第30話 瞬の目覚め
城田が白いドアを開けると、そこは公園のような空間。大きな桜の木が何本も生え、レジャーシートを広げた集団が幾つも座り込んでいる。
「わお!これはまさに花見って感じだね!ラフレシアはどの辺で見られるの?」
「誰が花見でラフレシア見るんだよ!!桜あるでしょ桜!」
「我は宝塚歌劇団が見たいぞ」
「そこで見られるのは花組だろ!!本物の花見ろよ!!」
いつもの調子で三人が騒いでいると、40代ぐらいの女がこちらに近づいて来た。
薄桃色のセーターにピッタリとしたジーンズを履き、ロングに伸ばした髪が春風に靡く。
「こんにちは!皆さん、花見の世界へようこそ!私はこの世界の管理人、佐倉木です」
「桜木じゃねえのかよ!!」
「せっかく来たのですから、めいいっぱい楽しんで行ってくださいね!」
「では有難く楽しませて貰おうではないか。早速YouTubeを見るぞ」
「だから花見ろって!!Z世代か!!」
「私は酔っ払ってる滑稽な大人たちでも見てようかな〜」
「何目線!?雪の世界で一人ソリティアしてた先輩の方が滑稽ですよ!?」
賑やかな三人だが、このがやがやとした公園の中では特に目立っていない。
思う存分大声を出せる状況だ。瞬、思いっきりツッコんでね!
「やかましいわ!!そろそろツッコミも疲れてきたぞ!?」
「何言ってるの瞬くん!まだまだツッコんで貰うよ?ほーら朝青龍のアクリルスタンドだよ〜」
「何作ってんだ!!力士のチョイスが古いな!?」
「我も我も〜。見てみろ瞬よ。クッション型の枕だぞ」
「どっちでもいいわ!!それもうただの枕だろ!?」
「城田さん、これが瞬くんだよ!何を言っても反射的にツッコんでくれるの!」
「うむ。優秀なツッコミであるな。安心して花見に行けるというものだ」
「もう疲れたからやめてくれよ……」
疲弊気味の瞬だが、彼は真美の言う通り、反射的にツッコミを入れてしまう体質。
実は彼の父親がボケ気質だった為、瞬は自然とツッコミになってしまったのだ。
瞬が完璧にツッコミ気質になってしまったきっかけのようなエピソードがある。
それは約6年前。瞬が小学5年生だった頃の話だ。
瞬は学校帰りに当時好きだった女の子、大西里佳と一緒に下校していた。瞬がどうしてもと里佳に頼み込み、一緒に帰ろうとなった日だった。
「瀬名川くんはどうして私と一緒に帰りたいの?」
「え?いや、それは……大西さんのことがもっと知りたくて……」
「どうして?私と瀬名川くんってあんまり仲良くないよね?」
「ああいや……それは、なんて言うか……」
瞬が口ごもっていると、偶然彼の父親、瀬名川智也が通りかかった。
「お!瞬じゃねーか!今帰りか?」
「父さん!お仕事はどうしたの?」
「おう!腹が減ったから早退して来たぜ!」
智也は鼻を擦りながら自慢げに言い放った。
その時、瞬の中で込み上げて来るものがあった。初めての感覚に違和感を覚えつつも、瞬は喉まで来ていたその違和感を解き放った。
「そんなことで早退しないでよ!!空腹は体調不良じゃないよ!?」
「おお、いいツッコミじゃねーか!お前も将来有望だな!それよりどうしたんだ?女の子と歩いて。さては誘拐だな?」
「違うよ!!なんで同級生が誘拐するんだよ!!」
「実は俺も子どもの頃誘拐されたことがあってなあ。友達と公園で遊んでたら、親父が来て「もう7時だから帰るぞ!」って俺を連れ帰っちまったんだよ。あれは立派な誘拐だな」
「それはただの帰宅だよ!!帰ったって言っちゃってるじゃん!!」
この時、瞬は快感を覚えていた。矢継ぎ早に飛び出して来る智也のボケに、きっちりとツッコミを入れていく。
瞬は、まるでリズムゲームをしているかのような感覚になっていた。
と同時に、瞬の中には使命感が芽生えていた。
このボケを処理するのには、もっとツッコミのスキルを磨かないといけない。
その時はぼんやりとした使命感だったが、彼の中では既にツッコミとしての役目が心に刻み込まれていたのだ。
これが、瞬がツッコミに目覚めた瞬間である。親がボケ気質なら必然的に瞬もボケ気質になりそうなものだが、彼は自力でツッコミの道を切り開いたのだ。
時は戻って現在。花見の世界では、真美と城田が暴走を続けていた。
「桜ってピンク色だよね!ピンクと言えば桃!桃と言えば桃太郎!桃太郎と言えばお供のケルベロスだよね!」
「犬進化し過ぎだろ!!桃太郎いつの間に地獄の番犬連れてんだよ!!」
「我も地獄を見学に行ったことがあるぞ。その時会ったケルベロスは確か5歳だったが、犬で言うと何歳になるのだ?」
「5歳だよ!!ケルベロスも一応犬だろ!!一応!!」
「あの皆さん、花見を楽しむのは……」
「んなもん後だ後!こいつらにツッコミ入れないとボケが独り歩きしちゃうだろ!!」
今や立派なツッコミ役に成長した瞬は、今日も元気にツッコミを入れる。
世界が終わる、その日まで。
「おい終わらすな終わらすな!!まだ全然最終回じゃないからな!?」
「瞬くん、ずっとそのテンションだと疲れるでしょ?ほら、この脂身の多いステーキでも食べて元気出して!」
「余計疲れるでしょ!!噛み切れなくてイライラするんですよそういうステーキ!!」
「では我が骨の多い焼き魚を出してやろう」
「疲れるベクトルがまた違うな!?」
果たして三人は、この調子で花見の世界を脱出できるのであろうか?




