第35話 海の世界 その1
城田がドアを開けると、そこは南国の島のような景色。真っ白な砂浜に青い海が広がり、太陽に反射して波がキラキラと輝いている。
時折イルカが飛び跳ねる姿も見え、思わず瞬と真美の目は輝いた。
「わお!凄く綺麗なところだね!太陽の光に反射して、まるでゴキブリの背中みたい!」
「もうちょっと他の例えありませんでした!?」
「うむ。我は海に飛び込むのが好きでな。飛び込む度にもがき苦しんでライフセーバーに助けて貰っているぞ」
「泳げねえのかよ!!なんで飛び込んでんだ!!」
「最後の空気を吐き出して気が遠くなる感覚が好きでな」
「お前ドMなの!?」
いつものように騒ぐ三人の元へ、腰布一枚だけを巻いた長髪の男が近づいて来る。
「やあ君たち!海の世界へようこそ!僕はこの世界の管理人、膿野さ!」
「海野じゃねえのかよ!!」
「おっと、そこにかわい子ちゃんがいるね!僕とこの海を見ながら語り合わないかい?」
「いいよー!何について話す?UFOに航空法は適用するべきかについて?」
「海で何話してんだ!!もっとロマンチックなこと話してくださいよ!!」
「では我がジャングルの食物連鎖について語ってやろう」
「お前食物連鎖のことロマンチックだと思ってんの!?」
膿野は三人のペースにドン引きし、真美をナンパすることをやめたようだ。
「はは、じゃあ冗談はこのくらいにして、この世界の説明をするよ」
「おい露骨に話題逸らしたぞ!もう避けられ始めてんじゃねえか!!」
「海で泳ぐ前に目が泳いでるね!」
「やかましいわ!!上手いこと言うな!!」
話題を変えてもペースが変わらない三人に恐怖を覚えつつ、膿野は海の世界について説明を始めた。
「この世界は海の世界!南国のビーチさ!これから君たちには、この海に潜って貰うよ!そして、クジラと一緒に泳ぐんだ!この世界の目的は、海の楽しさを皆に知って貰うこと!クジラと泳ぐのは、その象徴だからね!クジラと記念写真を撮ることができれば君たちはこの世界から出ることができる。ま、この世界より良い世界なんて、他に無いと思うけどね?」
「そんなことないよ!私たちが行った力士の世界は最高だったよ!」
「いつ行きましたそんなの!?」
「我としてはB級グルメの世界が最高だったぞ」
「お前は嘘でも白の世界って言えよ!!」
「いや、白の世界って何も無いから……。暇だから……。お前たちを送り届けると決めたのも、暇だったからだぞ」
「確かに何も無かったけども!!ていうかお前暇つぶしに俺たち連れ回してんのかよ!!早く元の世界に帰せ!!」
もう三人を無視し始めた膿野は、小さなボートを用意していた。
木でできたボートは、ちょうど四人が乗れるくらいの大きさだ。
「じゃあまずは海に出ようか!このボートに乗って行こう!」
膿野がノリノリでボートを指差すも、城田と真美は不満そうだ。
「そんなちゃっちいボート嫌だよ!私たち自分で船出せるからそれしまって!」
「いや先輩の出す船ってフェリーでしょ!?剣の世界でやりましたよそれ!」
「うむ。我も船を出せるからそのボートは必要無いぞ」
「お前はアヒルボートだろ!!まだこのボートの方がマシだわ!!」
「いや、我も成長して他の船を出せるようになったのだ。ビート板とか」
「もう船ですら無かった!!自力で泳ぐ為のやつだろそれ!!」
「はは、じゃあ君たちに船を出して貰おうかな?もし僕のボートの方が良かったら、そっちで行くことにしよう」
「さてはこいつ良いやつだな!?」
膿野の提案に、張り切って腕まくりをする城田と真美。
真美はいつものようにどこからか杖を取り出し、高く掲げた。
「凍てつく氷の精霊よ、我が手に宿り、悪しき者を凍りつかせよ!アイスバレット!」
すると真美の杖の先が光り、海が凍りついてしまった。
「いやちゃんと魔法発動するのかよ!!初めて呪文と魔法が一致したな!?」
「よーし!これで歩いて海に行けるよ!」
「これでどうやってクジラと泳ぐんですか!!早く溶かしてください!!」
真美は魔法で海を元の状態に戻す。今度は時間を戻す呪文のようで、一旦凍りついてしまった魚たちも元に戻っている。
「では次は我の番だな。ちゃんと船を出してみせよう」
城田が右手を上げると、細長い葉っぱでできた舟が水面にちょこんと浮かんだ。
「笹舟じゃねえか!!小川かここは!?」
「だがこれを流すと災厄が流れて行くぞ?」
「だからなんだよ!!俺たちはクジラと写真撮らなきゃいけねえの!!」
「は、はは、じゃあ僕のボートが良さそうだね?さ、皆これに乗って!」
膿野はまたちょっと引きながら、ボートの方へ三人を誘う。
「うーん、でもそのボートはちょっと嫌かなー。オールで手漕ぎするわけでしょ?疲れちゃうよ!」
「先輩腕をゴリラの腕に変える魔法持ってるじゃないですか。あれ使いましょうよ」
「ゴリラでも疲れることには変わりないでしょ?城田さん、もうちょっと良い船出せる?」
「任せるが良い。我の力にかかれば、こんなちんけなボートよりも良いものを出せるであろう」
「さっきからボートの扱いが酷くないかい!?」
膿野が悲痛な叫びを上げるも、城田は無視して右手を上げる。
すると水面に巨大な船が出現。大量のタンクが乗った、平たい船だ。
「おいタンカーじゃねえか!!人が乗る船じゃねえよこれ!?」
「だが乗組員が乗るスペースはあるぞ。ボートよりはマシであろう?」
「なんでボートそんなに嫌うんだよ!!」
「それはボートって名前がね?海の上でボーッとしちゃったらダメでしょ!?」
「めちゃくちゃくだらねえ理由だった!!久しぶりだなダジャレオチ!!」
真美のダジャレが決まったところで、膿野を含めた四人はタンカーに乗り込み、沖に向かって出航した。
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