部食べ放題なんだよね?瞬くんは何取る?イモリの黒焼き?」
「誰がバイキングでそんなもん食うんですか!!食の好みが特殊ですね!?」
「でもでも、イモリの黒焼きって惚れ薬らしいよ!私に使っても良いんだよ?」
「いえ、死んでも先輩には使わないです」
「辛辣!!え、私ってそんなに嫌われてた!?」
珍しくツッコミに回る涙目の真美。普段からボケ倒して瞬を疲れさせている真美は、自業自得である。
そんなやり取りをする二人に目もくれず、城田は一心不乱に何かを盛り続けている。
「おい城田、お前ずっと何取ってんだ?」
「我はゴマ団子の山を作っているぞ」
「何してんだ!!なんでお前だけずっと中華ばっかり取ってんの!?」
「球体に球体を重ねるのが楽しくてな。お前もやるか?」
「何が悲しくてバイキングでゴマ団子の山食わなきゃいけねえんだよ!!食べもので遊ぶな!!」
「そんな瞬くんにイモリの黒焼きを持って来たよ!」
「先輩は黙ってて!!」
追撃虚しく散った真美は、再び涙目でイモリの黒焼きを皿に乗せる。今のところ真美の皿にはイモリの黒焼きだけが幾つか乗っている状態だ。
「ははは、皆さん賑やかで良いことです。エネルギッシュな皆さんを見ていたら、私もお腹が空いてきましたよ」
多部が笑顔で三人に話しかける。
「そういや多部、この世界では俺たちは何をすればいいんだ?」
「ああ、説明を忘れていましたね。このバイキングの世界では、ただ食べるだけではありません。バイキングとは、如何に綺麗にバランス良く盛り付けをするかによって、その人の性格が見えてくるものです。ということで、皆さんには私と盛り付け勝負をして貰います。それに勝てば、この世界はクリアとなりますよ!」
「なるほど!私も盛り付けには自信があるよ!まず小鉢に味噌汁を入れてね?」
「もうダメそうだな!?先輩には期待しないでおきます」
「我はチャーハンにピラフを乗せるぞ」
「米に米乗せんな!!最初に取ったチャーハンはピラフの土台だったの!?」
「それからうどんとラーメンを取り、デザートにパンを幾つか持って来るのが我のスタイルだぞ」
「炭水化物以外も食え!?」
「おやおや?これは私が優勢のようですね?」
自信ありげな多部がニヤリと口の端を上げる。そんな顔を見て、対抗心を燃やす者が一人。真美だ。
「むー!そんな顔されたら絶対勝たなきゃって思っちゃうよ!綺麗に盛り付ければ良いんでしょ?」
「そうですよ?あなたにできればの話ですがね?」
「できるもん!ほら瞬くん!串揚げと手羽先取りに行くよ!」
「もう茶色いじゃねえか!!説明聞いてました!?」
「我は冷奴を味噌汁に入れて食べるぞ」
「じゃあ最初から豆腐の味噌汁食えよ!!なんで無駄な工程入れた!?」
「ははは、私の勝ちは揺らがないようだ。皆さんにはずっとここにいて、永遠に私の料理を食べ続けて貰いますよ」
多部は勝ち誇って高笑いを上げる。シェフのような見た目をしているだけあって、料理の盛り付けには相当自信があるようだ。
「でもでも、シェフって一皿一皿を盛り付けるのは得意だけど、いっぱいの料理を一皿に盛り付けるのはどうなんだろうね?私的には勝ち目あると思うよ!」
「先輩さっきからえらくやる気ですね。バイキングに何か思い入れでも有るんですか?」
「当たり前だよ!バイキングと言えば大食い、大食いと言えば力士、力士と言えば相撲、相撲と言えば私だよ?バイキングイコール私と言っても過言ではないよ!」
「過言だろ!!相撲と言えばのところで一気に飲み込めなくなりましたよ!」
「わお!食べ過ぎちゃったから飲み込めなくなったの?バイキングだけに?」
「やかましいわ!!上手いこと言うな!!」
「我はバイキングと言えばデザートだと思うぞ。我はバイキングと言えばデザートだと思うぞ」
「なんで2回言った!?」
「いや、倍キングになりたくて……」
「やかましいわ!!お前も上手いこと言わなくていいんだよ!!」
相変わらずのペースの三人を見て、多部は不敵な笑みを浮かべる。果たして三人は多部に勝てるのだろうか?そして真美は無事イモリの黒焼きを瞬に食べさせられるのか?
次回「イモリを食べたのは城田」
絶対見てくれよな!
「ややこしいややこしい!関係性おかしくなるからやめろ!?」
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